東方の国のお悩み解決クエスト


 武蔵国の人々が集まる屋敷がメルヴェイユの街中にあるというので、ボクは早速その場所へと向かった。

 人伝に話を聞き、やっとたどり着いたその場所は、東門方面にある平民街の付近だった。

 世界門広場から見て東側にはまっすぐ伸びた一本の道があり、その先に東門が存在している。

 武蔵国の屋敷は中央付近からやや東側で、地味に建物の影に隠れて見えない場所に存在している。

 普段暇な時間に街の人の手伝いをしてはいるものの、この場所については全く知らなかったのだ。


「えっと、入り口付近にいる衛士に話せばいいんだよね?」

 アニスさんの話では、入り口には二人の衛士、つまり門番がいるらしい。

 ただ、その人の特徴を聞きそびれたので、どんな人かまではわからない。


「そこな少女、この近辺で何をしておるのだ? ここは弁慶(べんけい)様のお屋敷であるぞ!」

「うわっ、びっくりした!?」

 付近を見まわしていると、突然背後から大きな声でそう言われたので、ボクは思わず飛び上がってしまう。

 いきなりの大声は心臓に悪いのでやめてほしいんだけど……。


「何を飛び跳ねておるのか!? もしや曲者『まて、左門。見たところ道士見習いであろう? 此度の宣伝の一件で間違いなかろう』いや、しかし……」

 声の大きい大柄な衛士の男性が詰問仕掛けた時、軟らかい雰囲気を持った長身の男性が割って入ってくる。

 どうやらこの直情型の人と冷静沈着な人の二人がここの衛士のようだ。


「君、道士見習いで間違いないかな?」

 黒髪をやや長めに伸ばしている、涼し気な眼をした背の高い男性衛士がボクに問いかけてくる。


「はい。そうですけど、貴方は?」

「おぉ、これは失礼しました。私は山彦という者です。弁慶様のお屋敷で衛士を務めております。そう言う貴方は?」

「スピカです」

 山彦さんはボクの名前を聞くと、柔らかく微笑む。

 そして、巻物を取り出すと何かを探すように視線を動かしていく。


「えぇ、どうやら間違いないようです。ギルドからの紹介通りですね。それにしても妖狐ですか。これはまた……」

 山彦さんはそのまましばし考え込む。

 そして、ぽんと手を打つとボクの手を引いて屋敷の敷地内へと入っていく。


「ちょ、ちょっと!?」

「まぁまぁ、いいですからついてきてください」

 ボクはそのまま引っ張られながら敷地内にある社前に連れてこられた。

 目の前にある社は普通の神社の社くらいの大きさがある。

 そもそも、武蔵国の屋敷の敷地はかなり広めだ。


「おや、山彦さんじゃないですか? どうしました? そんな可愛い子を連れて」

 社の奥から烏帽子をかぶった男性がやってくる。

 その姿は神社の宮司さんのようだ。


「この子は道士見習いのようなんですが、見ての通りあまり上等とは言えない衣服を着ていましてね。そこで、道士見習いに役立つものはないかとここに参った次第です」

「なるほど。そうでしたか。ちょうど二種ほど予備がありますので、それを差し上げましょう。一つ目は烏帽子(えぼし)に狩衣(かりぎぬ)、指貫(さしぬき)に白木の下駄です。もう一つは我々の社の巫女が着ている装束一式ですね。白衣(しらぎぬ)に緋袴(ひばかま)、白木の下駄か浅沓(あさぐつ)になりますが、それでもよろしいでしょうか?」

「結構です。その二種をいただきましょう。代金はどうしましょうか?」

「それでしたら、社の御神体に相応しいものを探してきてくだされば結構です。神霊の類であればなお良しですね」

 ボクを置いて、どんどん話が進んでいく。

 いつの間にかボクの服が二種増え、代金代わりの仕事が追加されようとしている。

 一体どうしてこんなことになってるんだろう?


「あ、あの!」

「あぁ、失礼。実は貴方を見た時にピンと来ましてね。これは先行投資なのですよ」

「は、はぁ」

 山彦さんが何を言ってるのかさっぱりわからない。

 ただ、ボクに何かを感じて協力を申し出てくれているらしいことはわかった。


「それでなくとも、武蔵に縁を持ちそうな方々をこうしてお迎えできたのは大変喜ばしいことです。三十名ほどが宣伝に参加してくださっているので、仲の良い人が出来るとよろしいですな」

 宮司さんが装備品一式を持ってきながら嬉しそうにしている。

 三十人って結構多いよね?


「でも、そんなに来て大丈夫なんですか? その……報酬結構な額になるのでは?」

 今回の依頼の報酬は武器防具一式というなかなかに破格の報酬だ。

 単体でも結構な額になると思うのになぁ。


「えぇ、問題はありません。いらっしゃった方は全員見習いですが、刀士や道士、弓師や薬師等の方々が集まっています。一例ではありますが、皆将来有望な方々なので今のうちに関係を築いておきたいのですよ。報酬は先払いですので、こちらをどうぞ」

 宮司さんが持ってきた装備品の中に、鈍色に輝く扇と刀が入っていた。

 

「あの、これは?」

「あぁ、これは鉄扇ですね。回収した鉄で作っているためそれほど強度はありませんが、攻防には使えます。ただし堅い敵などとの戦いにはお使いにならない方が賢明でしょう。刀は量産品ですが、打刀です。それなりには使えると思いますので、是非お使いください」

 宮司さんからは二つの武器に二つの防具を貰うことが出来た。

 何でこんなに待遇がいいんだろう?

 宣伝って一体何するんだろう……。


「それで、宣伝って……?」

「えぇ。そのことなんですが、来られた方にはお伝えしたのですが、武蔵国の武具を使って街の人々の興味を引いていただきたいのです」

「興味……?」

 なぜ興味を引きたいのだろうか?


「はい、今は闇に覆われておりますが、いずれは貴方方の活躍で晴れるものと考えております。そこで今後の武蔵国とこの国とのことを考え、興味を持ってもらい国同士の交流に繋げていこうという話になったのです」

 つまりは見たことのない武器防具で興味を引き、国の名前を広めていこうという草の根外交なのだ。

 そうしていずれは国同士の大きな交流に繋げて行こうというのが計画の全貌のようだ。


「なるほど、わかりました。いずれ行けるようになった時、色んな人が気軽にお互いの国を行き来出来るようにしたいですもんね」

「おぉ、分かっていただけましたか! なにぶん我等は遠い東方の島国ですので広めなければ誰も知らない国ですから」

 武蔵国はおそらく日本のように独立した場所にあるのだろう。

 縁がないわけではないので、ここは協力しておこうと思う。


「それでは、ご理解いただけたところで依頼の方は達成とさせていただきます。今後何かありましたら遠慮なくお越しください。あと、個人的にお願いしました御神体の件もよろしくお願いしますね」

 どうやら今回は話を聞くだけでいいようだ。

 追加で受注した御神体を探すクエストについてはのんびりやるしかないだろう。

 その分の報酬もボクはすでに貰ってるわけだしね。

 2種類の武具を貰えたので、今後これを活用して戦って行こうと思う。

 でも、狩衣はいいけど、白衣はどうすれば……。

 ボクは宮司さんから貰った巫女服一式を見ながら一人悩むのだった。

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