街の手伝いと東方の国

 最初の狩りから現実では三日ほどが経過していた。

 まだ七月中なので、夏休みは始まったばかりだけどね。

 その間、ボクは街の人のお手伝いやゴブリン狩りに精を出していた。

 最初の狩りの時に出た錆びた長剣を鍛冶屋に持ち込むと思ったよりも喜ばれたので、どうせならと思って狩りまくっているのだ。

 とはいえ、まだ一対一じゃないと厳しいので、ボク単体だとゆっくり狩りが基本となる。

 それに、宿題を早めに終わらせないといけないという使命もある……。


「いつもすまないねぇ、スピカちゃん」

 そう話すのは、よくお手伝いに行く鍛冶屋の奥さんだった。

 なんでも、鋳つぶすのに仕入れたものを仕分けしたりする必要があり、量が量だけにとても手が足りない状態だったとか。

 そこでギルドに依頼を出すものの、冒険者として一攫千金を狙うほうが効率がいいとかで、現地冒険者もプレイヤーも誰も受けてくれなかったらしい。

 お金も安いし当然なのかもしれないけどね。


「スピカちゃんが定期的に来てくれるおかげでだいぶ楽になったし、徐々にだけど街の手伝いもしてくれる人が増えて来たから嬉しい限りだよ」

 鍛冶屋の奥さんはそう嬉しそうに話す。

 実際ボクがちょこちょこお手伝いしている時に冒険者やプレイヤーが鍛冶屋に来ることがあるんだけど、その時に質問されたことがあった。

『安いのに手伝う意味はあるのか?』と。

『安くてつらいのは現実の生活ですけど、ここではその分誰かが助けてくれるから手伝って損はないと思いますよ? 八時間拘束とかじゃないからちょっとした手伝いでも十分だと思います』


「おかげで鉄インゴットも作れるようになったし、粗鉄製だけど鉄防具も作れるようになったわ。鉄はまだまだ足りないけど、これなら街もうちも潤うんじゃないかしらねぇ。はい、これ。主人が貴方にって」

 鍛冶屋の奥さんはそう言うと、ボクに一本の短剣を手渡してくれた。

 とりあえず鑑定してみよう。


 スコーピオンナイフ【レア】

  ATK +20

  毒付与:攻撃時に、一定確率で対象に毒の効果を与える。

  森林地帯奥地に住むアイアンスコーピオンの尾針で作られたナイフ。


 これはいわゆるユニーク武器というやつだ。

 量産品と違って上等な腕を持つ人が製作したり運良く魔物がドロップするようないわゆるちょっと上の中位武器だ。

 ノーマル、レア・ユニーク・レジェンドという風にゲームにはよく見られる分類がされており、その中でもレアというのは、ちょっとだけ性能の良い武器だ。


「うわわ、ありがとうございます!! 一応短剣も使えるからありがたいなぁ」

「おやおや、ニコニコしちゃってまぁ。喜んでくれたようで何よりよ。そんな可愛い笑顔なのに性別がないなんて不思議なものだね。娘としてうちに来てくれていいんだよ?」

 鍛冶屋の奥さんは冗談なのかわからない提案をしてくる。

 ボクは自分の顔を見慣れてるから言われても良くわからないけどね。

 ちなみに、仲の良い人にはボクのことは少し話してある。

 知らないという人は、ボクとの関係度がまだそこまで上がってないというだけの話だ。


「そうそう、まだまだ頑固な人はいるけどこっちから説得しておくから、立ち入りできない場所もそのうち入れるようになるから楽しみにしておきなね?」

「ありがとうございます! やっぱり違う世界の人ってだけでも警戒しちゃいますよね」

 ボク達のやってるお手伝いには、副次効果が存在している。

 それは、立ち入りをお断りされる場所でも親密度次第で入ることが出来るようになるというものだった。

 いくつかはボクのお手伝い中に開放されたりしているので、やはり人付き合いは大事なのだと思い知らされた。


「それじゃ、クエスト受けに行ってきますね!」

「あぁ、いってらっしゃい。またいいの入ったら持ってきてちょうだいね」

「は~い!」

 少しのやり取りの後、ボクはギルドへと走って向かった。



「たのもー!」

 ボクは気合いを入れてギルドの扉を開けた。

 ボクの声に一斉にギルド内の人が振り返る。

 ちょっと恥ずかしい。


「ハッハッハッ、勇ましいお嬢ちゃんだ。立派な冒険者になるだろうな。それくらい堂々としている方が舐められなくていいだろう。それじゃ、おじさんはちょっと依頼こなしてくるから、またな?」

 頭をひとしきり撫でられ、冒険者のおじさんはギルドを出ていった。

 どうやら依頼を受けて出発したらしい。


「おぉ~! いらっしゃい、スピカちゃん」

 嬉しそうにカウンターから身を乗り出し、尻尾を振り振りしているのはアニスさんだ。

 色々と気にかけてくれる編だけど優しい猫獣人の女性だ。


「スピカちゃん結構噂になってるよ? いつもお手伝いしてくれる優しい子がいるって」

「えぇ!? ただなんとなくやってるだけなのになぁ」

 副次効果については後でわかったことだけど、元々は自分の好奇心の為に始めたことだった。

 それがいつの間にか噂になってるなんて思いもしなかった。


「ふふ、可愛いだけじゃなくて優しいだなんて……。もうスピカちゃん大好き!!」

「わっ、やめてよ!?」

 そう言うやいなや、カウンターから身を乗り出してボクを抱きしめるアニスさん。

 

「そうそう、道士って職業はよくわからないんだけどさ。ずっと離れた東方の国の人がこっちに来てるんだよ。武蔵っていう国の人でね?」

「へぇ~。どんな人達なんです?」

 武蔵という名前から大体の想像は付く。

 ただ、どんな人達なのか気になっていた。


「ちょうどスピカちゃんの着てる服をもう少し上品にした感じかな? 槍と剣みたいなのを持った人、杖みたいなのを持った人達がいたわね」

 アニスさんが指を指すボクの服装。

 今のボクの服は、いわゆる初期装備というやつで『見習い道士の狩衣』と『見習い道士の指貫さしぬき』という装備だ。

 平安期の服装のイメージで合ってると思う。


「へぇ~。ということはボクにも使えるもの売ってそうだなぁ」

「そうなのね。スピカちゃんと同じような人達なのかぁ。よく周辺警備してる人に声の大きい人がいて少し苦手なんだよね」

 アニスさんは好奇心から何度か見に行ったことがあるようだ。

 声の大きい人はボクも苦手なのでわからなくはないかな?


「でも、使えそうなものがあるならあとで行ってみるといいかもね。ところでお金大丈夫?」

「?」

「武器にしても防具にしても、結構高いでしょ? 見たところ上等な生地っぽいし、お金足りるのかな~? って」

「あっ」

 ここ最近のお手伝いやクエストでそこそこ貯まりはしたものの、やはり懐事情は心もとない。

 見習い装備から離脱するにはそれなりのお金がいるわけで……。


「ふふ、そうだと思ったわ。一応武蔵にまつわる職業限定での依頼が来てるから、受けてみるといいんじゃないかな?」

 そう言うと、アニスさんは一枚の紙を手渡してくれた。


『依頼内容:武蔵国PR活動。武蔵国について知ってもらうため今回、依頼を出すことにしました。刀士や道士の方は奮ってご参加ください。報酬:それぞれの職に応じた武器防具一式』

 

「どう? ちょうどいい感じだし、やってみたら?」

 アニスさんがこの依頼を推す理由がよくわかった。

 ただで武器防具が貰えるなら、他の仕事よりも圧倒的に高額報酬となるからだ。


「うん、やる!」

「わかった。じゃあ受注の手続きしちゃうね~」

 アニスさんはそう言うと、スキップしながら冒険者カードを持ってカウンターの奥へと引っ込んでいった。

 今回のは職限定ということもあり、参加人数もそう多くはなさそうだ。

 なぜなら、大体のプレイヤーは強さを求めたり効率を求めるもので、前情報がほとんどない職業は避ける傾向にある。

 そういうのは好奇心旺盛な人か、サブキャラクターを作るためにお金を稼いだ人とかになるだろう。

 なお、サブキャラクターの作成はまだ解禁されていない。

 いつになることやら……。


「おまたせ~。これでいいわよ?」

 ニコニコ笑顔のアニスさんから受ける。

 これで受ける準備は整った。


「じゃ、あとで感想聞かせてね?」

「了解。行ってきます」

「いってらっしゃ~い」

 新しい武器防具が貰えるということで、ボクは気分が高揚していた。

 武蔵国の人達かぁ。

 どんな人達だろうか。

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