第26話「あそことあそことあそこは任せてよ」

「ほらよっ」


 スティングは僕の短剣を拾うと、投げ渡してくれた。


「ありがとう。助かったよ」


「気にすんな元はといえば俺が依頼したことだしな」


 親指を突き立てながら屈託くったくない笑顔を向ける。

 イケメン過ぎる動作が卑怯だなと思いながら、僕は武器をしまった。


「ニョニョも、もう安全だろうし、このままじゃ、僕の活躍が無さすぎるし、ちょっと頑張ろうかな」


 僕は回復薬を使うと、ゆっくりと立ち上がった。


「あそことあそことあそこは任せてよ」


 僕は地図上の赤く染まった領土ポイントを指差す。


「3ヶ所も行けるのか?」


 僕は自信満々に頷く。


「楽勝だよッ!」



 大規模戦闘にてと呼ばれる戦法が存在する。

 本来なら団結して攻めるのが定石なのだけど、敵味方みだれる隙をついて単騎で見付からないよう敵陣に潜り込み致命的なダメージを与える戦法がネズミだ。

 ただし、これはハイリスク・ハイリターンで見つかった場合は死が確定し、戦力が無駄に1人減る。


 大規模戦闘とはいえ、なんの成果もなく一人減るのはギルドにとってかなりのダメージになる。


 そんな戦法を僕は現在進行中だ。


 地図から読み取れる断片的な情報と、相手ギルドのこれまでの戦い方の傾向を頼りに敵の位置を予測する。


 そして、初めのポイントに到着した。


 僕の読み通り、そこには相手ギルドの旗とたった1人の見張りだけだった。


 相手の視界に入らないよう気をつけ、背後を取ると、短剣で斬りつける。

 急に襲うダメージに混乱している隙にさらに何度か短剣を突き刺し、相手を倒す。


 

 そのまま旗も破壊すると、新たに『リバティ』の旗を掲げる。


 さて、これで僕の位置と行動がバレた訳だ。

 普通のネズミならここまでやれば合格点だろう。


 だけど、僕の目標はあと2ヶ所の奪取だ!!


 領土ポイントが奪われた知らせは、両陣営に知れ渡る。


 その結果、相手からはもちろん、味方もここへ駆けつけるだろう。


 僕は立地からどういうルートで来るかを予想し、両陣営がぶつかるであろう位置で待つ。


 1分後にお互い少数ながらプレイヤーが集まる。

 そして乱戦になると、誰にも気づかれないようスーッとその場を離れた。


 次のポイントまで誰にも見つからずに進むと、今度も先の攻撃のあおりを受けた為か1人しか見張りがいない。


 僕は全く同じ手順で見張りを倒す。

 そして今度は旗には手を出さず、味方陣営の場所へ戻るようなコースで次の場所へと向かった。


 最後のポイントには4人の見張りが居た。

 流石に一人では分が悪い。けれど、見張りの一人を背後から襲う。


 一番HPの低そうなプレイヤーを狙ったおかげでキルする事がギリギリで出来るには出来たが、その結果、3人から発見される。


「ヤバっ!」


 僕は慌てて来た道を戻る。


 途中で後方を確認すると、2人のプレイヤーが追って来ている。


 良しっ! 計画通りッ!!

 伏兵に備えて1人残すのは鉄板の定石だ。だからこの行動しかないと僕は読んでいて、実際その通りに事が進んでいる。


 そして、残った1人がすぐに助けに来れない位置、2番目の領土ポイント近くまで逃げると、今度は迎撃に打って出る。


 急に方向を変え、ターンする。その動きにわずかでも着いてこれない反応の遅い方を見極め、斬りつけた。

 相手が体制を整え、僕を攻撃しようとした瞬間、さらに一撃加える。


 多少のアドバンテージを得た所で、僕はそのまま2対1での戦闘に入る。


 相手は傭兵達よりも練度は低く、一度僕に攻撃を当てる間に2撃ずつ相手へダメージを与えられる位の強さだ。


 僕のHPが半分になる頃、ダメージを与えてあった一人が倒れる。

 1対1になれば僕の独壇場どくだんじょうだッ!

 相手の攻撃はかすりもせず、こちらの攻撃だけを浴びせた。


 そのまま僕は無人となっている2番目の領土ポイントを奪うと、丁度同時くらいに3番目のポイントが青色に変わった。


 実はネズミを行う前に、第1ポイントを奪った際に、3番目のポイントに誰か1、2人程向かうようにスティングに頼んであったんだ。


 たった1人の見張りにまで減らしたんだからこれくらいの協力はアリだよね。


 こうして3ヶ所の領土を奪い、時間いっぱいまで2番目のポイントを守り、戦った。


 その甲斐もあり、GvGは『リバティ』の勝利に終わったのだった。



「流石ネズミのティザンと呼ばれてただけはあるな」


 ギルド戦が終わり、街へと戻った僕にスティングは心底感心したように称賛の言葉を向けた。


「いや、その2つ名は全然気に入ってないんだけど······」


 昔、様々なギルド戦に参加させて貰って何度もネズミに成功したから付いた、一応名誉(?)な2つ名ではあるんだけど。ネズミって······。


「まぁ、兎に角、犯人も見つけたし、GvGにも勝利したし、完璧じゃないか! リアルで知り合いだったらこのあと飲み会でもやりたい気分だぜ」


 スティングはすでにお酒が入っているんじゃないかと思えるほど上機嫌だ。


 けれど、僕とニョニョの表情はいまいちすぐれなかった。

 たぶん、ニョニョも僕と同じ事が引っ掛かっているんだろう。


 犯人が言っていた『』という言葉に。

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