第4話
俺、真山優季(まやまゆき)は、物心ついた時から、「他の人と違う自分」というのを、自覚していた。それを、「性同一性障害」という名前で呼ぶ、ということを、俺はしばらくした後で、知ることとなる。
特に思春期の頃の俺は、当然のことであるかもしれないが、体がどんどん女の子らしくなっていった。しかし、それについていけない、俺がいた。俺は、男として生きていきたい。スカートとなんか、履きたくない―。俺は、ずっとそう思っていた。
俺の異変を感じた両親が、俺を病院の精神科へ連れて行ったのは、そんな頃のことであった。そして、その時俺は、自分の、「体は女、心は男」という特性を、受け入れた。というより、受け入れるしかなかった。
また、そんな俺であったため、どうしても、俺は周囲と馴染めず、壁を作るようになっていた。それは、中学を卒業し、高校に入学した時も、変わらなかった。そんな俺の心のバリアーをといてくれたのが、藤森理加子(ふじもりりかこ)だったのである。
しかし、俺が性同一性障害であることを、この期に及んで、理加子には言い出せていない。何度も、理加子にだけは分かって欲しい、と思ったが、嫌われそうで、勇気が出なかった。でも、これから理加子は勇気を出すんだ。俺も、頑張らないといけない、俺は理加子を迎えに行く一瞬のうちに、そう心に決めた。
※ ※ ※ ※
そして、俺は理加子を迎えに行き、空港まで車をとばした。案の定、アンケートの効果は抜群で、20時のフライトは、天候不良のため遅れていた。そして、理加子は空港内で先輩を見つけ、
「先輩、私、ずっと先輩のことが好きでした。アメリカに行っても、私のこと、忘れないでください!あと、できたら、私と付き合ってください!」
と、離れていた俺にも分かるような大声で、先輩に気持ちを伝えた。それは、見ているこっちも恥ずかしくなるような光景であったが、どこか微笑ましい、そんな光景でもあった。
実は、その先輩も、理加子のことが気になっていたらしい。
「また、アメリカに着いたら、連絡するよ。」
理加子は、先輩にそう言われた、と後で俺は聞いた。とりあえず、理加子と先輩の仲が、うまくいって良かった、俺は心から、そう思った。
さあ、次は俺の番だ。俺は、一瞬だけ深呼吸をして、理加子に、性同一性障害のこと、あと、俺の素直な気持ちを、伝えようとした。
「あの、実は…。」
「優季って、もしかして、男の子だったりする?もちろん、心の中が、って意味だけど。」
「…、実はそうなんだ。」
「やっぱりそうだったんだ。ごめんね。前から薄々そう思ってたんだけど、訊きそびれちゃった。それに、それって優季の大事な部分だって思ったから、こっちから訊くのも、悪いかなって思って、訊けなかったの。」
「そうなのか。理加子が予想した通り、俺は性同一性障害だよ。」
「そっか。私、理加子と会った時から、何となく、ただのボーイッシュな女の子じゃないなって、思ってたの。
でも、心の中が男の子だったら、好きになるのも女の子なのかな?もしかして、私のこと、好きだったりして?…もちろん、冗談だよ。」
「…実はそうなんだ。俺、理加子のことが、ずっと好きだった。」
「えっ、それは気づかなかった。ということは、私、優季にひどいことしちゃったね。本当に、ごめんなさい。」
「いいんだ。俺は、理加子が幸せになってくれれば、それでいい。
これからも、俺と友達でいてくれるかな?」
「ありがとう、優季。うん、これからも、ずっと親友でいようね!」
「こちらこそ!」
俺たちは、その後握手を交わした。確かに俺の恋は叶わなかったが、理加子の恋は、成就した。俺には、それで充分だった。空を見上げると、アンケートの効果で、降っていた雨も止み、雲の切れ間から、月の光が、俺たちのいる地上を照らしていた。(終)
アンケート 水谷一志 @baker_km
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