第11話「励ましのセリフにしてはエグいなぁ!」

「……ティザン。ねぇ、ティザンったら。もうッ! エルクさっきからフリーズしてるわよッ!!」


「えっ!? 何? どうしたの? ってウワッ!!」


 なぜか僕の目の前にニョニョのどアップがあった。


「人の顔見て叫ぶとかヒドイわね」


 ニョニョは肩をすくめて、僕から距離を取った。


「あ、ごめん。ちょっと昔の事を思い出してて」


「昔の事って、もしかして、エルクが臭いフェチだったということが判明したあれ?」


「事柄はあってるかも知れないけど、僕はそんなフェチはない! それと本名言わないで」


「冗談よ。これでも感謝してるんだから! それよりアタシは······」


 ニョニョは急にさっきまでの威勢がなくなり口ごもる。


「エルクが学校にあんまり来なくなったのを気にしてたのよ」


 ゲーム内だが、CTGは表情の機微きびまで細かく再現されており、ニョニョは申し訳なさそうな悲しんでいるような、様々な感情入り乱れるなんとも言えない表情を見せた。


「まぁ、確かに女子の顔を叩いたのはやり過ぎたと思ったし、反省もしてるけど、それは僕の性格の問題だし、仮にあのことが無くてもたぶん僕はこのVRMMOにはまって不登校になってたと思うから」


 これは強がりでも、ニョニョに気を使わせない為のウソでもない。たぶんどう足掻あがいても僕はこのルートに入った自信があるッ!

 でなきゃ、廃人プレイヤーになんてならないよ!


「そう。でも、エルク、女子を叩いたのは気にしなくていいとアタシは思うの。だって、ゴミ箱に群がるハエの雄雌しゆうなんてなかなかわからないものッ!」


「えッ?」


 僕の予想の遥か高みからのセリフがニョニョから飛び出す。


「えっ? もしかして、一瞬で判る人だった?」


「ぷっ! アハハッ! 励ましのセリフにしてはエグいなぁ! ニョニョっぽくていいね。それ!」


 僕はお腹を抱えてひとしきり笑ってから、改めてニョニョに向き合った。


「ニョニョ、本当に僕は大丈夫だから! それにニョニョのおかげでちゃんと、かどうかは分からないけど就職もできたし。感謝こそあれど、恨むことは1つもないよ。ありがとう」


 僕が笑顔を向けると、釣られたようにニョニョの顔にも笑顔が浮かぶ。


 確かに気が強い一面もあるけれど、やっぱりこうして笑っている彼女は可愛らしいと僕は思うのだ。


「あっ、ちょっと待って!」


 ニョニョは電話を受ける動作をすると、今度は獲物を見つけたような笑みを浮かべる。


「ティザン! 依頼が来たわよッ! 今度のも浮気調査よッ!!」


 こういう笑顔には全く可愛げはなく、頼もしさに溢れている。

 僕はさっきまでの笑顔をそっと、心のスクリーンショットに収めると、ニョニョの指示を受け、探偵を開始した。

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