第33話「やはり、出たわね」
一同、『イーノ』の言葉を考え込み難しい顔を見せる。
唯一人だけ答えを知っているアリーは、その様子を見ながら、余裕の面持ちで、僕らに6人を説明する。
まず説明されたのは、父親であり、社長の男性だった。
濃緑のスーツや物腰は先ほどのやりとりで良く目についた。
名前は『
社長らしい威厳に満ちた細マッチョな体躯、眉間に深く刻まれた
次に、アリーの叔母にあたり、専務の『
紺色のスーツにメガネをかけ、出来る女といった風体である。歳もまだ若そうで、とてもアリーの叔母には見えない。苗字が違うことから既婚だとは思われる。
3人目は副社長の『
病気じゃないかという程ガリガリに痩せている男性で、何を考えているのかわからない瞳と真っ黒なスーツが相まって、死神の様にも見える。
4人目も副社長で、名前は『
それなりに高齢に見える女性で、柔和な笑みが安らぎを与える。どこどこの母とか呼ばれていそうな雰囲気で、黒のワンピースドレスに花のコサージュが印象的だ。
5人目は、『
バリバリの日本人顔なのは当然なのだが、なにしろアロハシャツを着ているのだ。この次期会長を選ぶというのに、そのメンタルはスゴイと思う。
最後の一人は『
紺色のスーツにこれといった特徴はなく、姿勢も俯きがちだ。
どうして部長になれたのか不思議な程、存在感が薄い。
「さて、参加者の説明は以上になるが、何か質問はあるかな?」
アリーの言葉に、僕もニョニョも首を横に振った。
※
しばらく、この広間で6人は『イーノ』の言葉を考えていると、社長の伊坂さんが、「あぁ!」と何か分かったような声を上げた。
そして、アリーの方を見ると、肩をすくめる。
「まったく父さんらしい悪趣味な答えだ」
たぶん、一番付き合いの長い人物である伊坂さんは、『イーノ』の言いたかった事が分かったのだろう。もしかすると息子に継いでほしいが為にこうした問題形式にした可能性もある。
「まじで社長、もう答えが分かったんですか~ッ!?」
統括部長の番匠谷さんは上司であるにも関わらず、馴れ馴れしく接する。
その事からも、番匠谷さんの性格が分かる。
「ああ、たぶん、みゆきも分かっただろ?」
伊坂さんは、専務であり、アリーの叔母の座谷さんに問いかける。
「そうね。たぶん、あれが答えよね……」
多少自信は無さげではあったけど、答えらしきものは見えているようだった。
「今回、父さんは私達、親族に有利な問題を出したのかもな。だが、3日間あるのは、それ以外の者にもチャンスを与える為だろう。それに、そのモノをここで示さねばならないのだろう?」
「ええ、このギルドスペースの中にあるもので、示してもらいます。外からの持込は厳禁とさせて頂いていますので、万が一外へ出てしまったときの再入場は不可とさせていただいています」
アリーはスラスラと説明を述べる。
そしてその説明に満足したのか、もしくは自身の導き出した答えが正解だと確信を持ったのか伊坂さんは笑みを浮かべた。
「これは、最後まで気が抜けないなぁ!」
一連のやり取りは伊坂さんがまだ答えが分からない他の4人を
そのとき、アリーが
「いえ、なんでもないわ。急にアイテムが送られて来たから何かと思っただけよ。でもどうやら、『イーノ』から差し入れの様だわ」
アリーは6人の注目を集めるよう一歩前へと出る。
「皆様、様々な思考を巡らせているようですが、そろそろ正午近くになります。腹が減ってはなんとやらとも言いますし。ここらで少し休憩になさいませんか? ちょうど、『イーノ』より昼食が届きました」
アリーはそう言うと、6人を食堂へと案内し始めた。
食堂もどこにあるんだと思わせる長いテーブルに純白のテーブルクロスが掛けられている。それぞれが自由に席に座ると、目の前に一瞬でスープが現れる。
ついでに残念な事に、僕ら立会人3人の分は無いようだ。
「ねぇ、ティザン。CTGの中で食事してもお腹は
ニョニョの疑問も分かるけど、このゲームで食事を始めるというのはイコールでデリバリーの注文を意味している。
VRで食べたモノが1時間後くらいには手元に来て実際に食べられるのだ。
ましてや今回は奢りだし、スープ1つ見ても高級だと分かるモノだから、後で来ると思うとゲーム内でも美味しくいただけるだろう。
僕らの分はないので、あくまで想像だけどね。
この場での最上位職である社長の伊坂がまずスープに口をつける。
特にそういうマナーが厳密にあるわけではないが、自然と目上の者が食べてから食べ始めるのは日本人の気質といえるだろう。
これから楽しい食事が始まる。そう思ったその時ッ!
「な、なんだ一体ッ!!」
先にスープを飲んだ伊坂さんが慌てふためく声を上げた。
「ゲージがみるみる減っていく。これはッ!?」
伊坂さんの顔色はみるみる青くなり、HPがゼロになる。
ガシャン!!
スープの皿を落としながら、テーブルに突っ伏すと、そのまま伊坂さんは光の粒子となり消えて行った。
「なっ! 今のは、バカな。なんで、死亡したんだッ!!」
僕の言葉で事態を飲み込めた5人はそれぞれ、スプーンを置き、立ち上がった。
その様子を注意深く観察するアリーは、一言呟いた。
「やはり、出たわね」
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