第12話 運命の日

 ココノツさんに案内され、奥の間に入ったボク。

 ココノツさんは、ただただ優しい顔でボクを見つめていた。


「大きくなったのぅ。幼い時以来じゃ。詠春め、もっと連れてくればよいものを……」

 ココノツさんの口から、詠春という言葉が聞こえた

 その名前は父の名前と同じ名前だった。


「ココノツさんは、詠春という人をご存じで?」

 ボクは気になったので同じ人かどうかを確認したくなった。

 

「当たり前じ。昴、そなたの父じゃぞ? そして妾の愛しい息子じゃ。それをあの忌々しい泥棒猫め!」

 ココノツさんはどうやらボクのお婆ちゃんらしい。

 あれ?

 ボクはアルケニアオンラインの世界にいるよね?

 じゃあ、なんでお婆ちゃんが?


「おぉ、すまぬすまぬ。憎きはあの泥棒猫のメルヴェイユじゃ。孫に罪はない。妾の愛しい息子と同じくらい愛しい孫達じゃからのぅ。それはそうと、まだよくわかってない顔をしておるのぅ? じゃが今はそれに答えることはできぬ。すまぬ。ここで妾がそなたに出来ることは、転職と種族進化への導き、そして抱きしめてやることだけじゃ」

 そう言うと、ココノツお婆ちゃんはボクをその大きな胸に抱きよせた。

 見た通りふっくらと柔らかく、温かくて落ち着く。 


「昴よ、その姿の時は何と名乗っておるのじゃ?」

 ココノツお婆ちゃんはボクの頭を撫でながら耳元でそう問いかけてくる。


「スピカって付けました」

「ほうほう、やはり我が息子の子じゃのぅ。我が息子も星が好きでのぅ。昴に付けたのも星の名前じゃ。詠春がおる日本ではそういう星の集まりがあると聞いて知っておるのじゃ。もちろんスピカという名前にも心当たりがあるのじゃ」

 ココノツお婆ちゃんは、本当にお父さんが好きなようだ。

 ボクだけこんなことしてていいのかな?

 ミナに悪い気がする……。


「なんじゃ? 妹のことが気になっておるのか? 安心せい、いずれここに来るはずじゃから、その時可愛がる予定じゃ。昴は詠春の血が濃く、ミナはメルヴェイユの血が濃い。じゃから、ここでの種族は異なってしまうが、紛れもない兄妹じゃから気にするでないぞ? さて、転職の話をするかのぅ」

 ココノツお婆ちゃんはボクをそっと離すと、転職について説明してくれた。


「道士見習いは、一次転職では道士になる。その先は陰陽師見習いや陰陽師、陰陽頭(ウラノカミ)などへと進んでいくようになる。分岐はあるにはあるが、巫術を扱う巫女は道士とはかなり傾向が異なるじゃろう。じゃが、どれか1つにしか絞れんわけではない、ただ時間はかかるがのぅ。まぁ、そうじゃな、妾達は力よりも術系統の方が強い傾向にある。じゃが、鉄扇や刀、大幣などを使うことによって色々なことが出来るようになるじゃろう。大幣は巫女が持つようなものじゃが、道士や陰陽師であれば、鉄扇や刀が一般的じゃろう。効率よく近接攻撃が出来るようになる」

 今のボクに用意されたルートは道士→陰陽師見習い→陰陽師→陰陽頭といったルートのようだ。

 巫術も気になるけど、近接も出来るようになりたいからそのルートで行こうと思う。


「ふむふむ、どうやら決めたようじゃな。ある程度力が付けば巫術も習うといいじゃろう。陰陽師には式神もあるからのぅ。次は種の進化じゃが、妾達は13歳で性別が確定する種族じゃ。生まれてきたときはどちらでもない状態じゃが、その後の教育や買い与えるもので男性寄りか女性寄りがだいたい決まってくる。恋をしたりしたらほぼ確実にその性別になるのぅ。昴の場合は、完全に中間じゃ。これは詠春のせいじゃのぅ。あやつめ、しっかり教育せず自主性に任せたようじゃ。じゃが、心向きは分かったから、あとは進化任せかのぅ。一応聞いておくが、これというものはあるかのぅ?」

 ココノツお婆ちゃんの話を聞きながらボクは考えていた。

 ボクは本当はどっちなんだろうかと。

 

「希望と言われても、わかりません」


「そうじゃと思ったわ。よい、ならば心の向き次第ということにしようかのぅ。じゃが、後悔してはならぬぞ? よいか?」

 優しいココノツお婆ちゃんは、真剣な顔をしてボクを見据えていた。


「怖いけど、後悔しません」

 どういう風に決まるかもわからないのは怖い。

 でも、今のボクはどっちかも分かってないからふわふわしたような状態で怖かった。

 でも、現実のボクを見ると……。


「不安そうな顔をするでない。すべてが終わったらいいことを教えてあげるから、気楽に考えればよい。そなたは、この、妾の孫じゃ。子ほどにも愛しておる、愛しい孫じゃ。さて、そろそろ始めるとするかのぅ。今日からそなたは始まるのじゃ。妾達がみな通って来た道じゃ。もちろん、詠春ものぅ」

 優しくボクを撫でながら、ココノツお婆ちゃんは諭すようにそう言う。

 そうか、お父さんも……。


「これより、そなたは一時的に眠ることになる。詠春も分かってはおるじゃろうが、一応伝えておくことにしよう。今は安心して眠りや。妾が傍で一緒に寝てあげるからのぅ」

 ココノツお婆ちゃんがそう言うと、ボクは段々と眠くなってきた。


「ねむ……い……」

「起きたらまたここに来るとよい。おやすみ、愛しい孫」

 そうしてボクの意識は薄れていった。


≪キャラクター:スピカの進化に伴い一定期間の休息に入ります。覚醒後、状態を確認してください≫

 ログアウトする直前にそんな案内のシステムメッセージが流れていた。



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 ログアウトしたはずなのに、ボクは無性に眠かった。

 今日は誰もいない。

 帰ってきたら起こしてくれるだろうから、少し眠ろう。

 おやすみ。

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