第4話
あれから数ヶ月、耀とはたまにご飯を食べたりDVDを見たりと、友人関係を築いていた。
汐里は、仕事帰り、コンビニで珍しくビールを買い、アパートに帰った。
お酒の弱い汐里は、半分くらいでかなりいい気分になってきた。
うとうとしていたら、汐里の家のドアフォンがなる。
今は十時半近く。
人が訪れる時間帯ではない。
汐里は、足音をさせないように、ゆっくりとドアに近寄った。覗き穴から覗いてみようとしたとき、
いきなりドアがドンドン叩かれた。
汐里は、かなりびっくりして、ドアの前でしゃがみこんでしまった。
「いるんだろ!なんで出て来ない!」
男の人が何か叫んでいる。
汐里は、耀にラインを送った。
汐里:耀君、今どこ?
耀:どうした?
汐里:なんか、部屋の前で男の人が騒いでて、ドア開けろって、ドアフォンならしてるの。
耀:まじで?出たら駄目だよ。
汐里:怖くて開けれないよ。
耀:今から行くよ。
汐里:大丈夫、警察呼ぶから。ごめんね、変なラインして。
汐里は、警察に電話しようとしたが、こんなことで警察を呼んでいいのかもわからない。少し待てば諦めて帰るかもしれない。
今度こそ、覗き穴から見てみようと穴を覗くと、そこには赤い顔をした元見合い相手が仁王立ちになっていた。
知り合いだったことが、より怖かった。間違いではなく、汐里に会いに来たということだからだ。
「汐里さん、君のことが忘れられない。出て来て、僕の話しを聞いてくれ!あんな若僧なんかより、僕のほうが君を幸せにできるんだ。君は目を覚まさなければいけない。」
「…あ、あの、近所迷惑です。騒がないでください。」
「汐里さん、開けてくれ。」
「帰ってください。」
「開けて!見せたいものがあるんだ!」
ドアがドンドン叩かれる。
「止めてください。警察呼びますよ。」
汐里は、チェーンまでしっかりかける。
その音が聞こえたのか、元見合い相手はなお激しくドアを叩いた。
汐里が警察に電話をかけようとしたとき、外で別の声がした。
「あんた、しつこいね。しおりんは俺の彼女だって言ったでしょうに。」
耀の声だ。
「嘘だ!僕は調べたんだ。興信所を使っておまえのことをな!汐里さんの目は覚めるだろうよ!」
耀君?
興信所?
汐里はチェーンを外し、ドアを開けた。
「汐里さん、こいつは女がいっぱいいるんだ。君だけじゃない!ほら!」
耀の写真を沢山汐里に突きつけた。
数人の女の子達と仲良く歩いている耀の写真…大学での耀そのものだが。
腕をくんでいるものや、一瞬キスしているのか?と見えるほど近くに寄っている写真など、見ようによっては…というのもあるにはあった。
「えっと、通常の耀君だよね?大学ではこんな感じだし…。」
わざわざ興信所を使ってこんな写真、お金の無駄遣いだ。
後ろ姿だが、汐里の写真まで入っていた。
「こんな女にだらしない男がいいのか?」
耀は、汐里と元見合い相手の間に入った。
「だらしなくないよ。みんな友達だしね。それにほら、うちに入るこの写真、これしおりんだよ。」
「あ、ほんとだ。」
元見合い相手は、えっ?と写真を食い入るように見る。
耀は、片手で汐里の肩を抱き寄せ、もう片方の手で顎に手をかけると、優しく触れるようにキスをした。
「俺としおりんは仲良しなの。邪魔しないでくれるかな?」
汐里は、一瞬何がおきたのかわからなかった。
飲み過ぎちゃった?
元見合い相手は、写真を握り潰すと、床に叩きつけて走って階段を下りていった。
「あーあ、写りがいいやつもあったのに。」
耀は写真を拾うと、丁寧に広げてポケットにしまった。
「しおりん、大丈夫?怖かったね。」
「え…、あ…、ううん。きてくれてありがとう。」
「ね、前にした約束覚えてる?」
「約束?」
「ほら、二十歳になったら飲もうってやつ。」
一番最初に会ったときに、そんなことを言われた記憶も…。
汐里は、頭が働かずにただうなずいた。
「じゃ、今から飲もう!俺、今日誕生日なんだ。買ってくる。」
耀は、コンビニまでお酒を買いに行った。
汐里は唇を押さえて、さっきの感触を思い出す。
確かに触れたよね?
でも、あれは元見合い相手を諦めさせるためにしただけで、他意はないんだ!
そうよ、耀君の態度も変わらないし、なんの意味もないことなんだわ。
汐里は、心臓がバクバクするのを飲酒のせいにした。
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