第28話「休息も慈悲も与えず殲滅させなさい!」
薄暗い部屋に、僕とニョニョ、それから数名の人物が一同に介していた。
他の面子は、スティング、『女王陛下』のアリー、『だいあもんど』のぼら、そしてそれぞれに一人護衛として仲間がついていた。
「それで、犯人が分かったというのは本当なのかしら?」
ワンピースドレスに身を包んだアリーが本題を切り出した。
灰色探偵事務所を代表して、ニョニョがそれに答える。
「はい。こちらの所員の調べで、黒幕と呼べる犯人が判明しました」
ニョニョの言葉はあのGvGを知らない者達をざわめかせた。
「おい。黒幕ってどういうことだ。あいつらが犯人じゃないのか?」
GvGに参加していたスティングからしたら当然の疑問を口にする。
「ええ、実行犯は傭兵を名乗る人達でした。今回黒幕の名前を引き出す為の交換条件で彼らの名前は伏せることとなりましたのでご了承ください。
さて、傭兵とはそもそも、依頼を受け戦力を貸す者達の総称です。その彼らが率先して断頭PKを行うとは思えませんでした。これは所員のティザンも同じ考えでした。そこで、その内の1名を尾行し、問い詰めた結果、彼らに依頼した黒幕の名前が浮かび上がりました」
「そんな事情があったのか。だったら、その黒幕ってのは誰なんだ?」
ニョニョは一息置いてから、犯人の名前を告げた。
「ギルド『チリペッパー』のギルドマスター『ウリ』です」
「あら? 『チリペッパー』と言えば、確か」
「ええ、3人目の被害者が出たギルドですね」
「へぇ。何か裏がありそうね」
アリーは目を細め、凶悪そうな笑みを口元に浮かべる。
「ええ、ですが、その裏までは掴めていません。そこで皆様にご相談なのですが、上手く聞き出す良い手はないでしょうか?」
笑顔で強力を申し出たニョニョに対し、アリーは「ぷっ!」と吹き出した。
「あははっ! いいわね貴方! ワタシの好きなタイプよ! ワタシのギルドに引き込みたいくらいね。この面子、もうやる事は決まっているのでしょう!
「あれ? 分かっちゃいました?」
「そりゃあね。ワタシだけならまだしも、『だいあもんど』が来てるんだからねぇ」
アリーは自分が推理したニョニョの作戦をこの場の全員に説明した。
※
僕は再びGvGの戦場に訪れていた。
先の草原広がる戦場とは違い、古城の中がフィールドとなった領土戦だ。
「これはニョニョの作戦におあつらえ向きのフィールドだね」
僕は一緒に転移されてきた仲間を見ると、作戦通りに動き出した。
「皆、僕について来て!」
僕は2人の仲間、スティングとアリーを引き連れ、ネズミを
地図を確認しつつ、味方の動きから敵の位置を予測して動く。
今回は3人と大所帯なので、さらに注意が必要だったが、幸にも古城というフィールドのおかげで隠れる場所には事欠かない。
狙いは本丸。敵ギルドマスターがいるところだ。
「ワタシ、歩くのは趣味じゃないんだけど、誰かおぶってくださらない?」
「ほえ~、お前、いつもこうやって動いてたのか」
アリーとスティングが思い思いに喋るが、流石に高レベルプレイヤー僕の後を難なく付いて来る。
そしてとうとう、ギルドマスターが
ギルドマスターが主に指示を出すのがギルド戦では常識になっている。
稀に、『だいあもんど』みたいに、ギルドマスター不在やより適任者がいた場合に別の人物が行う場合もある。
大規模戦闘において指揮系統を守るのは戦術の基本の基だ。
当然、護衛も少なくない数いる。
「護衛が6人か。本人もあわせて7人はちょっと大変かな」
僕が隙を伺って、不意打ちを
「なっ! 何してるんだぁ!」
僕まで見つからないように最小限の声で叫ぶ。
「あら? もう出ていいの? それならワタシも」
そう言ってアリーまでスティングの側に付く始末。
おぉい!! なんでわざわざ前に出るんだよぉ!
僕の心の声による質問に答えるように、2人は語った。
「不意を付くとか、漢らしくねぇのは性に合わねぇ!」
「女王とは堂々としていてこそよ」
連れて来るメンバーを能力重視で選んで、性格を考慮しなかった僕のミスだと深く後悔したけど、こうなったら仕方ない。僕はサポートに徹して彼らの戦いを見守ろう。
しかし、そんな僕の思いは完全に
スティングの一振りで2人が吹き飛ぶ。
そして向かってくるプレイヤーを近づかせることなく、次々になぎ倒していく。
そしてアリーはそれを優雅に眺め、時折、スティングの体力を回復させたり、能力上昇の魔法をかける。
「ワタシの為に戦え。休息も慈悲も与えず
そう言いながら、スティングに手を貸すアリーのジョブは、
活躍の場はパーティ戦。味方がいなければ非力なジョブではあるが、HP回復や状態異常回復、能力上昇などプレイヤーを助けるスキルが多い。
普通にしていてもパーティでは頼りになる存在なのだが、アリーは味方のHPやスキルの使用時間(キャストタイム)、再使用時間(リキャストタイム)まで管理しており、回復、能力上昇のタイミングが完璧で、他人の画面が見えているのではないかという精度であった。
そんな2人が揃ってたかだか6人程度倒せない訳がなく、本当に不意打ちなんてなくても余裕の勝利だった。
「強いのは知ってたけど、マジでえげつないなぁ」
僕は敵がことごとく光の粒子と化した現場に、申し訳なさを感じながら立ち入った。
とにかくこれで、とうとう黒幕との対面だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます