第5話「これはお前もレイドボスに挑む流れだよな?」

 大口を開け笑みを作り、簡単に人との距離感を縮めてくる、この爽やかさを絵に描いたような男、スティングはこう見えて、僕と同等、いやそれ以上の廃人プレイヤーだ。

 昔から難関クエストでは顔を合わせることがしばしばあり、スティングの誰にでも構う性格から旧知の仲にある。


「で、今日はギルドメンバーも揃ってるの?」


 僕は周囲に目を向けると、数人では利かない程のプレイヤーの気配を感じた。


「ああっ! もちろん! フェンリルはまだ1回しか倒せたことがないからな。しかもそのときは情報不足で完勝とは言えなかった。その雪辱を晴らす為、完全勝利こそが俺らのギルド、『リバティ』の目標だ。だから、全力で狩りに来た」


 先ほどまでの爽やかさは無くなり、今は獲物を狙う狩人の瞳をし、舌なめずりしながら、大剣を構える。


 スティングのジョブは見た目でも分かる通り、重剣士じゅうけんしだ。

 重剣士は高い攻撃力と防御力を誇る反面、スピードに難があり、武器の大きさもあり小回りが利かない。固有スキルは不退転ふたいてん。HPが半分以下になると発動し、敵から逃げず攻撃し続けると一撃ごとに攻撃力が上昇する。

 活躍の場は様々で広い場所で近距離相手ならば最強のジョブだ。


 レイド戦においては得意なものが全て符号し、なくてはならないジョブとなっている。

 そんなスティングが率いるギルド『リバティ』も主な戦場をレイドボス戦とし、統率力の高さでは右に出るギルドはないだろう。


「ヤロー共、行くぞッ!!」


 スティングは大剣を掲げ、開戦の合図を上げる。


「「「おおぉーー!!」」」


 いくつもの声が上がり、遠距離による攻撃、盾役によるヘイト管理が始まる。


 僕は先ほどの虎がドロップしたアイテムを拾うと、スティングに声を掛けた。


「それじゃ、助けてくれてありがとう。レイド戦頑張って!」


 手を上げて応援しつつ、その場から離れようとすると、肩を掴まれた。


「おい。ちょっと待て。この流れはお前もレイドボスに挑む流れだよな?」


「え? いや、僕は探し物も見つかったし、ニョニョも僕も無事だし、もう帰る以外することないけど」


 手には先ほどの虎が落としたドロップアイテムの結婚指輪が握られている。


「さも、当然帰るみたいに言ってるが、マジで? 冗談じゃなくて? お前がいれば勝つ確率がグ~ンと上がるのに? レイドボスを倒した称号とかいらないの?」


 スティングが疑問系で聞いて来ることがら全てに頷いて答える。


「くっ、ティザン、お前今探偵をやってるんだよな?」

 

 これにも僕は頷いて答える。


「なら、俺らの護衛を依頼してやる!」


「そういうことならニョニョと話してくれるかな?」


 スティングはニョニョと通話し始め、何やら言い争いを始めた。

 どうやら値段交渉で揉めているようだ。


「いいだろう! ティザンが活躍したら5000円でも1万でもやる。それでいいなッ!」


 スティングの最後の言葉がそれで、通話が切れた。


「くそっ。あの女、足元見やがって」


「交渉はまとまったみたいだね。なら、これからスティング含む『リバティ』のメンバーを可能な限り護衛するよ」


「ああ! 絶対役に立ってもらうぞ!!」


「もちろん。この灰色のアカウントにかけて!」


 しかし、あのスティングが怒りを顕わにするとは。いったいニョニョとの間にどんな交渉があったのか、知りたいような、絶対知りたくないような……。

 苦笑いを浮かべながら、僕もレイド戦へと参加することとなった。



 レイドボスと戦うときにアサシンが行う事は。ズバリ! 死なないことだ。

 僕は後方へ離れ、全体が見える位置へと。

 反対にスティングは前衛へ飛び出し、その高い攻撃力を存分に振るう。


 だいたい2割くらいフェンリルのHPが削れると訪れる全体攻撃に僕は備える。

 スティングの大剣がフェンリルの鼻筋を捉え、2割に達した。


 フェンリルが咆哮を行うと同時に僕も叫んだ。


「全体攻撃来るよ! 回避スキルあるキャラは僕に合わせて。3・2・1。回避ッ!!」


 周囲に氷山が出現し、回避出来なかったキャラクターにダメージを与える。

 僕ら回避成功組みは失敗した回復役を優先にアイテムで回復を図る。


「前線っ! 回復役ヒーラーが回復するまで踏ん張るぞッ!!」

 

 スティングは指示を出しながらも攻撃の手を緩めない。

 あの攻撃を防御だけで、ピンピンしている防御力とHP量はちょっと僕からしたらありえない。流石最強のプレイヤーと言われる1人だ。


 後衛は回避できたキャラが思いのほか多く、すぐに復旧し、前衛のサポートに回る。

 僕は再び回避に専念し、フェンリルの行動を予測しつつフィールドを逃げ回る。


「次っ! 尻尾攻撃。後方防御か回避!」

「後衛。攻防ダウンのデバフ来るから、回復ッ!」

「ボス右へステップするよ! 大技禁止」


 僕は予測した行動を皆へと伝えていく。


「オラァ!!」


 僕の予測を聞き、行動に移しているスティングは最小限のダメージしか喰らわず、最大限のダメージを相手へと与えていく。

 スティングの活躍で、フェンリルのHPはガリガリと削れていくが、油断は出来ない。


 4割、6割と削られていく毎にフェンリルは全体攻撃を行い、その度に一度戦線が崩壊しかける。

 しかし、流石の数多あまたのレイドボス戦を戦ってきたギルドだけあり、すぐに建て直し、攻撃に移る。


 一見、フェンリルは弱そうに見えるが、それは『リバティ』の面々の錬度が高く、またそれを指揮するスティングが優れているから。それとフェンリル自身、最後の隠し玉を残しているからだ。


 僕はこのあとに訪れるフェンリルが高レベルフィールドのレイドボスである所以ゆえんに備え空を仰いだ。。

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