第25話「上手くはないけど、強いよ」

「お前が3人相手に死にそうになってるって事は強いのか?」


「初めは5人だったけどね。うん。上手くはないけど、強いよ」


 僕はスティングの問いに肯定こうてい的に答える。


「なるほどな。5人もまとまって動いてりゃ、目撃者は出づらいな」


 納得したように頷き、次に周囲を観察し、相手の戦法を探る。


「何をされたかは、だいたい分かった。それから、ティザンの言う、上手くはないけど、強いっていうのが卑怯な戦法を取る事ってのもな」


 スティングは脚部に力を込め、大剣を構える。


「まずはお前からだッ!」


 スティングは弾けるように飛び出すと、アサシンへと一直線に特攻する。


「それはティザンの武器だろうがッ!」


 力任せの一撃。

 アサシンは顔面を蒼白にしながら、全力で回避に臨む。


 なんとか攻撃は受けずに済んだが、そのプレッシャーだけでダメージ量が推し量れる。


「バ、バケモノ……」


 アサシンはポツリと無意識に言葉を漏らす。

 普段なら気にも留めないほどの一瞬の遅れが呟いたことによって発生した。

 その隙を見逃すスティングではなく、続けざまに大剣を振るう。


 頭上に掲げられた剣は墓標のように見え、そのままアサシンを襲う。


「うわああっ!」


 アサシンは流石に回避が優れたジョブなだけあってなんとかではあるが、スティングの攻撃を避け続ける。


「今、助けにっ!」


 それを見かねた剣士が動き出すが……。

 これは完全に終わりのパターンだ。


 剣士はアサシンを助けるべく、スティングに斬りかかる。

 確かに刃はスティングにまで到達し、ダメージを与えてはいるが、屈強な肉体には微々たるもので、すぐに横薙ぎにされた大剣の餌食になる。


「グハッ!!」


 僕が少しダメージを与えていたとはいえ、それなりのHPを誇る剣士が一撃でほうむられた。


 その様子を見ていたアサシンは、怯えてはいたが、未だ戦闘態勢だ。

 そして意を決したのか、スティングへと特攻する。


「今のを見て、アサシンなのに特攻か。その心意気や良し!!」


 スティングは大剣を構え、アサシンを待ち受ける。

 もはや破れかぶれで突撃してくるアサシンは恰好のまとと化していたが、その時、足元に転がるものがあった。


「スティング!!」


 僕が叫ぶのと同時にスティングとアサシンの丁度間で爆発が起きた。


 煙が晴れると、そこにはHPをゼロにしたアサシンが光と消えていく。

 そして――。


「効かねぇなぁ。そんな火力じゃあよぉ!」


 スティングは爆弾ごときでは一切折れず、平然と立ち尽くす。


「あいつはテメーの仲間じゃなかったのかよ?」


 怒りをあらわにしながら、スティングは『洋平』へと問いかける。


「おお、おおっ! そんなに怒っちまって。お前の方が可愛げがあるねぇ」


 質問に答えない、ふざけた態度の様子を見て、スティングはそれが答えであると理解した。


「ティザンはお前の事を強いと評したが。俺はお前以上の弱者に出会ったことがないなっ!」


 スティングは怒りに身を任せ、『洋平』へと突撃する。


 振るわれた大剣を軽く避けると、ロングソードで弱いが隙の少ない攻撃を選び、ダメージを与えていく。


「クソがぁ!!」


 スティングは大剣をぶん回し、『洋平』を狙うが、いくらアサシン、シーフより回避が劣る剣士とはいえ、そうそう当たる攻撃ではなく、軽々と避けていく。


「動きが読みやすくて楽勝だな。ハッ。自分が弱いだって? これでもか? 所詮お前が井の中のかわずだっただけだろぉ」


 『洋平』は軽口を叩きながら、回避しつつ、チマチマと確実に攻撃を当てていく。


 そして、そんな攻防が幾度か続いたとき、変化が起きた。


「なかなか、硬いようだが、そろそろキツイんじゃないか? えぇ?」


 そう言って攻撃し、剣が当たった瞬間、まるで予知していたかのように、『洋平』の真横に大剣の一撃が落ちた。


「チッ。外したか」


 スティングは舌打ちしながら、『洋平』を睨む。

 その瞳はまるで野生動物かのような鋭い光を発する。


「う、ぐぐぐっ」


 真横の大剣、そしてスティングの瞳を見た『洋平』は攻めているはずなのに、なぜか、追い詰められたかのような唸り声を上げる。

 そして、次の攻撃を躊躇っていると、そんな事にはお構いなしに大剣が襲い来る。


 反射的に避けて、攻撃を返す。今度は反撃は来ず、一瞬安堵すると、いつの間にか眼前に大剣が壁のように迫る。


「な、なにぃぃッ!!」


 いつの間にか拾っていた剣士の丸盾でなんとかガードに成功するが、軽減出来なかったダメージが襲う。


「おいおい。ふざけんなよ。ガードしても普通の攻撃くらい喰らうじゃねぇか!」


 驚きを口に出し、自身の状態を確認しなければ平静でいられないのだろう。

 以前、スティングと対峙した事がある僕は、今の『洋平』の気持ちが良く分かる。


 さらにスティングは攻撃を行う。

 先ほどまでは簡単に避けられていたが、今に至っては、『洋平』は必死の形相でなんとか避けているといった具合で、反撃なんてもってのほかだった。


「まさか、自分の動きが読まれている? いや、そんな理論で攻撃するタイプには見えないが……」


 その疑問は最もであり、正解だ。

 スティングは野生の勘とでも言うべきもので、相手を捉え、狩る。

 その動きは理論で動くものには理解し難く、同じタイプからは超絶技巧か予知能力に見える。


 とうとう、避けきれなくなった『洋平』のどてっ腹に大剣がめり込む。

 HPの量に関わらず、一撃で全てを奪っていく攻撃によって、オーバーキルをされた『洋平』は地平の彼方にまで飛ばされそうな勢いで宙へ投げ出された後、光の粒子となって地面へ落ちる前に消え去った。


 スティングは自動回復の恩恵もあり、全快のHPで勝利を迎えた。


「ふむ。井の中の蛙か。大海は知らんかもしれんが、天の高さは知ってるんだよ。残念だったな。だから、まぁ、俺の完勝だな」


 当然といった様子で、大剣を仕舞った。


 これが『Change The Game』における最強プレイヤーの1人。スティングの戦い方だッ!!

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