第11話 初めての転職
今日は8月1日、ボクの13歳の誕生日の日だ。
今日は父も母も仕事に行っているので、家にはボクと兄と妹しかいない。
「昴、俺とミナは午前中、父さんたちの会社に顔出してくるから、留守番頼むな?」
「今日私のコフィン貰えるから、次から一緒にゲーム出来るよ。大人しく留守番しててね?」
賢人兄達は、ミナのコフィンを受け取るために父さんたちの会社に行くようだ。
もうすぐミナも一緒に出来るのかぁ、楽しみだなぁ。
「そういえば昴、今レベルいくつになったんだ?」
「ん? もう10だから転職先選ぼうかなって考えてるよ? 楽しみだよね~」
ボクはニコニコしながら、賢人兄にそう伝える。
「ん~、そっか。もうすぐなんだな。わかった。もしかしたら少し遅くなるかもしれないからな」
「行ってくるね」
そう言うと、二人は出掛けて行ってしまった。
「さて、さくっと転職しちゃいましょうか。転職楽しみだなぁ~」
新しいゲームの最初の転職って、やっぱりすごく楽しみだよね。
ボクはワクワクが止まらないよ!
「さ~て、ダイブ!」
おなじみの掛け声をなんとなく口に出してみる。
でも、こんなこと言わなくてもいいんだけどね。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
――メルヴェイユの街、宿屋203号室――
アルケニアオンラインの世界に入ると、見慣れた宿屋の天井が見えた。
このゲームは安全にログアウトする場合は宿屋で休む必要がある。
アーク兄と一緒にいる時とかは一緒のベッドでログアウトしたものだ。
ログアウトしてる間は寝てる状態になるらしい。
まぁ、いつもボクが先だから見えないんだけどね。
ここ最近はボク一人で宿に泊まることが多いので、周りを見ても今日は誰もいなかった。
ここ最近はアーク兄は宿題やら何やらで忙しいため、一緒に遊べる時間が少なかった。
アーク兄も高校1年生だからねぇ~、仕方ないね!
そんなボクはソロをするか、コノハちゃんに見つかるかの2択が多くなっていた。
なぜかコノハちゃんに見つかる確率が高いんだよね。
「さて、転職はっと。聖堂内の神官からするのか」
ボクはウィンドウの端にあるヘルプから転職の方法を調べていた。
本来なら事前にいくつか選べるらしいんだけど、ボクのキャラクターはキャンペーンの当選情報でそのまま作成した。
なので、同じように選べるかはまったくわからなかった。
「まっ、とりあえず行きますか。途中でご飯でも食べておこうかな?」
ボクは早速、宿屋の部屋から出ることにした。
階段を降りて階下の受付前に差し掛かる。
「おや、スピカちゃんじゃないの。もう行くのかい? いつでも部屋用意してるから気軽に来るんだよ~?」
受付のおばさんとボクは結構仲が良い。
色々とギルドのクエストでお手伝いなどさせてもらっていたせいかもしれないけどね。
そんなことが続いたある日、「お代は要らないからいつでも宿へ来な」と言われてから、そのまま利用させてもらっている。
悪いとも思うけど、これからもお手伝いさせてもらうので、その分で相殺かな?
まぁ、ボクの方が得してる状態になるんだけどね。
「今日は転職するんですよ。初めてなんでどうなるか不安ですよ」
「おや、そうなのかい? 異世界の人は大変だねぇ。良い職業が出ることを祈ってるよ!」
おばさんはそう言うと、ボクにお弁当を渡してくれた。
「ほら、お弁当。お腹が空いたらしっかり食べるんだよ? 気を付けて行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます!」
ボクはそう言うと、宿屋を飛び出していった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「聖堂聖堂っと、あっ、あれかな?」
人ごみをかき分け、大きな建物の間を進んでいくと、白い大きな建物が見えてきた。
聖堂はまだ行ったことがなかったけど、おそらくあそこだろう。
「おっと、入り口に誰かいる? あの人に聞いてみよう」
聖堂と思わしき建物に着いたボクは、入り口に立っている兵士の人に話しかけることにした。
「すいません、ここは聖堂ですか?」
「おや、君は異世界の人かな? いらっしゃい、ここはメルヴェイユ大聖堂だよ。転職なら奥の神官長に伝えてくれればいいからね?」
「ありがとうございます。あの書見台の前の人ですね?」
ボクは兵士さんにお礼を言い、聖堂内へと足を踏み入れた。
うぅ、ドキドキしてきたぞ。
これから新しい職業になるんだ……!
「ようこそ、迷える子羊よ。何をお望みかな?」
書見台前の男性は、近づいて来たボクにそう尋ねてきた。
「えっと、転職をしたくて来ました。こちらでよかったですか?」
ボクがそう伝えると、男性はボクをじっくりと見た。
「うん、問題なさそうですね。異世界の方の転職はあの扉の奥で行われます。あの扉はその人の転職に必要な場所へと導いてくれるので、そちらで条件をクリアしてくだされば問題ありません。適性によっては試験などはありませんので、そう気を張らずに」
神官長は、ボクの頭を人撫でしてから、扉の方へとそっと背中を押してくれた。
「あ、ありがとうございます! 行ってきます!」
笑顔で手を振る神官長に一礼してから、扉を開けてその先へと進んでいった。
「うあっ、まぶしい!?」
扉を開けると、一瞬のまぶしい光の後、見慣れない場所に出ていた。
だんだんと視界が回復してきたので、見知らぬその場所へと歩みを進めることにした。
「いくつかの大きな建物があるなぁ。あの日本家屋みたいな家かな? ボクは道士見習いだから、日本風か中華風辺りだと思うんだよね」
道士や仙人の由来を考えると、その2択になるだろう。
なので、ボクは迷わずその日本家屋へと向かった。
「大きいなぁ。ここがそうなのかな? ごめんくださ~い!」
ちょっと恥ずかしいけど、勝手に入るわけにはいかない。
玄関から声を掛け、家人が来るのを待つことにした。
「客人とは珍しいのぅ、何用じゃ? むむ?」
奥から出てきたのは身長が高く、木崩した真っ赤な着物を着た金髪な美女だった。
赤い眼をしており、綺麗な金髪は腰まで長く伸ばされている。
特筆すべきは、大きな狐耳とふわふわした金色の九本の尻尾だろうか?
おそらく彼女は九尾の狐なのだろう。
「ほぅ、そなたか。なるほどのぅ」
金髪美女は何かに納得しながら、こっちに近づいてくる。
この人、どこかで見たことあるような……。
「よう来た、妾は九尾狐で天狐種の長をしておるココノツじゃ。種族で言えば月天狐(げってんこ)というものじゃ。そなたのことはよ~く知っておるぞ。苦しゅうない、中に入るがよい」
金髪の美女、ココノツさんに導かれてボクは屋敷の中へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます