第20話「俺がティザンを守ってやるからよ!」

 僕にヒントを与えて満足気なニョニョは、事務所の後ろへと下がると、刺激的な赤いチャイナ服へと着替えて戻ってきた。


 予感は確信へと変わる。

 そんな中、未だに正解に辿り着けないスティングが、説明を求めるように僕を見つめる。


 最初に分かったのはニョニョなんだから、ニョニョに聞けばいいと思うのだが、先日の一件もあってか、スティングは彼女の事をかなり警戒している。


 いつまでも見つめてくるのが不憫ふびんになり、僕は渋々しぶしぶ口を開いた。


「スティング、プレイヤー名の頭だけを読んでみて?」


「ん? 頭だけ? イ、ロ、ハか?」


「ほら、もう分かるでしょ!」


 スティングは少し考えてから、ハッとして声を上げた。


「なるほど! いろは歌だな! 確か昔の五十音の」


「うん。その通りだよ!」


「でも、なんでお前の相棒はあんなになってるんだ?」


 ここまで来れば分かってほしいものだが······。


 僕は説明を続けた。


「いろは歌は、いろはにほへとちりぬるを……って続いていくんだ。もしこれが順番通り被害に合うなら次は『に』が付くプレイヤーってことになるんだよ。あとは偶然かもしれないけど、2文字目も全員、それだけでは読めない字、伸ばし棒や小さい文字の拗音ようおんになっているんだ。で、その条件にニョニョは完全に当てはまってるんだよね」


「なるほど、それであの女はおとりになろうってしているのか。そんで、お前はそんな困ったような顔をしていると」


 えっ? 僕ってそんな困った顔をしていたのかっ!?

 確かに困ったとは思っていたけど。


「いいんじゃないか? 別に囮にしても」


「ちょっ、スティングそんな簡単に!」


 僕は身を乗り出して詰め寄った。


「お前が心配する気持ちも分かるが、でもお前が護衛に付けば問題ないだろ? 相手は確かに熟練者かもしれないが、所詮1人だろ。1対1でお前に勝てるプレイヤーがいるとは到底思えないがな」


 1対1で僕に勝てるスティングの言葉だといまいち説得力に欠ける。


「ふふんっ。あんたも良いこと言うじゃない。大丈夫よ。アタシだってスゴク弱いわけじゃないし、ティザンなら守りきってくれるだろうしね。それにアタシのメンタルなら断頭くらいどってことないわよッ!!」


 こうなったニョニョはテコでも動かないからな。

 僕は2人の言うとおり、ニョニョを全力で守ることに意識を切り替えた。


「さて、それじゃ、今後の方針も決まった事だし、犯人をあぶり出すか」


 スティングは巨大な体躯を持ち上げ、ソファーから立ち上がると最後に付け加えるように言った。


「大手ギルドはうちの『リバティ』を使ってくれ。それと、ティザンはその女を守れ、俺がティザンを守ってやるからよ!」


 解決の糸口が見えたからなのか、ニッと笑みを浮かべるスティングは普段の人懐っこい様子に戻っていた。

 しかし、そんな格好良く守ってやるだなんて言われたら、女だったられてるところだよ!



 僕らは『リバティ』のギルドに臨時で入ることになった。


「お前らよく聞け! 今日が『ローリング』のとむらいい合戦になるかもしれんッ! その為に重要な2人を紹介する。1人は知っているやつもいると思うが灰色探偵事務所のティザンだ! 昔はネズミのティザンとか無音のティザンとか呼ばれていた!」


 おおおっ!! 止めてくれ! 誰かが勝手につけた2つ名で呼ばないでぇ!!

 僕は場の空気を壊さないよう心の中で叫んだッ!!


「ティザン。そんな風に呼ばれていたのね」


 ニョニョにバレた。死にたい。


「2人目は同じく灰色探偵事務所のニョニョだ。彼女は今回、囮役を買って出てくれた。彼女の為にも犯人を逃す訳にいかんッ!! 全員気を引き締めていけよッ!!」


「「「オウッッ!!!!!」」」


 ギルドのメンバーはニョニョの勇気を称えるように一同返事をした。


 それからブリーフィングタイムに入り、フォーメーションとか色々言われるかと思っていたけど、そんな事はなかった。


「今回のGvGは領土戦だ。ギルドメンバー以外もいる。複雑なフォーメーションは無しだッ! 目の前の敵をぶっ潰せッ!!」


 領土戦とは時間終了までに多くの領土を取っていた陣営が勝利となる方式である。各領土にはギルドの旗を掲げられるようになっており、相手の領土になった場合はその旗を破壊し、自陣の旗を立てると奪ったことになる。

 CTGのギルド戦は基本死亡したキャラは観戦しか出来なくなる為、小さいチーム単位での連携が重要な戦いになる。


 スティングは流石ギルドの長をしているだけあり、急ごしらえのチームがどれだけもろいか分かっているようで、そもそも僕らを数に入れない指示を出している。

 それに先に士気も上げてあるし、この指示だけで、全員が最善の立ち回りをするだろう。


 あとは僕らが犯人と遭遇出来るかに掛かっていた。


 ブリーフィングタイムはあっという間に終わり、開始の合図が鳴り響く。

 転移が開始され、僕らは小高い丘へと揃って移された。


 こうして断頭PKの犯人を炙り出すGvGの幕が切って落とされた。

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