第7話 依頼を遂行しよう1

「というわけで、この後、狩りしたり依頼受けたりするけど、スピカはそれでいい?」

 アーク兄と合流したボクは、今後の行動を決めるため話し合っていた。

 何故かアニスさんも一緒だ。


「アニスさん、お昼終わったなら自由時間ですよ?」

「自由時間だからここにいるのよ?」

 至極まっとうな理由かもしれない……。

 

「アニスさんはただでさえ人気あるんだから、特定個人と一緒にいると恨まれますよ? 特に俺らが……」

 アーク兄は疲れた顔をしながらそうアニスさんに忠告した。

 人気者って自由がないんだね。


「公私は分けてるので大丈夫ですよ。それにあたしだってこう見えても元冒険者ですからね。強いんですよ?」

「襲われる心配はしてないんですよ。どっちかというと嫉妬の視線がね……?」

「モテる男はつらいね!」

 アニスさんはそう言うとケラケラ笑っているけど、アーク兄はどうやって誤解を解くべきか悩んでいる顔をしていた。


「あ、アーク兄、大丈夫? 掲示板とかで何か言われた?」

 このゲームには、公式掲示板と攻略Wikiが付属している。

 大手のように結構な賑わいを見せているようだ。

 ちなみに、リアルな話は禁止されていないので、近所のコンビニについてのスレッドが立っていたのは見たことがある。


「いや、言われるのはいつものことだからいいんだけど」

「いつもの事なんだ……?」

「いや、そうじゃなくて、アニスさんが狩りの準備してるのが気になってさ」

 ふとアニスさんの腰元を見ると、一本の騎士剣があった。

 あれ? いつもはもってないよね?


「ふっふっふ、午後は一時間ばかり一緒に狩りしようかと思いまして、すでに受けるべき依頼は確保済みなんですよ!」

 犯人はすぐに自供した。

 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 そんなわけで、ボク達は街の外へとやってきたのだった。


 今回受ける依頼はウルフとワイルドボアの討伐で、各20頭ずつだ。


「ワイルドボアは森林でも比較的手前の方に、逆にウルフは森林の奥にいることが多いです」

 森に入ると、何やら見られている気配を感じる。

 

「スピカ、注意しろ。どうやら思ったよりも手前に来ているみたいだ」

「こんな森の手前まで来ているということは、ウルフの群れに追われたか、別の何かが群れを追いやっているのでしょう。調査の必要がありそうです」

 現在いる場所は、街から少し離れた街道の近くにある森だ。


「ほかのプレイヤーは?」

 こんな状況なら、ほかのプレイヤーも喜び勇んで参入してくるはずなんだけど。


「今話してるけど、レベル5以上のプレイヤーはここの広大な森の調査に駆り出されているみたいだ。経験値もお金もいいのが理由だけど」

 アーク兄は何かを考えながら誰かと会話をしている。

 たぶんフレンドの誰かだと思う。


「今、別のパーティーがこっちに向かってるらしい。休憩所を設置して先行調査に向かうぞ」

 アーク兄はそう言うと、休憩所の準備を始めた。

 この『休憩所』は安全が確保された場所にのみ設置出来る結界アイテムで、一定範囲を完全なる安全地帯にして、

 安全な野営地のようなものを設置することが出来る。

 効果時間は簡易で8時間ほど使用することが出来、体力や魔力の自然回復効果がアップする。

 また、かまどと調理器具を同時に使うことによって本当の意味での休憩所としても使うことが出来る。


「ここが集合ポイントになる。効果は8時間だから十分持つな」

 休憩所のもう1つの利点、それは万が一やられた場合の簡易的なリスポーン地点として登録することが出来る。

 休憩所は魔物による破壊を受けることはほとんどないけど、プレイヤーによる破壊は可能だ。


「たぶん、本来は戦争用のアイテムなんだろうけどな」

 アーク兄はそう言うと、早速森の中へと入っていく。

 ちなみに、ボク達はアニスさん以外は全員後衛職に当たるけど、一応剣も使えるので当たらなければ何とかなる。


 しばらく歩くと、不意に茂みがガサガサと音が鳴った。


「ブモモ」

「ブギィィ」

 2頭のワイルドボアが茂みから飛び出してきた。


「やっぱり、探知に難ありだな。どうにかしないとバックアタックされかねない」

「いっ、いきなり出てきた……」

「スピカちゃん、落ち着いて。こういうのはよくあることよ。幸い相手はワイルドボアだからどうにでもできるよ」

 ボク以外の二人は落ち着いて戦闘態勢に入っていた。

 ボクも急いで体勢を整る。


「遠距離なら楽なんだけど、まぁ仕方ない。【ソーンバインド】」

 アーク兄は一頭のワイルドボアに【ソーンバインド】を使用した。

 この魔術は拘束系魔術で、相手の身体に茨を巻き付け拘束するというものだ。


「ブギギィィ」

 一頭が拘束されたのに怒ったワイルドボアがアーク兄に突進した。


「猪突猛進ってね。3頭いたら厳しいけど、2頭なら常套手段だからな」

 そう言うと、アーク兄は突進してきたワイルドボアをひらりとかわす。


「魔術師だからってとろいと思ったか? こちとら剣士の心得もあるんでね! 補正がないだけで動きは同じさ」

 そう言い放つと、突進しすぎて樹木に激突したワイルドボアを背後から切り伏せた。


「ブギィィ……」

 切り裂かれたワイルドボアはそのまま沈黙した。


「スピカ、バインドが切れる前にやれ!」

 アーク兄がボクに攻撃指示を出す。


「わかった。【風符】! いっけぇぇぇ」

 符を取り出し風の効果を念じて宙に放ると、そこから風の刃を3刃生み出し、ワイルドボアを切り裂いた。


「プギィィ! プギィィ!」

「まだ浅いか。【雷符】! 傷口にちょっとしみるかもしれないけど、ごめんね!」

 HPは半分ほど削れたようだが、まだ足りなかったようで、拘束されながらも激高していたワイルドボア。

 次に放ったのは稲妻を放つ符を2枚だ。


 ズガン 

 ズガン


 2つの稲妻がワイルドボアに襲い掛かると、ワイルドボアが撃ち抜かれ焼け焦げた臭いを放ちながら沈黙した。

 

「道士見習いは転職するまで大変だな。とはいっても、2つの術で何とか仕留めたか。こいつらイノシシだけあって体力は高いんだよ」

 アーク兄はそう言うと、死んだワイルドボアを収納した。

 あとで解体するのだろう。


「二人とも結構強いですね。駆け出しとは思えないくらい」

 ベテラン冒険者でもあるアニスさんは、ボク達の実力を見て複雑そうな表情をしている。

 でも、褒めてくれるんだけどね。


「あっ、レベル上がった!!」

 気が付けば、ボクのレベルは6に上がっていた。

 やったね!!

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