第15話「釘を刺しておこうかと思って」
「それじゃあ、試してみよう!」
僕の言葉と共に、ゴビーは簡易転移装置と呼ばれるアイテムを取り出した。
街の中のみ使用でき、どこからでも街の転移装置へ移動出来るという代物で、大手の企業が経営する店舗にはお客様のお帰り用に置かれている。
「とりあえず、まずは普通に転移して出来なくなっている事を確認するね」
僕は簡易転移装置にアクセスすると、周囲に魔法陣が浮かび、僕を包み込む。
本来ならこれで転移装置にまで移動しているはずだけど……。
果たして僕はそのまま、ゴビーの事務所の屋上に居続けた。
「ちゃんと、モンスターだけでなくプレイヤーにも転移阻害は作用するみたいだね。あとはタイミングを上手く合わせられるかだね」
僕は普段の転移のタイミングを思い出しつつ、もう1度簡易転移装置を起動させる。
チャンネル選択の画面を開きつつ、全身が魔法陣に包まれる瞬間を待つ。
あと、2秒、1秒、今だッ!!
チャンネルを変え、誰もいない屋上へと出る。
その瞬間、ポォーンとアナウンスが響く。
「テスターゴビーの事務所、家主は現在チャンネル1へ居ます。御用の方はチャンネル1までお越しください」
客人が迷わないように、チャンネル違い、不在時にはこうしてアナウンスが流れる。
細かい事だが、こういったシステムもCTG内での買い物が普及した要因の1つだろう。
「とりあえず、チャンネル移動は上手く行ったようだけど、問題はニョニョ達に僕が転移したように見えているかだね」
再び、僕はチャンネルを移動した。
※
「で、どうだった?」
戻ると開口一番に僕は2人に尋ねた。
「ちょっと早かったわね」
「ティザンくんじゃなくても出来てるんだから、タイミングは結構ゆるいと思うよ」
2人の声は失敗を告げるものだった。
「くそっ! もう1回だ!」
今度は2人の意見を参考に、完全に魔法陣に覆われてからチャンネル変更を行う。
再度戻ってきた僕に対しての反応は、
「すごい。ちゃんと転移したように見えたわよ!」
ニョニョは親指を突きたて、成果を報告してくれた。
「これは、ボクも知らない使用法だったね。ちょっとの練習で出来そうだし、企業に売り込めば小銭くらいには……」
真剣にぶつぶつ呟くゴビーの態度からも成功したことが
これであの『青唐辛子』の鼻を明かしてやれる!
「それじゃ、ここにもう用はないわね! 明日に備えて今日は早く落ちましょ」
ニョニョは僕の手を引いて扉へと向かう。
「それじゃ、ゴビー世話になったよ! ありがとう」
僕は去り際に一言挨拶をすると、ゴビーはすでに今回の件に夢中になっているようで、無視された。
それから僕らは、にゃぽ~んさんに報告をしてからログアウトした。
僕は一息付くと、ヘッドマウントディスプレイを外す。
そしてふと、ニョニョに掴まれた腕を意識してしまう。
「……ボディスーツ型のコントローラーだったら」
そんな
「わぁ!! な、なんだ、こんな時間に」
ディスプレイを確認すると、
僕は直前の行動から少し後ろめたくなりながらも電話に出た。
「エルク、今、変なこと考えてたでしょ?」
「な、なんで?」
女々が鋭すぎる! エスパーか何かかな?
「アタシがベタベタ触ったからね。一応釘を刺しておこうかと思って」
「へ、へ~、そうなんだ。全然そんな事ないから大丈夫。そんな心配しなくても」
「そう。そうなの……」
なぜか女々の声が沈んでいるように聞こえるのは気のせいかな?
「とにかく明日が勝負なんだから気張っていくわよ」
「うん。了解」
それで通話が終わると、僕は急いでネットショッピングの画面を消すと、地獄のように熱いシャワーを浴びてからベッドへと潜った。
※
翌日は良く寝た為か、爽快な気持ちでCTGへとログインした。
にゃぽ~んさんからターゲットがログインした通知はまだなく、ニョニョのログインもまだだった。特にする事も無いので僕は街の様子を眺めて待つことにした。
適当な壁へと背を預け、流れていく人々を観察する。
暇な時はこうして街を眺めることが多かったのだけど、意外にもそれが今の探偵業に少なからず役に立つことがあるのだ。
自然と、この時間帯に入ってくるプレイヤーはだいたい覚えて、勝手に馴染みがあるような気持ちになる。芸能人の事を良く知った相手のような気になるのと同じ感覚だ。
これが人探しの際にはとても役に立っている。
「ありゃ? 良く寝落ちしてる人が今日はいないな。珍しい。まぁ、リアルがあるし
いつもと違う街の様子につい独り言を口走っていると、ニョニョがログインした通知が入る。
僕は挨拶もそこそこに事務所へと集合する。
「今日が勝負のときね」
僕は
どうやらニョニョににゃぽ~んさんから連絡があったようだ。
今回はニョニョが最初に張り込みし、チャンネル変更後を僕が追うという作戦になった。
僕はチャンネルを変え、転移装置の近くへと向かった。
転移装置の周囲が見えるような場所へ陣取ると、『青唐辛子』が転移しようとする連絡を待った。
「ティザン。行ったわよ!」
ニョニョからの連絡に気を引き締める。
見るべきは、この瞬間、湧き出るように現れる、チャンネル変更のプレイヤーだ。
スッ!
突如現れたプレイヤーに注意を向ける。
ネコミミにコート。名前も『青唐辛子』。ターゲットだッ!!
確かに、こうして現れるプレイヤーにまでは気が向かないだろう。
なかなか巧妙な手を使ったけど、僕らの目を完全に
ターゲットは堂々と街の中を練り歩き、お洒落なカフェ風のアイテム屋の前でその歩みを止めた。
外に並べられたイスに座る女性が、『青唐辛子』を見つけると手を上げる。
2人は仲良く同じテーブルへと付くと、少し雑談をしてから連れ立って歩き始めた。
僕はその瞬間を逃さずスクリーンショットに納める。
2人の行動は
そういう目的の店へと2人して姿を消すところまでスクショに撮り、ダメ押しに出てくるところも撮らせてもらった。
にゃぽ~んさんには悲しい結果になっただろうけど、僕ら灰色探偵事務所の勝利だッ!!
※
ニョニョを経由してにゃぽ~んさんへと結果の報告と写真データが手渡される。
「そう、やっぱり浮気してたの……」
ネコミミが感情に合わせてへたれる。
甘ロリの小さな体躯がますます小さく見える様だった。
なんと言葉をかければいいか迷っていると、意外にもにゃぽ~んさんの方から口を開いた。
「あの、噂で聞いたのだけど、復讐も手伝ってくれるの?」
ニョニョは大きく頷くと、
「ええ! 浮気をするような女の敵はアタシの敵と言っても過言ではないわ! 是非手伝いますよ」
僕は装備を整えると、指を
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