第13話 同居

「ここです、どうぞ」

 俺は三人を自分の部屋に招き入れた。

「なんと、狭い」

「ほんとに、なんて可哀想」

 両親はどうやら諦めてくれそうだ。

「……」

 清明の方は、何も言葉に出ない。

「分かりましたか?それでは、お引き取り下さい」

「清明、これは修業だ。こんな場所でも、お前の努めを果たさなければならない」

「そうよ、安倍野家、いえ、日本中の平和のために頑張って頂戴」

「はい、父さま、母さま、一生懸命頑張ります」

 三人は手を握り合って、娘を励ましている。

「いや、帰るんじゃないですか?」

「外で揉めていると通行人が五月蠅いからの、ここなら問題ないじゃろう」

「それは議論をするのであって、既に同居する事が前提っておかしいでしょ」

「いや、もうここまで来たから良いではないか、それでは、清明、可愛がって貰うようにな」

 両親はそう言い残すと、清明を置いて出て行った。

 後に残されたのは、可愛い女子高生と大きなスーツケースだけだ。

 俺は、まるで台風が過ぎ去った後のような部屋の中に立ち竦んだ。

「末永く、よろしくお願いします」

 見ると、清明が三つ指をついて頭を下げている。

「末永くってどういう意味だよ」

 俺は、疲れ果てた身体で清明に聞いた。

「悪霊退治には時間がかかります。ですから、これからよろしくお願いしますという事です」

「はーあ?」

 麗の方を見ると、困った顔をしている。

「麗、何か言ってくれ」

「私が言っても、その娘には伝わらないのでしょう」

「そうだったな。しかし、どうすれば良いものか」

「まあ、仕方ないと諦めなさいませ」

「お前まで、何を言ってるんだ」

「私だって同居していますから、その娘と同じようなものですから」

 それは間違っていないが、幽霊と人間では肉体があるのと無いので違う。

「あ、あのう…」

 清明が恐る恐る聞いてきた。

「何?」

「今、誰かと話をされていたようですが…」

「ああ、この霊である麗と話をしていた」

「霊の麗さんですか?」

「そうだよ」

「うあー、ホントに霊と話が出来るんだ。すごーい」

「だから、それは言ってただろう」

「でも、幽霊の麗さんにあなたも怜さん、レイが沢山いますね」

「おちょくってるの?それは否定しないけどさ」

「いえ、そんなことはないです。それより、空いているクローゼットとかないですか?持って来た服とかを整理したいので」

「そんな、洒落たクローゼットなんていうものは無い」

「タンスでも構いません」

「タンスも無い。あるのはホームセンターで買ったクリアボックスとカラーボックスだけだ」

「えっー、私の服はどうすれば良いんでしょうか?」

「そんなの知るか」

 ちょっと頭に来た俺は、清明に冷たくした。

「ウエーン」

 すると清明が泣き出す。こうなると男は弱い。

「あっ、ごめん。だけど、見ての通り、この部屋は狭く、余分な物はないんだ」

 まだ、涙を溜めている清明は部屋の中を見渡すと、

「せめて、ハンガーだけでも下さい」

 俺は数本のハンガーを渡すと、清明はそれに服を掛け部屋の柱にハンガーごと掛けて行った。

 スーツケースの片付けが終わり、清明は制服のまま座っている。

「それで、どうするつもりなんだ。ここには君の布団もないんだ」

「私がベッドで寝るので、怜さんは畳で寝るというのはどうでしょうか?」

「まだ、夏だからそれでもいいけどね。だけど、ここは俺の家だからね」

「ですよね、ベッドって男の人の臭いがありますしね」

「おっ、分かっているじゃん。ならば出ていってくれ」

「いえ、ここを出て行っても、除霊を果たすまでは実家には入れて貰えないので、野宿しなければなりません。あなたは、こんな可愛い娘を外に追い出すのですか?」

「自分で可愛いと言うか?」

「てへ」

「何が『てへ』だ。うん、『てへ』って」

 俺は麗の方を向いた。すると、麗は斜め上を見て、口笛を吹く格好をしている。

「おい、麗、お前は何をしている。これはお前にとっても、関係ある事なんだぞ」

「別にいいじゃありませんか、置いてやれば。そんな小娘に除霊される私ではありませんよ」

 麗とのやり取りを見ていた清明が聞いてきた。

「あのう、麗さんは何と?」

「そんな、小娘に除霊される霊ではないと」

「何ですって?こうなれば、是が非でも除霊してやる」

 清明はそう言うと、呪文を唱えながら、榊を出して振り出した。

「ホホホ、まだまだですね。全然、除霊になっていません」

「清明さん、麗は余裕のようだぞ」

「くそー、こうなれば徹底抗戦だ」

 可愛い女子高生が「くそー」なんて言うなよ。

 俺は再び、呪文を唱えようとする清明を制した。

「それより、今日の布団をどうにかするんじゃないのか?」

「あっ、そうでした。では、布団は実家から持って来て貰います」

 清明がそう言った時だ。玄関のベルが鳴る音がした。

「ピンポーン」

「はーい」

 清明が自分の家であるごとく、玄関に行く。

「あっ、こっちにお願いします。怜さん、失礼します」

 入って来た人を見ると家具屋で、ベッドを持っている。

「えっと、このベッドの横に置いて下さい」

 清明がそう言うと、家具屋は俺のベッドの横に持って来たベッドを置いた。

「ありがとうございました」

 家具屋はそう言うと、伝票に清明のサインを貰って帰って行った。

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