第23話「……信じてくれてありがとう」
僕と『文字化け』は爆発のダメージを受け、僕はHPを半分に減らし、『文字化け』はHPが0となり光の粒子となり消滅する。
「今の攻撃はっ!? ニョニョは?」
僕は予想外の攻撃と、それによってのニョニョの安否が気になり声を上げた。
「アタシは大丈夫! ティザンこそ大丈夫?」
ニョニョの問いにすぐには答えられず、周囲から現れたプレイヤーの実力を計り見る。
「なんとか、大丈夫かも······」
人数は全員で4人。
見た目から推測できるジョブは、アサシン1。シーフ1。剣士2だ。
実力はたぶん、『文字化け』より少しだけ下だと思う。
今のHPならギリギリでなんとかなるかも知れない。
僕は油断なく、周囲を伺い、相手の出方を見る。
4人のうち、剣士の1人、キャラ名『
「あいつは強かったが協調性がなかった。その上、自分らの情報まで吐こうとしていたな。ま、死んで当然の行いだな」
ギルド戦において仲間ごと相手を倒すことはなくはないが、信頼関係の無い
そのことを弁明するかの様な口ぶりだが、明確に『文字化け』と仲間だと語ったと言うことは。
「あんたらも断頭PKの犯人、なのか······?」
「まぁ、そう言うことになるかな? 自分らは金でなんでもやる傭兵ってところでね」
······傭兵? まるで喉に刺さった小骨の様に、不快な突っかかりを覚えた。けど、その考えは、傭兵軍団のアサシンからの先制攻撃によって打ち消された。
僕は
相手の攻撃を防ぎ、蹴りをかます。
アサシンは僕を脅威と判断したのか一度距離を取る。
そして、今度は、アサシン、シーフ、剣士の3人が同時に僕へと攻撃を仕掛ける。
全てを回避するのは不可能と判断した僕は、アサシンの攻撃をいなし、シーフの攻撃は受ける。そして、剣士が攻撃するよりも早く、返す刀で斬りつけた。
しかし、この判断は一人の時なら正解だったかもしれないが、今は失敗だった。
回避と攻撃に意識を割かれた僕は、最後に残った剣士、『洋平』がニョニョの元へ向かうのを止められなかった。
ニョニョを一度切り伏せて倒すと、追撃を加えようと剣を掲げる。
「させるかッ!!」
僕は駆け、ニョニョと『洋平』の間に壁になるように滑り込む。
ザンッ!!
そして、背中に一撃ダメージを負う。
「女の為に体を張るなんてカッコいいねぇ!」
そう言いながら、『洋平』が首で合図を出すと、シーフが爆弾を投げつける。
「くっ!!」
僕はニョニョを守るように抱きしめ、その場から飛び退く。
着地した先にはすでにアサシンが待ち構えており、僕へと刃を向ける。
僕は相手より先に腕を素早く斬りつけ、一瞬の隙を作り出し、その場から逃げ出す。
「おいおい。違う違う。狙うのは男じゃない。女の方だ。そうすりゃ勝手に喰らってくれるさ」
リーダーと思しき剣士の『洋平』は僕らにとってイヤな指示を出す。
そして、その指示通りに今度は剣士がニョニョへと刃を向ける。
「このっ!!」
僕はニョニョの前に立ち、その凶刃を受け止める。
「ティザン! アタシのことはいいからッ!! アタシだって少しは戦えるから、もう守らないでッ!」
確かに少しは戦えるかもしれない。けれども、僕が一度に相手に出来るのは精々3人が限界だ。
その間、ニョニョ一人で生き残れるとは思えない。
だから、僕は彼女を守る為にウソを付く!
「何言ってるのさ。全然守ってなんかいないよ。ほら、ニョニョがやられちゃうとこいつら居なくなるし、犯人を捕まえる為に僕は動いているんだ。守るためじゃないから。だから、これから僕に何があっても気にしないで」
ニョニョに向かって笑みを投げかける。
「そんな、誰でも分かるウソなんて聞きたくないわよッ!!」
ニョニョの顔は今にも泣きそうだ。
僕が殺られたとしてもただの敗北だけなんだ。ギルド戦ではデスペナルティも存在しない。本当に実害はないゲームの世界なんだから。
それなのに、まるで本当に死ぬかのように心配して。
そう。僕は心配ないんだ。僕は――。
でも、ニョニョは違うッ!
断頭されたら下手したらもう二度と探偵を出来なくなるかもしれないッ! 彼女が僕を導いてくれた道を、こんな犯罪者共に消させやしないッ!!
僕は集中力を極限まで研ぎ澄まし、脳細胞をフル活用する。
地図による勢力図の変化や敵・味方の位置を解析して今後を予想する。
それからニョニョのキャラスピード、僕の耐久値などを計算。
「良しッ! 最善策はこれだッ!」
僕が合図をしたら、ニョニョにアサシンがいる方向へ走り出すよう指示を出す。
「で、でも……」
「大丈夫。僕一人ならどうにか出来るから」
これも完全にウソだ。
このHPでは、どうにかして、時間を稼ぐのが関の山だろう。
まぁ、精々、怒り狂った傭兵達に断頭されないよう気をつけるくらいだ。
「ほら! 今だッ!! 走って!!」
僕は煙幕になるように後方に爆弾を投げると同時にニョニョを走らせた。
ニョニョは僕の言葉の半分くらいしか信じてはいないだろう。
それでも、一心不乱に駆け出してくれた。
その行く手を阻もうとするアサシンに短剣を投げつけ、ニョニョの道を切り開く。
「……信じてくれてありがとう」
煙幕が晴れ、武器も失った僕は傭兵4人に取り囲まれるという危機的状況に陥った。それでもニョニョへの感謝を呟かずにはいられなかった。
「さて、全力の足止めをしますか!」
じんわりと汗ばんだコントローラーをしっかりと握り直し、決意を行動へと変える。
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