第10話 殺人犯
そんな時、一つのニュースが流れた。
「昨夜、帰宅途中の会社員 上杉孝雄さんが刺されて死亡しました。警察は路上で上杉さんと口論していたと思われる男の行方を捜しています」
テレビに、殺された上杉という男の人の顔写真が映った。
「怜さん、この人は私のくまちゃんに花を供えてくれた人です」
「ええっ!ほんとか?」
「ええ、あの場所に残った残留思念と顔が同じです」
「この人は麗のところに花を供えてくれた優しい人に違いないのに、それが死んでしまうなんて、殺したやつは許せないな」
「お葬式とかに行けないですか?」
「行ってどうするんだ?」
「殺した人が、分かるかもしれないです」
「何だって!分かった。行ってみよう」
葬式の会場は直ぐに分かった。殺人事件でニュースで流れた事もあって、ネットとかで検索すれば出てきた。
俺は自転車で、葬儀会場に到着すると遠くから祭壇を見た。だが、香典を持って来ていないし、礼服もない。
『しまった。私服で着てしまった』
『ここからでも大丈夫です。ちょっと聞いてきますね』
麗は、そう言うと飛んで会場の中に入って行った。
俺は外から中を見てみると、死んだ上杉さんの横には小さな女の子の写真も置いてある。それが恐らく、幼くして死んだ子供の写真だろう。
奥さんが泣いて、下を向いている姿が気の毒でならない。
麗は10分ぐらいすると出てきて、俺に話しかけて来た。
『分かりました。顔を脳内会話で送ります』
麗がそう言うと、俺の頭の中に犯人の顔が浮かび上がる。若いが眼つきの良くない、いかにもチンピラといった感じの男だ。
『こいつが犯人か』
『事件のあった場所に行って下さい』
麗の指示通りに事件のあった場所に行く。
そこは、バイト先の店からそう遠くないところで、夜は繁華街だ。仕事帰りの会社員が一杯飲んでから帰る所として知られている。
『ここのようだが』
既に事件の後は、何も無かったようになっていた。
『ここですね、二人が争った跡があります』
『犯人が分かるのか?』
『今から逃げた後を追いかけます』
麗は空中に浮かんだまま、動き出した。俺はその後に付いて行く。
いくつかの角を曲がると、古いアパートが立ち並ぶいかにも古い町並みに来た。
麗は木造アパートの前で止まると、俺に脳内会話で話しかけて来る。
『ここです。今、このアパートに居ます』
『さて、どうしようか?警察に通報しようにも証拠もないし』
『私が犯人の頭の中を探ってきます』
麗がそう言うと、アパートの二階の一室に入って行った。
俺はしばらく、近くの公園で待つ事にする。
この公園は草が生えており、子供たちも遊んでいない。この地区周辺は建物も古いが、住んでいる人たちも高齢者が多い。
その草が生えている公園に居ると、30分ほどで麗が帰ってきた。
『犯人の名前が分かりました。「半田 和也」といいます。』
『何か、証拠品みたいな物はあったか?』
『犯行に使ったと思われる刃物がありました。ですが、血痕とかは既に拭いてありました』
『それ以外に分かった事は?』
『記憶の中にも入ってきました。彼自身も可哀そうな人生です。生まれて直ぐに母親が死んで、父親は再婚しますが、継母に疎まれ妹が生まれてから、父親の愛情も妹の方に向けられました。
それで、彼は悪い事をして父親に関心を持って貰おうとしますが、返って父親も手に負えないと思ったのか、施設に預けてしまいます。
施設でも馴染めなくて、彼はそこを中学1年で飛び出し、その後は犯罪を繰り返します。半年で、少年院に行き、そこで知り合った少年と少年院を出た後、つるんでいましたが、結局仲間割れしてから、その少年に暴行を働き、再び少年院に戻っています。
そこを出てからは、恐喝や婦女暴行を繰り返しています』
『殺人は、していなかったのか?』
『そこまでは、やってなかったようです。今度も酔客にわざとぶつかって金銭を脅し取るつもりだったのが、上杉さんが抵抗したので、殺してしまったようです』
『生い立ちに同情すべき点はあるが、それでも犯罪を犯して良いという事ではない。残された奥さんの事を考えると居たたまれない』
『彼自身は小心者です。今でも、布団の中で震えていましたから』
『どうにか、自首とかしてくれないだろうか。このままだと、また同じ事を繰り返してしまいそうだ』
『私がどうにかしましょうか?』
『どうにかって?』
『まずは、彼の夢の中に出てきます』
『麗にまかせる。やってみてくれ』
麗は再び、犯人である半田の部屋に向かって行った。
だが、今度は時間がかかっているようで、1時間ほど帰って来なかった。
陽が落ちる頃、麗はようやく帰ってきた。
『どうだった?』
『かなり、怖がっていましたから、自首すると思いますよ』
『何をやったんだ?』
『彼の夢の中に出て、上杉さんの死体の様子を見せたんです。後は定番の「うらめしや~」ってやつをやっておきました』
『……』
『えっと、何か問題でも』
『いや、何でもない』
家に帰ると、テレビのニュースで犯人が自首してきた事を伝えていた。
犯行に使った凶器も見つかったとのことだ。
「これも麗のおかげだな」
部屋の中なので、脳内会話を使うことなく話が出来る。
「ちょっと、やり過ぎだったかな。最後は物凄く怖がっていましたから」
それを聞いて、どういう風にやったか聞いてみたい気もする。
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