第11話 あなた、霊が憑いてますよ!

 そして、夏休みが終わった俺は大学生活に戻る。バイトも夕方から夜だけになった。

 そんなある日、バイトから帰る歩道を歩いていた時だ。

「ちょっと、お待ちなさい」

「?」

 俺の事だろうか。いや、人に呼び止められるような事はない。

「ちょっと、お待ちなさい」

 しかし、俺に向かって言われているような気がする。

 俺は後ろを振り返った。

 すると、スカートを短くした女子高生がこっちを見て、仁王立ちしている。

 俺は思わず後ろを振り向いたが、俺以外の人はいない。

「そうです。あなたです」

 俺は、指を自分の鼻に当ててみる。

「そうそう、あなたです」

「あ、あのう、何でしょうか?」

「あなた、霊が憑いてますよ!」

「はい?」

「いえ、だから、霊が憑いてますって!」

「ええ、憑いてますが…」

「ち、ちょっと、霊が憑いているって言ってるんです」

「ええ、ですから、麗が憑いてますよ」

 麗が憑いているのは既に知っている。今更、改めて言われる必要はない。

「いや、ですから、霊が憑いて…。ちょっと、待って下さい。今、霊が憑いていると…」

「ええ、麗は憑いていますけど…」

「あなた、自分で霊が憑いているのを知っているのですか?」

「もちろん、知っています」

「えっ、ええ~?」

「いえ、自分の霊ですから、知っていて当然です」

「も、もしかして、あなたは霊能力者ですか?」

「いえ、普通の大学生です。それより、あなたは何者ですか?高校生ですよね」

「申し遅れました。私、こういう者です」

 そう言うと、この女子高生は名刺を取り出し、俺に差し出した。

「悪霊退治 霊能力者  安倍野 清明」

 名刺にはそう書かれてあった。

「えっと、霊能力者 安倍野 清明(あべの せいめい)?」

「いえ、そこは違います。『あべの きよめ』と読みます」

「は、はあ、その『あべの きよめ』さんが、何用でしょうか?」

「だから、霊が憑いていると、言っているんです」

「それは、分かりましたし、俺もそれは知っていますって。それで、俺にどうしろと言うのですか?」

「えっと、ここでは何ですから、人のいないところでお話しましょう。これはあなたの命に関わる事ですから」

 命に関わると言われたら、そのままスルーは出来ない。

「分かりました。この先に公園があります。そこでどうでしょうか?」

 俺たちは公園に来ると、ベンチに腰を降ろした。

「それで、どういう事でしょうか?」

「あなたには、霊が憑いています」

「それは、聞きました」

「このままだと、あなたはその霊に殺されます。至急、除霊が必要です」

 俺は、麗の方を見ると、麗は手を横に振っている。

『私は怜さんを殺す事なんてしませんよ』

 脳内会話でも、そう言って来た。

「除霊は必要ありません」

「いえ、このままでは呪い殺されますよ。除霊には多少の費用はかかりますが、絶対、やった方がいいです」

 なるほど、そういう事だったのか。結局は、お金の問題だったんだ。

「除霊の費用なんて、貧乏学生の俺には無理ですよ」

 こう言うのって、かなりの金額を請求されると聞いた事がある。

「いえ、お金の問題ではありません。人が呪われて死んでいくのを見ている訳にはいきませんから、是非、除霊を受けて下さい」

「ですから、いいですって、それより、何故、俺に霊が憑いているのを知っているんですか?」

「私には、霊が見えます。あなたのその後ろに今、霊が居るのです」

 俺は麗の方を指差した。

「その霊ってこれですか?」

「え、ええ、そうですが、あなたにもその霊が見えているのですか?」

「ええ、見えてますよ。白いワンピースを着ているでしょう」

「ええ、その通りです。白いワンピースを着た若くて、可愛い少女の幽霊です」

 可愛いの声に麗が嬉しそうにするが、この女子高生は今からお前を除霊するとか言ってるんだぞ。

「だとすると、同じものですね」

「そうですか、私は私以外に霊を見れる人に出会ったのは初めてです」

「私は、この霊と話せますよ。ちなみに、この霊は『白鳥 麗』という少女の霊です」

「なんと、霊と話が出来るんですか?私でも、霊とは話が出来ないというのに」

「そして、この霊は私を殺さないと言っていますから、ご心配なく」

「いえ、そう言われましても、私も平安時代から続く悪霊退治の使命があるので、このままという訳にもいきません」

「あなたもしつこいですね、私はこの麗と仲良く暮らしていますから、ご心配なく」

「それでもですね、牡丹灯籠の話もありますから、今後どうなるか分かりませんし」

「この麗は、そんな事はしません」

「そこまで言うなら、今から実家に確認しますので、ちょっとの間、待っていて貰って良いでしょうか?」

 それで済むなら、済ませたい。

「もしもし、清明です。実は強い霊が憑いている人が居たのですが、除霊は必要ないと頑固に拒否なされていて、どうしたら良いものかと…。

 あー、はいはい、分かりました。そのようにします」

 清明は電話を切ると、こちらを向いた。

「対応が決まりました。これから私がそちらの家まで、おじゃまさせて頂きます」

「は?どういう事?」

「いえ、ご自宅まで、同行するということです」

「えー、俺のアパートまでか?」

「ええ、そうです」

 来て貰って、貧乏学生であることが分かれば、金が貰えないと諦めるだろう。

「分かりました。ここから、15分ぐらい歩きますが、それで良ければ」

 俺が歩き出すと、清明も後ろをついて来た。

「あのー、先ほどアパートとおっしゃいましたが、一人暮らしなんですか?」

「ええ、そうです。地方出身の学生ですから」

「……、そうですか」

 一瞬、間が開いたが、何だろう。

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