第5話

「しおりん、ただいま。」

 耀は、お菓子やらお酒やら、なにやら大量に買い込んできた。

「あれ、珍しいね。しおりん飲んでたの?」

 テーブルに置いてあった空き缶を手に取ると、耀は汐里を見た。

「うん、なんとなく…ね。」

「しおりん、何が飲めるかわからなかったから、いっぱい買ってきちゃったよ。ビールでいいのかな?」

「あ、ごめん。買わせて。お金払うよ。」

「今度おごってもらうからいいよ。」

 耀は、汐里にビールを開けて手渡した。自分の分も開ける。

「じゃ、俺の誕生日と、俺達の初キスのお祝いに!」

 汐里は、おもわずビールをふいてしまう。

「馬鹿なこと言わないの!」

「いや、しおりん気にしてるかなと思って。」

「あれは、そういうんじゃないでしょ。追い払うためにしただけでしょ。わかってるから。勘違いしないから大丈夫よ。」

 汐里は、ビールをグイグイと飲んでしまう。

 いっきに身体が熱くなる。顔も真っ赤になっただろう。

「しおりん、お酒弱いんでしょ?そんなに急に飲んだら…。」

「大丈夫!ほら、二十歳!にょめにょめ(飲め飲め)!」

 もう、すでにろれつが怪しくなってきた。

 汐里はそれから、ビールを飲みきり、缶酎ハイを三本飲んだ…らしい。その後の記憶は…。


 朝、頭が痛くて、気持ち悪くて目が覚めた。

 寝返りをうち、頭を押さえる。

 視界がはっきりしてきて、思わず隣りを二度見する。

 ここは汐里のベッド、もちろんシングルだ。

 その狭いベッドで抱き合うように、汐里は耀の腕枕で寝ていたから。

 汐里は、布団の下の洋服をチェックする。

 二人とも昨日のままで、特にはだけた様子はない。

「しおりん、おはよう。」

 汐里が布団をめくったりしたせいか、耀が目を覚まして汐里を抱き締めた。

「ちょっ、ちょっと!」

「どした?」

「いや、多分だけど、私達してないよね?そういう関係じゃないでしょ?」

「えーッ!昨日あんなにいっぱいチューしたのに?」


 チュー?!


 汐里は、青ざめる。二日酔いもあるが、全く記憶がないから。

「嘘でしょ?」

「酷いな。俺をもてあそんだんだね。」

 耀はいたずらっ子のような笑みを浮かべつつ、泣き真似をする。

「もて…。って、ええっ?!」

 汐里は頭を押さえた。

 自分の声が頭に響いたから。

「思い出せない?これでも?」

 耀が、軽くチューする。

「ちょっと…。」

「思い出してくれるまで止めないよ。」

 何回か繰り返すうちに、少しづつ濃厚なキスになっていく。

「やば、これ以上はやめとこ。しおりん二日酔いだし。」

 汐里は、頭がボーッとした。二日酔いだからか、耀のキスのせいかわからないが。

「まじで覚えてないの?」

 汐里はこくりとうなずく。

「まじかあ…?」

 耀は、ベッドから起き上がると、汐里に冷たい水を持ってきてくれた。

「俺の告白も?」

「告白?!」

「ああ、しおりんちゃんとOKくれたからね。今さらなしはなしだよ。ほら、動画。昨日の証拠。」

 耀は、スマホの動画を汐里に見せた。

 動画には、酔っ払ってご機嫌の汐里が映っている。

「しおりん、ほら、缶酎ハイ。」

「やだ、缶・チュー・ハイだって!チュー・ハイ!うける!」

 チューと言っては爆笑し、耀とキスをする汐里。

「しおりん、俺の彼女だよね?」

「うん。だいちゅきー!」

 またもやキスをする汐里…。


 なんだこれは?

 自分の酔っ払った姿なんて初めて見たし、あまりにハイすぎて馬鹿みたいだ。しかも、キス魔だったなんて…。


 汐里は、二度と飲むもんかと誓った。

「それ、消してもらってもいいかな?」

「消すのはいいけど、なしにはしないからね。」

 耀は、動画を消去する。

「ありがとう。…あのさ、お互い酔っ払った勢いっていうか、その…。」

「あのくらいじゃ、俺はシラフだよ。」

「えっ?」

「ほら、しおりんが飲酒は二十歳からみたいなこと言ってたから、飲まなかったけど、まあそんなに弱くないほうなわけ。」

 耀は真面目な顔で汐里の前に正座すると、真っ直ぐに汐里の目を見て言った。

「騙すようでごめんね。でも、しおりんと会ってからは、昨日始めて飲んだんだよ。でね、昨日しおりんいいペースで飲み始めて、かなりご機嫌さんになってさ、俺の告白に即OKくれて、であの状態になったんだ。だから、あれは酔っ払ってふざけてじゃないからね。もちろん、お酒の勢いでもないから。」

「…覚えてません。全く記憶にございません。」

「政治家みたいなこと言わないの。」

 耀は、汐里のおでこをパチンとはじくと、汐里の腰に手を回し引き寄せた。

「俺がしおりんに本気だってこと、わかるでしょ?しおりんが大切だから、今まで手出さなかったんだし。俺くらいの年齢の男が、女の子と個室にいて手を出さないってないからね。相手を大事に思ってるか、他に好きな女の子がいるかだよ。」

「そんなこと…。」

「あるの!しおりんは危機管理意識がなさ過ぎ!ほいほい男を部屋にいれたらダメだし、ついて行ったらダメ!」

「はい…。」


 六つも年下に説教されてしまった。


「あのね、俺はしおりんに一目惚れだったんだよ。だから、しおりんに気に入られようって必死だったの。あんまりグイグイいったら引かれそうだし、まずは安心させて仲良くなってからって、我慢に我慢だったんだからね。」

「はあ…。」

 耀は、あまりわかっていなさそうな汐里の頬っぺたをムニッとつまんだ。

「だから、しおりんが今まで俺に押し倒されなかったのは、一重に俺の努力の賜物なの。昨日だって、地獄だったんだからね。全くこの人は!」

 耀は、汐里の頬っぺたを引っ張る。

「い…痛いれす。」

「俺の努力がやっと昨日報われたって思ったのに、覚えてないって、酷すぎると思いませんか?」

「しょんなこと言われても…。」

 汐里は、頬っぺたをいじられ、まともに喋れない。

 耀は、やっと気分も晴れたのか、汐里の頬っぺたから手を離した。

「俺としおりんは昨日から付き合ってるの!なしにするって言うんなら、今すぐ襲っちゃうからね。」

「いや、それは…。」

「なら、カップル成立ってことでいいよね?」

「…私でいいの?」

「しおりんがいいの!」

 汐里は、認めることにした。

 年の差は凄く気になるけど、それ以上に耀に引かれている自分がいる。耀にキスされて、嬉しいって思う自分がいる。

「よろしくお願いします。」

 耀は嬉しそうに笑って、汐里をギュッと抱き締めた。

「お願いされました!」



 

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年下の彼 由友ひろ @hta228

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