第4話「誰かー。助けてください!! フェニックス樹海でレイド発生!!」

 大群……。うん、確かに大群だけど。


「助けて~、エルク~~ッ!!」


「なんでレイドボスまで引き連れてるのさッ!! それと本名言うな!」


 ニョニョの後ろには大型の狼のボス、『フェンリル』がドスドスと大きな足音を立てて迫っていた。

 ダンジョンの最深部とかではなく、広大なフィールドで現れるボスをレイドボスというのだが、通常のボスの数十倍の強さで、いくつかのパーティで攻略するのが通常だ。

 運営の方針にもよるが、より強い敵をほっすという玄人くろうとプレイヤーへのサービスという場合と、BOTボットという自動で狩りをするシステムを組み込んだチートプレイヤーを血祭りにあげる為の2パターンがある。

 フェニックス樹海は完全に後者で、卵狙いで自動で徘徊するプレイヤーをキルしに掛かっている。

 

 つまり、何が言いたいかというと、逃げなきゃ死ぬってことだッ!!


 逃げ戻ってくる、ニョニョと合流したら、移動スピードアップの魔法を掛け直して、僕も一緒に逃げようと考えていると――。


 ボスンッ!!


 ニョニョが急に視界から消えた。音から何が起きたのかは一目瞭然だった。


「ごめんッ! 落とし穴、そこ」


「言うの遅いわよっ!!」


 ニョニョはスリットから足が漏れ出し太ももを晒す、あられもない姿で穴の中から怒号をあげる。


「本当に反省してるよ! だから――」


 僕は、木に設置していた罠を発動させ、レイドボスとその周辺にいるモンスターへ棘を浴びせる。

 ダメージ量は微々たるものだが、僕へと敵意ヘイトが集まり、レイドボス達は僕の動きに合わせて向きを変える。


「ニョニョ、僕が合図したらそこから脱出して、街へ戻って。いい?」


「ちょっ、ティザンくらいのプレイヤーなら一人で倒せないの?」


「レイドボスを一人で倒せるのはフィクションの中だけか、チート野郎だよ。現実は逃げるだけで精一杯ッ!!」


 今度は僕がトレインを引き継ぎ、モンスターの大群を引き連れて逃走を始めた。



 フェニックス樹海は広大なフィールドだが、ゲームでもリアルでも限りというものが存在する。


 たっぷり離れたところで、ニョニョを逃がすまでは良かったのだが、とうとうフィールド端にまできてしまった僕は、レイドボスのフェンリルと数体のモンスターによって逃げ場を失くしていた。


 僕はいつ攻撃が来ても対処できるよう、レイドボスの巨体から目を離さない。


「さっき、レイドボスに対して、逃げるしか出来ないって言ったけど、あれはウソだ。もう1つだけ出来ることがある。それは――」


 僕は全世界に轟くよう、ワールドチャットで叫んだ。


「誰かー。助けてください!! フェニックス樹海でレイド発生!!」


 ワールドチャットは全プレイヤーに届く声だ。

 いちいち声が聞こえるのがわずらわしいプレイヤーは文字のみでの表示にしていることがままある。

 当然、ニョニョにも届いているはずで、そこそこに恥ずかしいのだが、背に腹は変えられない。


 あとは時間さえ稼げばアイツが絶対来るよな。

 僕は一縷いちるの望みにかけ、この狼型のボスから生き残るべく戦いを挑む。


「くそっ。落とし穴3つ分って結構大変だったんだぞ! これで死んでデスペナルティまで喰らってたまるかッ!」


 自分を鼓舞するため、あえて不平不満を口に出し、短剣を構えた。



 フェンリルの攻撃はほとんどダメージを受けていない状態ならば、単調な物が多く、パターンを把握しているプレイヤーなら避けることは、そこまで難しいことではない。

 ダメージ量もアサシンのジョブの僕が1撃死はしない程度である。


 なんとか攻撃を回避はしているのだが、ここで少々問題が起きた。

 トレインで連れて来てしまった他のモンスターにまで気を配る余裕がなく、現在、前門の虎、後門の狼だ。

 比喩ではなく、本当に。


 前方の虎のモンスターが前足を振り上げるモーションに入る。

 これだけなら簡単に避けられるのだが、避けた先で確実に狼からの一撃をもらう。

 仮に虎の攻撃を避けずに喰らった場合、この攻撃が横薙ぎなら、セーフ。僕は一命を取り留める。

 その場での切り裂きなら、やっぱりその後に狼の攻撃を喰らう。


 選択支はほぼなく、僕は、


「横薙ぎ、横薙ぎ、横薙ぎッ!!」


 念仏のようにぶつぶつと唱え、祈った。


 攻撃が当たるとVRでの映像が激しく揺れた。

 この瞬間、僕の生存が確定した。

 横薙ぎでの攻撃でなければ、画面はこのように揺れず、ダメージの爪痕のエフェクトがあるだけなのだ。


 揺れた画面に動揺し、動きを止めてしまい死に至るプレイヤーもいるが僕はそんなヘマはしない。

 すぐに体勢を立て直し、レイドボスからの攻撃を回避する。


 恐ろしい思いをした当てつけに、虎へと一撃攻撃を当てると、同時に、バシュン! と大きな音が響き、アイテムをドロップしながら虎が消滅した。

 僕の攻撃力では一撃で倒せる相手ではないのだが、心当たりがあった。

 ようやく救援が来たのだ。それも最強の!


「よお! ティザン。一応生きてたな!」


 大男が振り下ろした大剣を持ち上げながら僕へと声をかけてきた。


「もう少し早ければ最高のタイミングだったんだけどね。でも来てくれて助かったよ、スティング」


 スティングはプラチナの全身鎧と大剣をきらめかせると、僕の言葉にニカッと大口を開けて笑みを浮かべた。

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