第3話
「汐里、あんた若い男の子と付き合ってるんだって?」
次の日、叔母さんから電話がかかってきた。
「何それ?」
「牧田さんから電話があったのよ。」
「違うから!」
汐里は、昨日のことを電話で説明し、断ってほしいことを告げた。
叔母さんは、今一信用してないふうだったけど、それ以上は突っ込んでこなかった。
「ごめんね。」
「まあ、いいわよ。あの人紹介リストから削除しなきゃね。他でやられたらたまったもんじゃないわ。じゃあ、お写真とかは送ってちょうだい。相手にお返しするから。」
「わかったわ。すぐ送る。じゃあね。」
汐里は、さっそく写真を封筒に入れると、叔母の住所を書いて郵便局へ向かう。
郵便局で封筒をだすと、汐里は土曜日だというのに、やることが終了してしまった。
お昼には少し早いし、かといって一人でお茶もなんだし、無難にTSUTAYAに足を向けることにした。
TSUTAYAにつくと、アニメのレンタルDVDの棚に向かう。汐里は漫画好きだった。どのDVDにしようか手にとっていたとき、背後から声をかけられた。
汐里はDVDを棚に戻して振り返ると、耀が立っていた。
「秋元…君?」
「耀でいいよ。しおりんもビデオ借りにきたの?」
「うん、まあ。」
耀は、汐里の手にしていたDVDを手に取る。
「これ、俺も見たかったやつだ。俺、アニメも好きなんだよね。夜中にやってたやつでしょ?」
「そうみたいね。」
「ね、一緒に見ようよ。二人で別に借りるよりお得じゃん。」
「まあ、いいけど。じゃあ、私が借りるわ。昨日のお礼。」
「やった!」
汐里は、昨晩数時間一緒に過ごしたからか、DVDを一緒に見るということに抵抗を感じなかった。
他にアニメのDVDを数本借りると、TSUTAYAを出る。
「ここからなら、俺の家のが近いから、俺んちでいいよね?」
「うん、構わないけど。」
「じゃ、飲み物とか昼飯とか買い出ししてから帰ろ。今日はまったりデイだ。」
途中コンビニでコーラやらお菓子、お弁当を買って耀の家に向かう。
耀のアパートは、アパートというより、マンションっぽかった。
「一人暮らし?」
「そうだよ。」
オートロックの玄関を抜け、エレベーターにのる。
耀の部屋は三階だった。
ワンルームだけど、ワンルームが広い。しかもシステムキッチンだし。
「贅沢!」
「そう?ワンルームだよ。」
「なんか嫌み。広さならうちの倍以上あるじゃない。」
「俺払ってるわけじゃないしさ、借りたのも親だから。しおりんは自分で生活してんでしょ?偉いじゃん。」
「当たり前でしょ。社会人なんだから。もう、いいなあ、こんなきれいなとこに一人暮らし。」
「じゃあ、一緒に住んじゃう?」
「馬鹿なこと言わないの。」
耀は、買い出しした物をテーブルに広げると、DVDをセットした。
「そうだ、これに着替えれば?」
耀は、スウェットの上下を出してきた。
汐里は、スウェットを手に少し悩んだが、厚意を受けることにした。
汐里は、風呂場の脱衣所で着替えた。男の子のスウェットだからか、かなりだぼだぼだ。裾をめくって着る。
「なんかしおりん可愛い。」
「はい?」
「そのダボッとした感じがいい感じだね。」
「そう?」
二人は、飲み物を飲みながらDVDを見る。途中お弁当を食べ、結局夕方になってしまった。
耀の距離感が、汐里をすっかり安心させていた。
「夕飯どうする?なんか作る?」
三本目のDVDを見終わり、耀が次のDVDを入れる前に聞いた。
「私、料理苦手よ。」
「うーん、俺もそんなに得意じゃないけど、パスタくらいならできるかな。それでいい?」
「作ってくれるの?」
「だって、腹減ったじゃん。まだDVDあるし。」
耀は、冷蔵庫の中からキノコと葱、ベーコンを取り出すと、和風スパゲッティを作ってくれた。
「凄いわね。美味しいわ。」
「ありがと。」
まず、冷蔵庫に食材があることが凄い。しかもキノコって。作る気がなければ買わないと思う。
部屋も男の子の一人暮らしにしてはきれいだし、台所も片付いているだけでなく、それなりに調味料も揃っているみたいだ。
そこまで観察して、汐里はもしかして…と思った。
そう、彼女の存在だ。
「私、帰るよ。洋服は洗濯して返すから。」
いきなり立ち上がった汐里を、耀は驚いて見上げた。
「どうしたの?食事も途中だし、まだDVD残ってるけど。」
「だって、耀君の彼女にしたら、私の存在って不愉快だよ!」
「今さら?」
「そうだよね、今さらだよね。ごめん、いい年して考えが足りなかったよ。」
耀は吹き出した。
「いいから、座りなよ。彼女なんていないから。」
「いないの?」
「いないよ。」
汐里は、座りなおすとスパゲッティを一口頬張った。
「やだ…。ほら、部屋きれいだし、料理の材料もあるし、彼女がいるからだと…。」
「たまたまだよ。しおりんが彼女になってくれてもいいんだけど?」
「馬鹿なこと言わない!若い子なら本気にしてるよ。」
「しおりん、若いじゃん。俺の周りにいる女子より、全然若く見えるよ。」
「そんなわけないでしょ。あー、美味しかった。ご馳走さま。洗い物、私するね。」
汐里が皿を流しに持って行くと、耀はボソッとつぶやいた。
「本気…なんだけどな。」
「うん?なんか言った?」
「一緒に片付けるよ。」
耀は自分の食べ終わった皿も流しに運び、汐里が洗剤をつけて洗った横で、洗い物を流し始めた。
半歩、距離が近くなっていることに、汐里は気がつかなかった。
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