第21話「アタシ頑張って襲われるわ!」
小高い丘の上に集まった僕らの上に領地に出来る場所が地図として表示される。
相手の配置は不明だが、こちらのメンバーは青い点として表示されている。
ついでに相手の位置を知りたい場合はメンバーの誰かが目視していると赤い点として表示される。
こういった役目を本来、僕みたいなアサシンやシーフといった隠密と機動性に優れたジョブが行うのだけど、今回の僕の役目はニョニョを狙って来たプレイヤーを倒すことだ。
さて、どこに行くのが一番狙われ易いだろうか?
勝利する為の行動なら完璧にこなせる自信はあるが、あえて狙われに行くというのは経験がなく、全体の動きを予測し辛い。
僕が数秒悩んでいると、ニョニョが手を伸ばし、ある一点を指した。
「ねぇ、ティザン。そこなんてどうかしら?」
ニョニョが指差した場所は左端に位置する領土ポイントだ。
あまり率先して取りに行く場所でもなく、プレイヤーもまばらにしか集まらないんだけど。
「そうだね。ありえるかもしれないッ! プレイヤーがあんまり集まらない場所ってことは、目撃者も出づらいってことだね」
「ええ、ある程度賭けになるとは思うけど」
「元より賭けだし、ミスっても失うのは時間だけだからね」
僕とニョニョは行き先をスティングへと伝えると、急いで向かった。
※
こういった端に位置するポイントは取っても他のポイントにまで行くのに時間が掛かり、援軍に行くのが難しくなる上、援軍に向かったら向かったで、すぐに相手に取られる場合が多い。だから――。
「やっぱりまだ誰もいないみたいだね。あっ。ニョニョ、ギルドの旗はまだ立てちゃダメ――」
僕がダメだよって言おうする間もなく、ニョニョはギルド『リバティ』の旗を立てた。
「えっ? 何か言った?」
「あ~、えっと、もう遅いけど、一応聞いてもらってもいいかな? 僕の精神衛生の為に」
ニョニョは不思議そうな顔を見せながらも、聞いてくれるようだ。
「ギルドが領土を押さえると、上に表示されている地図にも表示されるんだよ。自陣は青に敵陣は赤にね。ほら、今僕らがいるところ青に変わったでしょ」
「ええ、そうね。で、それが?」
「ここにプレイヤーがいるのがバレたよね。そうなると、数的優位が相手側にあることを教えたってことになるんだ。意味分かる?」
「ええ、そうね。良く分かったわ」
分かったのかどうかいまいち分からないニョニョだったけど、数秒後、ギルド内にだけ発せられるメッセージで、盛大に、「ごめんなさいっ!!」と謝っていた。
そんな素直なニョニョに対し、『リバティ』の面々からはかなり好意的な返事ばかりが返って来ていた。
「まぁ、やっちゃったものは仕方ないしね。逆に考えよう。断頭PKを狙っている相手が居るなら、狙われ易くなったとプラスにね」
「そうね、ありがとう。アタシ頑張って襲われるわ!」
さて、僕も切り替えて、準備をしよう。
そして、僕は少し離れた位置に穴を掘り始めた。
「え? どうしたのいきなり。アタシ別に穴があったら入りたいとか言ってないわよ?」
「いや、そうじゃなくて、ちょっとした小技なんだけど」
僕は人が一人分入れるくらいの大きさの穴を掘ると、そこに寝そべった。
それから体に土を掛け、地面と同化する。
「こうすると、相手から表示されなくなるんだ。一応シーフのスキル、
「エルク……、それで盗撮とかしてないわよね?」
ニョニョの声音がマジのトーンなので、僕は慌てて否定する。
「するわけないでしょ! だいたい表示されないだけで、近づいたらプレイヤーって分かるからッ!! それと本名言うなッ!!」
ハァハァ、一気に喋り、息が上がる。
それからは相手プレイヤーが攻めて来るまで、ひたすら待ちに
しかし、それほど待たずして、相手ギルドのプレイヤーが現れた。
そのプレイヤーは男性で、ズボンにチュニック、首にはマフラーが巻かれただけの軽装だった。
そんな服装で戦場に来れるジョブは、シーフかアサシンの2つだ。犯人はシーフ、アサシン、剣士のどれかと踏んでいた為、犯人である可能性が少なからずある。
僕は気を引き締めつつ、穴の中から相手プレイヤー名を伺う。
相手プレイヤー名は『fdsw@fでs』。なんて読むんだ?
僕が読み方を不思議に思っている間に、『文字化け』はニョニョを見ると歓喜の声を上げた。
「おおっ! ついてやがるぜ! まさか『ニ』にこんな早く、しかも
これはっ! こいつはっ! まだ僕らしか知り得ない情報を
「あなた、もしかして、断頭PKの……」
ニョニョは怯えた様子を見せながら、相手の言葉を誘う。
「あぁん。随分察しがいいな。その通りだぜ。断頭PKをしているのはオレだ」
男は
「させるかッ!!」
僕は穴から飛び出すと、ニョニョを守るべく、『文字化け』にタックルを行う。
「ハッ! バレバレなんだよぉ!!」
しかし、そこで男は、方向をクルリと変え、僕の方を向き、剣を振るう。
「オレはシーフだぜ! あんなバレバレな罠一目瞭然なんだよぉ!」
僕は構わず冷静に短剣を抜き出し、男へと斬りつける対処を行う。
僕と『文字化け』の剣は互いに交わり、火花を散らした。
「僕は見ての通りアサシンだけど、シーフがアサシンに勝てるとでも?」
「思ってるね! ようは必要なのはレベルと腕だろうがッ!!」
力負けした僕は弾かれる前に、威力をいなすように後ろに跳んだ。
「いいぜぇ、お前、レベルも腕もそれなりのようだな。来いよっ! 掛かって来いよぉ!!」
大声を上げ、挑発する『文字化け』は顔にイヤらしい笑顔を貼り付けている。
一方、僕は、相手の予想外の実力に、頬に汗が伝う。
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