Twitter300字ss 第四十九回「灯す」

きづき

第1話 神無月の終わり

 「我等が同胞をお助けいただいた御礼に参りました」と、狐に連れ出された私を迎えたのは火事だった。息を飲んだ私のお尻を、宥めるように尻尾が撫でる。

 「よくご覧ください」

 狐に促され、燃える木へ寄ってみれば。赤に黄色に、ぽうっと光る紅葉が風に吹かれ、ちらちらと揺れていた。

 「出雲からお戻りになる神々のため明かりを灯すのです。お帰りは南から順に一柱ずつ。戻られた土地の葉は落ちるので、光の方へ進めば迷わず着けるという寸法です」

 「神様でも迷子になるの?」

 「往路はそんな心配ありませんがね」

 祭囃子の音。動物達のささめきが大きくなる。

 「今はお酒を召してますので」

 現れた神様の御顔は、灯りのせいか酒のせいか真っ赤だった。

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