第12話 清明の両親
清明は、それだけ聞くと黙って後ろを付いて来る。しかも、学校帰りの女子高生の姿でだ。
「ここが、俺のアパートになるけど」
アパートの前まで来ると、清明に紹介した。
「あ、あのう?」
「何か?」
「トイレは共同ですか?」
「いや、さすがに俺もそれはどうかと思ったので、トイレは共同じゃない」
「お風呂はありますか?」
「一応ね、ここらは銭湯もないしね」
「部屋の間取りはどうなっていますか?」
「六畳の和室とキッチンのある洋室かな、洋室は狭いけど。だけど、どうしてそんな事を聞くんだ?」
「だって、これから住むんですから、気になります」
「はあ~?今、何と?」
「いえ、これから一緒に住みますから…」
「ちょっと待て、一緒に住むってどういう事だ?」
「ですから、同居するという事です」
「いやいやいや、誰が同居を許可するんだ。俺の借りている部屋だぞ」
「先ほど親に相談したところ、同居して霊が悪さをしないか監視しろということになりまして、ですね…」
「はーあ?誰が同居しろと…?」
「両親です」
「あんたの親はおかしくないか。自分の娘を初めて会った男と同居しろなどと」
「そうでもしなければ、霊が何をするか分かりません。あなただけで済めば良いですが、場合によっては、この地が怨霊だけらになってしまう可能性もあるのです」
俺は頭を抱えた。俺はその場で、清明を説得するが、親からの命令だという事で、一歩も引かない。
清明と言い争っていると、そこに黒塗りの車が停まった。後部座席からは中年の男と女の人が降りてきた。
「父さま、母さま!」
「えっ、ご両親?」
清明の両親は車から真っ直ぐに、こちらに向かって来る。
俺の前に来ると、父親が頭を下げた。
「この度は娘を同居させて頂く事になり、ご面倒をおかけする。これもそなたに憑いている霊が悪さをしないようにするため、ご了承下され」
「いや、お父さん、大事な娘を男一人暮らしの部屋に同居させるのは、狼の群れに子羊を投げ込むようなものです」
「あなたは群れてないじゃないか」
「いや、例えばです」
「ちょっと、あなたも待って下さい。私は母親としてこの人に聞きたい事があります」
どうやら、お母さんは普通の人みたいだ。
「あなた、お名前は?」
「へっ?」
「おお、そう言えば、名前を未だ聞いていなかったな」
「あっ、私も未だ聞いていなかった」
おい、清明とやら、俺の名前も知らずに同居しようとしてたのか?
「俺は『藤原 怜』って言うんだ」
「なんと、あの藤原家のご子孫か」
父親がびっくりしているが、そんなに珍しい名前でもないだろうに。
「『あの』って、俺の家を知っているんですか?」
「昔、藤原鎌足とか有名な人がいたな」
「いや、それは大昔の事でしょう。今となっては藤原なんて名字、どこにでも居ますよ」
「それでは、藤原さん、いや怜さん、娘をよろしくお願いします」
母親が頭を下げた。
「ちょっと、お母さん、何を言ってるんですか?」
「親の私から見ても、この子には人一倍愛情を捧げて来ましたから、一緒になられても問題なく暮らしていけると思いますので、大事にして下さい」
「いやいやいや、それはちょっと重たいから」
「それでは、清明これを」
父親が指示をすると、運転手がトランクから大きなスーツケースを取り出した。
「私は父さま、母さまのご期待に応えられよう頑張ります。この命に代えても、悪霊などに悪さはさせません」
「「清明!」」
両親は涙を流しながら、清明の手を握っている。第三者からすれば、その姿は今生の別れのようにも見える。
「いや、だから、誰も俺のアパートに住んで良いとは言ってないから」
「何!」
父親の形相が変わって、俺に今にも掴みかからんとしている。
「あんた、うちの娘が命を懸けてあんたを救おうとしているのに、いらんとは何だ。
良くみて見ろ、うちの娘は小さい頃から蝶よ花よと育て、どこに出してもおかしくない娘に育ったんだ。
美貌だって、そこらの娘御なんかより、余程綺麗だと思わんか」
父親にそう言われ、改めてみて見ると、確かに美人だ。しかも制服の上からなので、明確には分からないが、スタイルも良さそうだ。長い髪もサラサラヘアでまるでアニメの世界から出て来たような女の子だ。
ひとつ残念だったのは、背が低い事と、胸が小さい事だ。
「は、はあ、確かに美人ではありますが…」
「うん、何かあるか?」
「あっ、いえ、何もありません」
「これから、同居するのだ、正直に言いたまえ」
もう、こうなれば焼けっぱち。
「えっと、胸が小さいかなと」
「えっー、酷い。私だって、気にしていたのに」
「儂もそう思っていたが、直接口に出して言うなどと」
「清明、ごめんね。私が小さかったばかりに、あなたも小さくなってしまって…」
「いや、だから、言えないって言ったじゃないですか」
アパートの前で言い争っていると、通行人が怪訝な顔をしている。
「もう、人から見られますから帰って下さい」
「いや、まだ話は済んでおらん。続きは部屋の中でしようじゃないか」
通行人から見られることは、この両親も恥ずかしいらしい。
そのうち、立ち止まる人も出て来たので、俺もこの場から逃げ出したい。
「分かりました。それなら、部屋にお入り下さい」
俺は、自分の部屋に来て貰うことにした。運転手付きの黒塗り車で来るぐらいだから、かなりの金持ちなんだろう。
貧乏学生の部屋をみれば、考えも変わるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます