第7話 高木の誘い
達也が中型バイクの免許を持っている事、400ccのバイクを持っている事はクラスの中では公然の秘密だ。
クラスメートの中は必ずしも交通の便が良い所ばかりに住んでいる学生ばかりではないので、3分の1くらいはバイクの免許とバイクを持っている。
だが、そのバイクの免許もほとんどが原付だ。達也のように中型免許と400ccを持っているのは達也ぐらいのものだ。
なので、達也はクラスの中ではバイクが上手いと思われている。
高木が声をかけて来たのも、そういった思いが、あったからではないだろうか。
信二だって中型免許は持っているが、バイクは小型だ。信二もクラスの中では一目置かれているが、真一たちや上田を見ると井の中の蛙状態だった事を恥じてしまう。
だが、上田は孤高のような感じで、バイクの免許を持っている事も人には言わない。
当然、大型バイクに乗っている事も誰も知らない。知っているのは、達也と信二ぐらいのものだが、信二も上田が口外しないように言っていた。
上田は学校では眼鏡を掛け、いかにも学生といった風体で、成績も良い。
片や、高木は学生服もドカンと言われるズボンに長い学生服を着ており、いかにもワルという感じだ。
当然、成績も良くないが、不思議とダブリはしていない。
「達也、今度の連休、またバイトに来てくれないか?」
叔父から電話があったのは、学校から帰って、家でゆったりしている時だった。
電話に出た母が達也に取り次いで来たのだ。
「叔父さんが連休にバイトに来てくれって…」
母に叔父からの電話の内容を伝えた。
「あら、行ってくれば、いいじゃない」
叔父は母の兄になる。
「うん、だから行くと答えておいた」
3連休の朝、叔父の家にバイクで向かう。そこで叔父の車に乗って仕事先に出向く訳だ。
叔父がハンドルを握るバンは、後ろに電気工事用の工具を乗せて、スズキの工場に着いた。
「今日からの3連休でここの電気工事の作業が入っている。なにせ、工場が休みの時じゃないと工事ができないからな」
普通の日は工場も稼働しているので、設備工事は休みの日にやるしかない。
特に3連休などになると、こういった工事が集中的に行われる。
達也も夏休みにバイトをした経験から、どういった事をすれば良いか、大体分かっていた。叔父の指示のもと、作業の準備をする。
「それでは、工事概要を説明します。作業者の方は集まって下さい」
監督だろうか、作業員を集めた。そこから3連休の工事内容が説明される。
達也たちは電気工事なので、主に電気設備の方に回るらしい。
「よろしいですか。それでは『ご安全に』」
「ご安全に」
監督が言うと、作業員が合唱する。
作業内容の伝達が終わったので、達也たちは作業場所に移動し、作業に着手した。
「今日も上田は来ているのだろうか?」達也は上田が来ているか気になったが、上田の作業場所と達也の働いている場所とでは天と地の差がある。
片や労働者、片やテストライダーだ。こうやって働いていると、人間には身分の差がある事を思い知らされてしまう。
達也も来年は就職である。その時に、叔父のような個人経営の電気工事作業者になるか、それとも大企業のサラリーマンとなるか、人に訊ねるとほぼ全員が大企業のサラリーマンが良いと言うだろう。
達也もそう思って居る。だが、全員が大企業に入れる訳ではない。自分はどうしようか。今の達也にとってどこに就職するか、それが大きな問題だ。
10月には就職面談や、社員募集の一覧が掲示される。
達也の希望はヤマハやスズキの大企業が第一候補ではあるが、はたして自分はそれでいいのかという葛藤もある。
正直、達也の心の中は複雑だ。
「悪かったな、残業になってしまって」
バンを運転しながら叔父が言ってきた。
他の作業でトラブルがあったらしく、それが達也たちの電気工事の方にも波及し、今日は2時間程の残業になってしまった。
夏休みの頃は7時くらいでもまだ明るかったが、9月になると7時はもう真っ暗だ。
車のライトの先には信号待ちで止まる車の列があった。
「ウォン、ウォン、ウォン」
達也が乗る助手席の方を、改造された爆音を立てるバイクが抜いて行く。
乗っている人間は全員が特攻服と呼ばれる白い衣装を着ている。
どう見ても暴走族にしか見えない。
中には二人乗りしているバイクもある。
一応、赤信号で止まったが、青になるとスタートダッシュで行ってしまった。
「まったく、困ったもんだな」
叔父が、運転席から呟くように言って来る。
だが、達也はその中の一人に見覚えがあった。
いや、顔を直接見たわけではない。ただ、身体つきと雰囲気が同じクラスの高木だと分かった。
達也は「高木」だと思ったが、叔父には何も言わなかった。
高木がバイクの免許を持っているとは聞いていないし、バイクを持っている事も知らない。
バイクと免許を持っている事は高校生にとって、それだけで、一目置かれる存在だから、もし高木が免許とバイクを持っていると当然みんなが知っている事になるが、そんな噂は聞いた事が無い。
達也も入学当初はそれほど注目されていた存在ではなかったが、免許を取り、バイクを持った時から、クラスの達也に対する態度が変わった事を肌で感じた。
翌日も同じ工場で作業だ。達也は叔父と一緒に電気工事の作業をする。
昼休みに工場の隣にある社員食堂を借りて食事をしていると、上田が入ってきた。
「川杉」
上田の方から声を掛けて来た。
「上田」
「達也の知り合いか?」
叔父が聞いてきた。
「ああ、クラスメートなんだけど、前に紹介しなかったっけ?」
「したか?覚えてないな」
叔父はそれだけ言うと、昼飯を食べだした。
上田は宅配の弁当を持って達也の前に来た。
「今日もバイトか?夏休みだけじゃなかったのか?」
「なんか大きな工事があるとかで駆り出されたんだ。それより、お前も仕事か?」
「まあ、俺は年がら年中あるからな」
テストライダーの上田はそうなんだろう。
「ところで、昨日の夜、姫街道を走っていると高木のバイクが抜いて行ったんだ。あいつが免許やバイクを持っていると聞いた事はない、上田は聞いた事はあるか?」
「さあ?俺はそういうのあんまり興味ないし。だが、高木が族に入っているというのは噂で聞いた事がある。
川杉も誘われたなら、きっぱり断った方がいいぞ」
「この前、走りに行かないと誘われたけど、断ったよ」
「ああ、それが賢明だな」
「達也、午後の作業に行くぞ」
上田と学校の話をしていたが、1時になったので、昼休みも終わりだ。
「それじゃな」
「頑張れよ」
達也は上田と軽く挨拶を交わして作業に行った。
3日のアルバイト期間だったが、上田と会ったのはその1日だけだった。
連休明けに学校に行くと、何故か高木が既に来ていた。
「よう、川杉、今度の土曜日に走りに行くんだが、どうだ?」
前に3連休は用事があると断ったが、それが終わって早速誘って来たのだろう。
達也は、それに答えずに土曜日の事を話し出した。
「土曜日、お前が姫街道を走っているのを見たぞ。暴走族が着ている白い服を着ていた」
「何だ、見られていたのか」
「お前、免許を持っていないだろう。バイクはどうしたんだ?」
「バイクは先輩のやつだ。免許なんて、上手きゃ必要って訳でもないだろう」
「それは、まずいだろう。正直、俺はそんな連中と走りたくない」
「何だと、免許持っている事がそれ程偉いのか。お前は俺より上手いと言うのか?」
「技術的な事を言ってるんじゃない。世間のルールの事を言っているんだ」
「世間のルールに、縛られているだけじゃねえか」
「いずれにしても、お前とは意見が合わない。それで一緒に走る訳にはいかない」
「何?ああ、そうかよ、分かったよ」
高木は、悪態をつくと達也から離れて行った。
そこにちょうど、信二が入って来た。
「どうしたんだ?何があった?」
信二は達也に聞いてきた。
「いや、何でもない」
信二に高木から走りに誘われた事は言わなかった。
達也だって、校則で決められているバイクは小型までというのを厳密に守っている訳ではないので、無免許でバイクに乗っている高木とそう変わらないのかもしれない。
だが、自分で中型免許を持っているというプライドが、無免許の高木を許せなかった。
「なあ、信二。信二は無免許でバイクに乗っているやつをどう思う?」
「無免許運転ってやつか。正直、免許を持っていることと持っていない事って警察に捕まった時に、違反が一つ増えるか増えないかって違いだけじゃないのか?
それ以上の事は思い浮かばないな」
信二の言っている事は単に交通法規上の事を言っているだけだ。達也が聞きたかったのはバイク乗りとしてのプライトの事だった。
「確かに法律的に言えばそうなんだけど…、俺が聞きたいのは、無免許でバイクに乗っているやつをどう思うかって事なんだ」
「無免許でバイクに乗ってるやつねぇ…、達也はそんなやつを知っているのか?」
「あ、ああ、高木がそうなんだ。しかも、やつは賊に入っている」
「何だって、それは捕まると退学ものだぞ。だけど、バイクはどうしたんだ?」
「バイクは先輩のお下りらしい」
「ほんとにお下がりか?」
「どういう意味だ?」
「まさか、盗んだバイクとかじゃないよな」
「あ、う、うん。そこまでは聞いていない。高木が、お下がりと言っていた」
「もし、盗んだバイクだと退学だけじゃすまないぞ。泥棒になるからな、下手すりゃ少年院行きだぞ。
達也も高木とは、付き合わない方が良い」
「俺も、その方が良いと思っている」
達也はバイクの練習ができる駐車場を探していたが、ちょっと離れた公園にその場所を見つけた。
上田から聞いた練習方法では、そこにパイロンのような物を置いて細い道を作り、取り回しの練習をすれば良いということだけだ。
だが、バイクにパイロンを積んで移動するのは至難の業だし、高校生にとってパイロンの値段は高い。
「どうしたらいいんだ」
場所は見つかったが、どうやって練習したら良いか分からない。
達也は上田に相談する事にした。
「上田の言う通り、公園の駐車場を見つけて練習しようと思ったけど、パイロンは高くて数買えないし、持って移動することもできん」
「そうだな、俺もうっかりとしていた。確かに川杉の言う通りだ。なら、場所を教えてくれ。日曜日の朝、そこに行って対応を考えよう」
達也は、上田に見つけた公園の場所を教えた。
日曜日の朝、達也が公園の駐車場で待っていると、上田がカタナで現れた。
「ここか、まあまあの所じゃないか」
「ちょっと狭いけど」
「いや、広くてもやる事は同じだ。さてと、どうするかだな」
達也は上田の言葉を待った。
「そうだな、車の駐車スペースの所一つ置きにS字を書いていくか」
上田はS字と言ったが、教習所では8の字とかスラロームになる。
達也はスラロームはまだしも、8の字はあまり好きではない。低速で行う為、アクセルワークの加減でバイクがギクシャクしてしまう。
馬力の大きなカタナなら更に難しいだろう。
「それじゃ、俺が最初にやるから見ていてくれ」
上田はそう言うと、カタナを発進させた。
上田はカタナを右に左に操って華麗にS字を書いていく。
バイクも倒す時はガバッといった感じで倒すが、起こす時はバイクの方から起きてくれる感じだ。
達也は、上田のテクニックを新らためて見て、その技術の高さを知った。
上田は駐車スペースの端まで行くと、帰って来た。
「どうだ、こんな感じだ」
上田は達也にやってみろと言っている。
「分かった。やってみる」
達也も上田と同じようにS字を書いていくが、バイクがギクシャクして上田のように操れているとは言えない。
達也も駐車スペースの端まで行くと、帰って来る。
「川杉は、クラッチの使い方がまずいんだよ。半クラッチをうまく利用して、バイクを寝かせたり起こしたりするのさ。
だから、バイクがギクシャクした動きをするんだ」
達也は上田から、半クラッチの使い方を教わった。
「いいか、教えられた通りにやってみろ」
達也は上田の指導のとおりにやってみると、今度は前よりうまくバイクが動いた感じがした。
「前よりは、いいな」
上田は達也に言った。
褒められた達也は嬉しくなった。
「確かに前よりは、バイクが意志通りに動いた気がする」
「まあ、気のせいだろう。それより、忘れないように繰り返し練習するんだ」
達也はもう一度、S字を練習するが、今度はバイクを倒してしまった。
「大丈夫か?」
駆け寄って来た上田に言われる。
「大丈夫だ」
達也は上田の前でコケた事を恥ずかしく思った。
「いいか、半クラッチとアクセルワークで練習するんだ。最初はブレーキを使うな。
この程度はブレーキ無しでやった方がいい」
上田が、もう一度お手本を見せると言うので、やって貰うが、どこがアクセルを使っているのか半クラッチを使っているのか達也には分からない。
上田が終わるのを待って達也もS字の練習を行う。上田に言われたアクセルワークと半クラッチを使いながらのS字だ。
今度も前よりも、うまく出来たような気がする。
「どうにか、まともになって来たな」
上田は褒めているのだろうか、それとも出来の悪い弟子を諦めたのか、どっちだろう。
「川杉、脚だがな、膝は開かないように乗るんだ。教習所で教えないのか、大股開きで乗っているやつがいるが、あれは間違いだ。
膝で抑え込む事で、バイクを倒すんだ」
達也は真一のライディングを思い浮かべるが、真一もバイクは膝で抑え込んではいない。
「人に聞いたところでは、腰を落としてバイクを寝かせると聞いたが…」
「レース場ではないんだから、まったく不要のコーナーリングだな」
上田から直ちに否定される。
達也は上田に反論したい事はあったが、それでも上田の言う通りにする。
確かに上田の言う通りにするとバイクが、うまく操れているようだ。
「良し、今日はここまでにしようか。地味な訓練だが、これを毎日、練習するんだ」
毎日という言葉を聞いて、達也は無理だと思った。
「毎日か?」
「そうだ、1日やらなければ取り戻すのに3日かかる。だから、毎日やった方が良い」
「1日やらなければ取り戻すのに3日かかる」の根拠は何だろうと思ったが、そこは突っ込まないでおいた方が、いいかもしれない。
上田だって、明確な根拠は無いだろう。
「分かった」
達也は、それだけ言うのが精いっぱいだった。
上田は帰って行ったが、達也は引き続き上田から教わった訓練をしている。
S字をクラッチとアクセルワークだけで、何度も行ったり来たりするのは地味な練習だ。
5回もすれば飽きてくるが、達也はそれでも繰り返し練習していると、駐車場に車が入って来た。
どうやら利用者が来たようだ。達也も地味で飽き飽きしていたが、いつの間にか、利用者が来る時間になっていたようだ。
達也は駐車場を後にした。
それから、朝早く起きて、学校に行く前には1本でもいいから、そこの公園駐車場で練習するようにした。
雨の日などは合羽を着て練習する。だが、駐車場の白線は、雨に濡れると滑り易くなる。
達也は何度もコケながらも、上田の言われたとおりの練習をした。
達也はこの練習をしてから、真一たちの練習には参加していなかったが、久々に真一たちの所に行ってみた。
目的は実際に自分が速くなったのか、実感したいためだ。
「おはようございます」
達也が挨拶すると、真一がびっくりしたような顔をした。
「おお、もう来ないのかと思ったぞ」
「えっと、いろいろと所要があって、なかなか来れなかったんです」
「そうか、てっきり、うちの弟と同じで、寝ているのかと思った。それより、今日は土曜日だろう。学校もあるんじゃないか?」
「ええ、だから1本だけ走って学校に行きます」
「では、早速やるか。いつもの通り、俺が先頭を走る」
真一を先頭に山道を登って行く。
達也は最後尾につけて山道を登るが、前よりはついて行けている。
前もついてはいけていたが、それでもどうにかだった。
今では、それが楽について行ける。
急カーブでは練習したアクセルワークと半クラッチが、とても有効に使えている。
全員がほぼ固まって、峠に到着した。
「達也くん、上手くなったな。前はどうにかって感じだったが、俺たちに余裕でついて来た感じだ。下りは先頭を走ってみるか。俺が見てやるよ。出来れば全力で走ってくれ。
その方が分かり易いからな」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
真一から言われて、達也が先頭で走り出す。
下りは上りより数段難しい。そこを達也は練習したアクセルワークと半クラッチを使いつつ、下って行く。
地味な練習だったが、山道を下るのには有効だと達也は思った。
バックミラーを見ると、真一の姿が見えない。
おかしいとは思ったが、そのまま下まで行く事にした。
もし、コケたとしても後ろから来ているのだから、達也が止まる必要はないだろう。
山道の入り口の所に居るとそう時間も掛からずに真一たちが来た。
「た、達也くん、上手くなったな」
真一から言われた最初の言葉がこれだった。
「いえ、普通に走っただけです」
「正直、俺はついていけなかった。何んだか凹むよ」
「真一の言う通りだ。どんな練習をしたんだ?」
そう聞いて来たのは啓太郎だ。
「いえ、特殊な練習はしていないです。通学のため、毎日バイクに乗っているくらいで…」
「やっぱり、毎日乗るのとたまにしか乗らないのでは、上達の速度が違うのかもしれないな」
真一が言った言葉に、周りの仲間たちも頷いている。
「それじゃあ、これから学校なので…」
「ああ、気を付けて行けよ。俺たちは達也くんに負けないように、練習するか」
真一たちの言葉で、再び啓太郎たちは山道を登り出した。
達也は上田が教えてくれた練習方法が、あながち間違っていなかったと思った。
逆に真一たちの練習方法は我流であり、それをいくらやっても上達するのは難しいだろう。
スポーツだって、確かな指導者に師事した方が上達するのが速いと聞いたことがある。それはバイクだって同じに違いない。
そうだとすると、上田は誰にこの練習方法を教えて貰ったのか。
再び、上田について疑問が沸く。
土曜日は授業が半日しかない。その後、達也は公園に練習しに行きたいが、まだ陽の高い時間帯は駐車場の利用者がいるかもしれないので、夕方頃に行く事にした。
授業が終わり、帰り支度をしている時だ。高木から話しかけて来た。
「川杉、お前、新村の兄貴たちと走っているんだってな。新村の兄貴たちは族じゃないのか?」
見ると信二も、この場に来た。
「兄貴は族なんかじゃない」
信二が反論した。
「お前には、聞いていない」
いや、肉親だから聞いてやれよ、とは思ったが、そこは口には出さない。
「信二の言う通りだ。ちゃんと仕事もしていて、バイクは趣味で乗っている」
「趣味で乗っている点は俺と同じだな」
だが、高木は免許は持っていない。そこのところを言うと、高木はキレるかもしれないので、達也は黙っていた。
「その人らと走れるのに、俺たちとは走れないと言うんだな?」
「ああ、その通りだ。俺は族にはなりたくない」
「あん、お前が俺たちの何を分かっているんだと言うんだ」
「分からないさ。分かりたいとも、思わないさ」
「何!」
高木は気分を悪くしたようだが、何も言わずに行ってしまった。
「達也…」
信二が心配そうに言うが、達也だってどうにも出来る訳ではない。
学校を出た達也は、近くの駅に向かった。学校では中型バイクでの通学は禁止になっている。
バイクは、あくまで近くの公共交通機関に出るまでという条件で許可される。
なので、達也も最寄りの駅にバイクは置いてある。
達也はバイクを置いてある駅まで行き、自分のバイクに乗った。今日はこのまま公園に行ってみる。
もし、駐車車両がいなければ、そのまま練習することにした。
だが、駐車場には車が3台止まっており、練習できる雰囲気ではなかったので、そのまま家に帰ることにした。
だが、後ろを見るとついて来る改造車がある。
もしかしたら、高木かもしれない。
達也は、いつもの山道の方に行ってみる事にした。
今は昼間だから、車が多いかもしれないが、あんな改造車で曲がりくねった山道を通るのは無理があると思ったからだ。
山道に入ると、たしかに車は多いものの、走り辛いという程ではない。
対向車が来ないようなところもあり、そこではカーブでも追い抜きができる。
以前は視線もいっぱいいっぱいで前の車しか見えなかったが、今では、先の先まで見る事が出来る。
達也は、山道を登って行き、反対側へと降りて行った。
既に高木と思われる改造車は付いて来ていない。
少々、遠回りになったが、山道を降りて別のルートで帰ることにした。
達也は日曜日の朝には公園の駐車場に行き練習を開始すると、シルバーのカタナがやって来た。
「上田!」
「ちゃんとやっているな。どうだ、上手くなった気がするか?」
「信二の兄さんたちと走ってみたが、上手くなったと言われた」
「そうだろうな。俺が見ても上手くなったと思うぞ」
「これも、上田の指導のおかげだ」
「いや、それはいい。ところで、高木の事なんだが、昨日、高木に絡まれていただろう。お前、どうするんだ?」
「どうすると言われても、取り敢えずは、高木の誘いには乗らないつもりだ」
「まあ、そうなんだろうが、もし、しつこいようなら、先生に相談した方が良いと思う」
「ああ、様子を見てみるよ」
達也も、それぐらいしかやりようがないと思った。
「どれ、見てやるからやってみろよ」
上田に言われ、達也はS字の練習を開始する。
達也の次に上田も同じようにS字の練習をするが、あの重いカタナを上田は余裕で引き回すし、見ていてきれいだ。達也は正直、そう思った。
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