第32話「ざさばいばる」
その後、アリーから詳しい日程を聞いたところ、明日の10時から3日間行われるということだった。
3日間は月末に訪れる3連休に合わせた為らしい。
僕は午前3時まで浮気調査の張り込みを行い、報告書を仕上げるとCTGをログアウトした。
「ふぅ~」
ヘッドマウントディスプレイを外すと一息ついた。
指を当てて目をほぐすと、時計に目を移す。
思いの外、報告書に時間がかかったようで、もうすぐ4時を指そうとしていた。
「明日の、いや、もう今日か。準備をしないとね」
僕は3日分の食料などを買い込む為、24時間営業のドラッグショップへと
ただ食料を買うだけならコンビニの方がいいかもしれないけど、僕が求めているのはエネルギー効率の良い食べ物だ!
寒々しい夜道を歩いて、遥か遠くから見える無駄に明るい店内を目指す。
自動ドアが無機質に迎え入れてくれ、僕は暖かな店内に入る。
カゴを持つと食料品の手前、バランス栄養食が並ぶ棚で、飽きないよう別々の味のブロック上の食品を入れていく。
次に10秒で飲めるゼリーも大量に入れる。
そこからようやく食品の並ぶ棚へ。
お目当ては、食パンとブルーベリージャムだ。
栄養は食パンだけでも良いのだけど、目の疲れを考え、一応ブルーベリーも摂取する。
他には栄養ドリンクと2Lサイズのお茶とオレンジシュース。
3日間ならこれくらいで充分過ぎるだろうと思う。
ふと、介護用のオムツが目に入る。
「……まぁ、連続で狩り続けないといけない訳じゃないし、今回はいらないね」
僕はオムツの前を素通りし、会計へ向かった。
家へと戻り、自室の環境も整え終わった頃には、空が白んで来ていた。
けれども、これで準備は万全だ。
時計を確認する。
うん。今日も3時間は眠れそうだ。
ベッドへ潜り込むとすぐに眠りについた。
※
翌日、僕とニョニョは事務所にて9時にアリーと落ち合う。
ニョニョはいつもの赤いスーツをピシッと着こなし、僕もいつものコートは仕舞い、スーツ姿になる。
アリーはいつものゴスロリな恰好だけども、今日はフリルの数がいつもより多く、装飾もいくつか施されていて豪華に見える。
「それじゃ、行くわよ!」
アリーと共に向かった、『女王陛下』のギルドスペース。前回通されたのは客間だったようで、今回は全く違うスペースへ通された。
そこは
その扉が、ギギィと音を立てて自動で開く。
アリーは僕らを
「皆様、お待たせいたしました。これより試験を開始します!」
アリーの声に反応し、振り返る6人の人物はそれぞれ、様々な思惑を思わせる表情を浮かべ、アリーへと視線を向けた。
※
アリーは自身よりも年上であろう人々の中、実に堂々と、まるで王族の様な振る舞いで、皆の前へと立つ。
僕らもそれについて前へと自然に出てしまった。
緊張で背中にじんわりと汗をかく中、アリーを見守ることしか出来なかった。
「ワタシが立会人を務めるアリーです。皆様には本名の
アリーは僕とニョニョを名前とどこを買っているかを説明した。
「まず、彼女はニョニョ。客観視と発想力に優れています。それから彼はティザン。記憶力と瞬発力に優れていますわ。二人共、信のおける人物ですので、ここでの事は一切他言いたしません」
僕らの説明を聞いた、男の一人が口を挟む。
「彼らの事は了解した。それで、父は何と言っているのだ?」
言葉の内容から、アリーの父親で、イーノの息子と分かる男は、濃緑のスーツに身を包みゲームの中といえども威厳を感じさせる。
「動画を頂いていますので、まずはそちらを見てください」
アリーが出した動画には、『イーノ』が映し出された。
「さて、皆さんお集まりだろうか。これから3日間通して、今から出す問題の答えを持ってきてもらいたい。そして、3日後、ここで私が用意した答えに最も近いモノを持って来た者を立会人が評価し、一人を次期会長とする。では、その問題を発表する」
『イーノ』が出した問題は、
――私が真に重要だと思うもの。
という曖昧で抽象的なモノだった。
そして、僕と同じ事を6人も思ったようで、困惑の表情を浮かべる。
その瞬間、動画の中の『イーノ』は笑い声を上げた。
「ハッハッハ! どうせ今頃困った様な顔をしているのだろう? ではヒントをやろう。『ざさばいばる』じゃ。それでは皆励むのだぞ!」
そこで、動画は終わり、こうして次期会長を決める試験は幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます