第4話「誰かー。助けてください!! フェニックス樹海でレイド発生!!」
大群……。うん、確かに大群だけど。
「助けて~、エルク~~ッ!!」
「なんでレイドボスまで引き連れてるのさッ!! それと本名言うな!」
ニョニョの後ろには大型の狼のボス、『フェンリル』がドスドスと大きな足音を立てて迫っていた。
ダンジョンの最深部とかではなく、広大なフィールドで現れるボスをレイドボスというのだが、通常のボスの数十倍の強さで、いくつかのパーティで攻略するのが通常だ。
運営の方針にもよるが、より強い敵を
フェニックス樹海は完全に後者で、卵狙いで自動で徘徊するプレイヤーをキルしに掛かっている。
つまり、何が言いたいかというと、逃げなきゃ死ぬってことだッ!!
逃げ戻ってくる、ニョニョと合流したら、移動スピードアップの魔法を掛け直して、僕も一緒に逃げようと考えていると――。
ボスンッ!!
ニョニョが急に視界から消えた。音から何が起きたのかは一目瞭然だった。
「ごめんッ! 落とし穴、そこ」
「言うの遅いわよっ!!」
ニョニョはスリットから足が漏れ出し太ももを晒す、あられもない姿で穴の中から怒号をあげる。
「本当に反省してるよ! だから――」
僕は、木に設置していた罠を発動させ、レイドボスとその周辺にいるモンスターへ棘を浴びせる。
ダメージ量は微々たるものだが、僕へと
「ニョニョ、僕が合図したらそこから脱出して、街へ戻って。いい?」
「ちょっ、ティザンくらいのプレイヤーなら一人で倒せないの?」
「レイドボスを一人で倒せるのはフィクションの中だけか、チート野郎だよ。現実は逃げるだけで精一杯ッ!!」
今度は僕がトレインを引き継ぎ、モンスターの大群を引き連れて逃走を始めた。
※
フェニックス樹海は広大なフィールドだが、ゲームでもリアルでも限りというものが存在する。
たっぷり離れたところで、ニョニョを逃がすまでは良かったのだが、とうとうフィールド端にまできてしまった僕は、レイドボスのフェンリルと数体のモンスターによって逃げ場を失くしていた。
僕はいつ攻撃が来ても対処できるよう、レイドボスの巨体から目を離さない。
「さっき、レイドボスに対して、逃げるしか出来ないって言ったけど、あれはウソだ。もう1つだけ出来ることがある。それは――」
僕は全世界に轟くよう、ワールドチャットで叫んだ。
「誰かー。助けてください!! フェニックス樹海でレイド発生!!」
ワールドチャットは全プレイヤーに届く声だ。
いちいち声が聞こえるのが
当然、ニョニョにも届いているはずで、そこそこに恥ずかしいのだが、背に腹は変えられない。
あとは時間さえ稼げばアイツが絶対来るよな。
僕は
「くそっ。落とし穴3つ分って結構大変だったんだぞ! これで死んでデスペナルティまで喰らってたまるかッ!」
自分を鼓舞するため、あえて不平不満を口に出し、短剣を構えた。
※
フェンリルの攻撃はほとんどダメージを受けていない状態ならば、単調な物が多く、パターンを把握しているプレイヤーなら避けることは、そこまで難しいことではない。
ダメージ量もアサシンのジョブの僕が1撃死はしない程度である。
なんとか攻撃を回避はしているのだが、ここで少々問題が起きた。
トレインで連れて来てしまった他のモンスターにまで気を配る余裕がなく、現在、前門の虎、後門の狼だ。
比喩ではなく、本当に。
前方の虎のモンスターが前足を振り上げるモーションに入る。
これだけなら簡単に避けられるのだが、避けた先で確実に狼からの一撃をもらう。
仮に虎の攻撃を避けずに喰らった場合、この攻撃が横薙ぎなら、セーフ。僕は一命を取り留める。
その場での切り裂きなら、やっぱりその後に狼の攻撃を喰らう。
選択支はほぼなく、僕は、
「横薙ぎ、横薙ぎ、横薙ぎッ!!」
念仏のようにぶつぶつと唱え、祈った。
攻撃が当たるとVRでの映像が激しく揺れた。
この瞬間、僕の生存が確定した。
横薙ぎでの攻撃でなければ、画面はこのように揺れず、ダメージの爪痕のエフェクトがあるだけなのだ。
揺れた画面に動揺し、動きを止めてしまい死に至るプレイヤーもいるが僕はそんなヘマはしない。
すぐに体勢を立て直し、レイドボスからの攻撃を回避する。
恐ろしい思いをした当てつけに、虎へと一撃攻撃を当てると、同時に、バシュン! と大きな音が響き、アイテムをドロップしながら虎が消滅した。
僕の攻撃力では一撃で倒せる相手ではないのだが、心当たりがあった。
ようやく救援が来たのだ。それも最強の!
「よお! ティザン。一応生きてたな!」
大男が振り下ろした大剣を持ち上げながら僕へと声をかけてきた。
「もう少し早ければ最高のタイミングだったんだけどね。でも来てくれて助かったよ、スティング」
スティングはプラチナの全身鎧と大剣を
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