第27話「時間の無駄だな」

 翌日、僕はニョニョと話し合いの末、とある人物を尾行していた。


 戦闘時にはありえないスーツ姿から、その人物が街から出るつもりがないのだと分かり、安心して容易に尾行は行えた。


 その人物は買い物などを行ったりと普通の行動を取っていた。

 僕は諦めず、尾行を続けていると、不意にその人物は周囲を伺う。その動作は必要最低限なもので、僕でなければ周囲を伺った事すら気づけなかっただろう。そして安全を確認すると、とあるギルドスペースへと入って行く。


「えっ? ここって」


 僕はそのギルドを見て驚愕した。

 そのギルドは、『チリペッパー』だ。

 3人目の被害者が出たギルドに入った人物。


 それはあの傭兵軍団のリーダー『洋平』だった。


 一瞬、謝りに行ったのかと思ったけど、それだったら先に2件目の被害ギルド『スタちゅ~』にも行っているはずだ。そして『リバティ』の傘下である『スタちゅ~』ならその情報はスティングの耳に入ってしかるべきだ。


 それなのにそういった話は一切ない。

 ということは……。


 僕は様々な想像を巡らせ、『洋平』が出てくるのを待った。


 ようやく出てきた『洋平』はその顔に笑みまで浮かべ、とても謝りに来た面構えでは無かった。

 その表情もあり、僕は謝罪の可能性を捨て、スクリーンショットを証拠として撮ってから、『洋平』に話しかける。


「こんばんは。今日は良い日ですね」


 周りから見た場合、何気ない風を装う。


「なっ! お前は」


 僕の顔を見て、焦りと驚きの色を浮かべる。


 営業スマイルを浮かべ、僕は『洋平』へ質問した。


「ここで何をしていたんですか?」


「ああ、それはここのギルドには迷惑をかけたからな。そのびに訪れただけさ。何か変なところでも?」


 あらかじめ見つかったときの事を考えていたのか、よどみなく理由を述べる。


「それじゃあ、他のギルドにまだ行っていないのは何で?」


「それはこれから行くところさ」


 まぁ、そう言うのは目に見えていた。

 どうせ、ここで問い詰めてもなんだかんだとはぐらかすだろう。

 それならいっそ!


「じゃあ、今から、『クイーン』と『スタちゅ~』に行きましょう! 僕も付いて行きますから!」


「いや、今日は日取りも悪いしな、後日にするさ」


「いえいえ、善は急げと言いますから。ほら行きましょう!」


 僕を避けようと、右へ左へと動く『洋平』の前に常に先回りし、行く手を阻む。


「どけよ」


 『洋平』は静かに威圧的に告げるけど、その程度で怯むかっ!


「どいても良いけど、それは他ギルドに行く場合だけですよ」


「はぁ~~。時間の無駄だな」


 長いため息と共に、そう言った『洋平』は近くの椅子を指差す。


「とりあえず、座って話そうぜ」


 仕方なく僕はそれに従う。


「お前の魂胆はこうだろ? 自分を他のギルドに連れて行ってそこで拷問してでも吐かせる。内容は傭兵である自分らがなぜ断頭PKをしたかかな?」


 僕は頷き、言葉を続ける。


「僕の予想では誰かに依頼されていると踏んでます。だから、今日一日貴方を尾行させてもらっていました。そして唯一接触があったのが、ギルド『チリペッパー』でした。たぶん、そこのギルドマスターあたりが依頼人ですかね。ただ目的が不明なんです」


「かなり迫っているんだな。それなら拷問されるよりかは、ゲロった方が楽そうだ。ただし、傭兵にも信頼ってもんがある。自分が言ったという事を言わなければ、全部喋ってもいい」


 僕は驚きで目を丸くした。

 まさか、こんなにあっさり行くとは。


 本当なら、『クイーン』でのフルボッココースとか、24時間365日監視コースとか、ネガティブキャンペーンコースとか、全部で13個くらい嫌がらせ、もとい拷問方法を考えていたんだけどね。


 その辺りももしかしたら見抜いた上での対応かもしれない。


 そして、『洋平』から語られた話はこうだった。



 当初はギルド『チリペッパー』のギルドマスターだとは知らず、ローブで顔を隠した男からの依頼だった。

 『洋平』は本名を名乗らない相手の依頼は受けないというルールを課していたらしく、名前だけは判明していた。

 その人物が言ってきたのは、頭文字がいろは歌の順になるように断頭PKを行うようにという奇妙な依頼だった。さらにどこのギルドと対戦するかも指定された。


 仲間には反対する者もいたが、最終的に金で解決した。それだけ法外な報酬だったのだ。

 

 1人目、2人目と断頭PKを成功させ、3人目のギルドバトル時、傭兵らは気づいた。

 そこのギルドマスターと依頼人の名前が一致していることに。

 そしてギルドマスターも見られた事に気づいたのだろう。その日のうちに追加の料金が支払われたそうだ。


 それを洋平らは勝手に口止め料だと思い受け取ったし、たぶんギルドマスターもそのつもりだったのだろう。


「だが、何も言われていないからな。言わなかったのは言って得になる相手がいなかったからだし、こうして必要に迫られたなら、金のことはとぼけて、言っちまうさ。何も言われてないからねぇ」


 完全にクズな発言だけど、そのおかげで今は助かっている訳だ。


 全ての事情を知っているように思えた『洋平』だが、なぜこんな事を頼んで来たのかまでは知らなかったし、聞かなかったそうだ。


「ああ、それと最後に、今失敗の報告をしたら、もうやらなくていいと言われた。こっちもこれであんだけの大金が貰えんなら願ったり叶ったりだし、良い依頼だったねぇ」


 許せない部分は多々あるけれど、傭兵とは依頼がなければ何も行わない。その1点だけは信用できる。

 とりあえず、断頭PKなんてものはもう起きないだろう。


 僕は安堵を覚えると共に、黒幕である『チリペッパー』のギルドマスターに、この落とし前をどう付けさせようかと策略を巡らせた。

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