第24話「その程度で仕事してんなら、僕らを邪魔するんじゃねぇ!!」

「武器を取り上げろ! 追いかけろ! 抑えろ!」


 『洋平』はアサシン、シーフ、剣士それぞれに指示を出す。


 僕は心の中で舌打ちをする。

 一番ニョニョに近いアサシンに追わせたなら、僕は武器を拾ってアサシンを追いかけるだけでニョニョを守れたのに。流石に傭兵を名乗るだけあって、そう易々とは行かせてくれないようだ。


 剣士が僕の前へと剣を振り下ろす。

 それを軽く避けると、剣士の首を掴む。


「あなた、さっきから切れが無さ過ぎる。そのレベルでその動きはありえない。……この仕事、乗り気じゃあないね」


「ッ!」


 剣士の男は息を飲む。

 その動作から図星だと伺えた。

 この人はそれなりにいい人なんだろう。でも、だからこそ――。


「その程度で仕事してんなら、僕らを邪魔するんじゃねぇ!!」


 首を掴んだ状態から、足を掛け、そのまま地面へと倒す。


「ガッ!」


 首へのダメージと急な視覚変化によって剣士は防具である丸盾を手からこぼす。

 僕はそれを素早く盗み取ると、そのままシーフへ向かって投擲とうてきした。

 慣れない武器や防具はかえって死を招く恐れがある。それならばいっそ、投擲の弾にした方が余程良い。


 ガンッ!!


 その投擲した丸盾は幸運な事に、シーフへと見事命中した。

 背中への衝撃で、シーフは地面へ転がる。


 剣士へのトドメは刺さず、ニョニョを追いかけるシーフを追う。


 位置取り的にこのままシーフへと直進すると、アサシンが待ち構えている。


「おおおおおッッ!!」


 僕は気合の雄叫おたけびを上げ、一切スピードを落とさず、アサシンへと向かって突っ込む。


 アサシンは短剣を構え、僕を斬ろうと振りかぶる。

 避ける。防御する。先制攻撃を仕掛ける。様々な選択支がある中、僕が取った行動は。


「構うかッ!!」


 そのままダメージを受けるというものだ。

 そして、そのまま、アサシンの横を駆け抜けた。


 眼前にはシーフが迫り、このまま前へ飛び出せば、ニョニョを追うのを防げるッ!


「男のHPは風前ふうぜん灯火ともしびだ。逃げ切るより、殺っちまえ!」


 その指示で、シーフは短剣を構えると次の瞬間、短剣の刀身が紫色に光る。

 毒を付与したエフェクトだ。

 僕のHPは僅か。この場面でわざわざスキルを使う必要がない。あるとすれば、僕の行動を誘導したいのだろう。


 毒付与は攻撃の成否に関わらず、一撃でその効果が消える。

 その為、隙が少なく最も当て易い、刺突しとつが選ばれやすい。

 毒を見れば反射的に突きの動作を警戒するのは上級者の定めみたいなものだ。


 だから、あえて、この場面、僕は突きを警戒しない。


 本来ならば突き対策で、スピードを緩め、左右に動けるようにするところ、僕は真逆の行動をとった。つまり、スピードを上げた。


「なにっ!」


 シーフから驚きの声が漏れるのと同時に腕が横薙ぎに振るわれようとしていた。

 出足が遅い、横薙ぎの攻撃が行われる前に僕はシーフへとタックルを決めた。


 お互い地面へと倒れるけど、僕は瞬時に次の動作に移る。

 シーフの首に腕をかけ背後へと体を回しこみ、首を絞める。


「ぐぐぐっ……」


 リアルで苦しい訳ではないのだが、CTGのシステムで、首を絞められると声が出せないようになる。


 シーフのHPは少しづつだが減っていく。

 しかし、この方法、万全の状態ならまだしも、今の状況では簡単に突破することが出来るのだ。

 シーフもすぐにそれに気づき手に力を込める。


 逆に僕は、その動作を見ると、腕を素早く離した。


 グサンッ!!


 シーフの首元、先ほどまで僕の腕があった場所に短剣が深々と突き刺さった。


「バカなっ!?」


 シーフは僕が腕を離すのは予想外だったようで、自分で自分を突き刺したのだ。

 HPが多ければ、多少刺されたところで、首を絞め続ければこちらが有利を取れるのだが、こうまでHPが低いと、刺されたら終わってしまう。そんなことは重々承知の上での行動だ。


 シーフは僕の行動まで読まず、最適化した行動だけで動いたのが敗因だ。


 毒のダメージも合わさり、シーフのHPが尽きると、その場から消え去った。



 残り3人。

 僕のHPはもはや無いに等しいけれど、あと数秒は意地でも時間を稼いでやる!


「おおっ! あの状態から1人殺るとは、スゲーなぁ。悔しいが、ここから3人掛かりでも、1分は軽く粘られるだろう。だから、ターゲット変更だ。お前を断頭してやるよ!」


 8割方ブラフだろう。僕を動揺させて一瞬で片をつけるつもりだ。

 気を抜かず、かといって断頭に怯えるでもなく、自然体で3人を迎える。


「チッ。ビビッたり、気を抜いたりしてくれりゃ可愛げもあると思えんのによぉ」


 そう言いながら、『洋平』は首で合図をすると、剣士とアサシンは僕の左側に寄る。


「まさか自分みずから動くことになるとはねぇ。お前らは足手まといにならないよう、こいつの集中力を削ぐよう石でも投げてろ!」


 指示の通りに僕へと投石を行うが、その程度ではダメージにならず、ただただ邪魔なだけだった。


「この程度で僕の集中が乱れるとでも?」


「さぁな。自分は出来ることは全てやる主義なんでね。無駄でもやるんだよ!」


 『洋平』は武器を構えると、先ほどまでのイヤらしい指示を出していた人物とは思えない、真っ直ぐな動き。正攻法で僕へと向かって来る。


 絶対に何かしてくる。そう思い僕は身構えていると、まさしく、その通りの行動で、盾を投げつけてきた。


「石つぶての中だろうと、盾を避けるくらい造作も無いよ!」


 僕は体を半身にして、最低限の動きで避ける。


「全く可愛くないね!」


 いつの間にか僕の側まで迫った『洋平』は剣を振るう。


「くっそ!」


 なんとか初撃は避けたけど、相手の追撃の手は止まらない。

 

「もういっぱ~つッ!」


 再び振るわれた剣での攻撃も避けたと思ったその時、『洋平』の懐に爆弾が見えた。


 自爆かッ!?


 咄嗟とっさの判断で、全力で後ろへ跳ぶ。

 ギリギリ爆風から避けられるか?

 微妙な位置ではあったが、直後に起きた轟音ごうおん土埃つちけむり。巻き込まれなかったことに安堵あんどしていると。


 ヒュンヒュン!


 何かが風を切る音。

 それが視認出来たときには、遅かった。


 僕の目の前に、爆破の勢いで飛んで来た盾。


 投石で意識を上に。

 始めの奇襲と、隠し玉の爆弾でもう何もないと、油断を。


 僕が諦め、死を受け入れていると。

 ガンッと鈍い音と共に、盾はどこかへ弾け跳んだ。


「よお。ティザン。守りに来たぜ!」


 人を安心させる声音と共に現れた、大柄の男性。スティングは、濛々もうもうと立ち込める炎と怒りをまとい、犯人たちの前へと立ち塞がった。

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