第8話 復讐

 俺は次の日から今までの平安うどん店のライバル店で働き出したが、俺が居なくなった事で、今までの店は客足が落ちた。反対に、俺が新しく勤め始めた店には客が殺到した。

 この店では俺が作るうどんはスペシャルメニューとして提供することにし、その価格も今までのうどんの3倍としたが、それでも客は詰め掛けている。

 しかも1日に数量限定となったので、それが評判を呼び、今では1週間先まで予約でいっぱいだ。

 さすがに服部部長もこれは想定外だったようで、俺専用の店を出すことになった。

 そうなると、今まで努めていた平安うどんが俺を引き抜いたと言って、裁判所に訴え出たのだ。

 そうなるとテレビや週刊誌も黙っていない。ワイドショーでは朝からは晩まで、うどん屋同士の法廷闘争を放送している。

 国民も全国チェーン店同士の争いに興味深々だ。だが、これは意外なリークがあった。

 俺が前に居た平安うどんが、俺のバイト代を払っていなかった事をあるテレビ局がスクープしたのだった。

 これは完全に法律違反だ。だが、前に勤めていた平安うどんは当初これを否定したが、それは調べれば直ぐに分かった。しかも、払ったように、明細とかを偽造までしていたことも判明した。

 そうなると世間は一斉に平安うどんを叩く。株価も急落した。

 そんな中、前に勤めていた平安うどんの平田社長の自殺のニュースが報じられた。

 俺はその自殺記事が掲載された新聞を店の新聞棚に収めると、店を閉めて帰宅の途に就く。

「待て!」

 家に向かう俺を引き留めた男が居る。

「あっ、鈴木部長」

 誰かと思ったが、潰れた平安うどんの鈴木部長だ。前の会社は平田社長が自殺して、とうとう倒産した。

「お前のせいで、こうなったんだ」

 そう言う手には、包丁が握られている。

「な、何をするんですか?」

「お前のせいで、こうなったんだ。命で償って貰う」

 まだ、夜も更けていない。通行人も多くいるので、俺たちを通行人が取り囲んでいる。

「キャー」

 女性の声が響く。

「こ、こら、何をやっている」

 誰かが呼んだのか、警官が二人やって来た。

 警官は拳銃を出し、犯人に向かって構えた。

「武器を捨てろ、さもなくば撃つ」

 それを見た野次馬の輪が広がった。

「ファン、ファン、ファン」

 パトカーも駆けつけて来た。他の警官も応援に来て、野次馬を整理している。

 その中の何人かはスマートフォンを手にしているので、ここの画像を撮影しているのだろう。

 気が付くと、包丁を持った元部長の周りは警官だけらだ。元部長は諦めたのか、包丁を落とした。

 そこにすかさず手錠を持った警官が近づき、鈴木部長を現行犯で逮捕した。

「藤原さんですね、事情聴取のため、署にご同行して貰ってもよろしいでしょうか?」

 そう言って来た刑事らしき人は身分証を見せて、俺に同行を求める。

 そして、この事はその日の夜のニュースで放送された。

 もちろんスマートフォンを持っていた人も居たので、動画付きで放送されている。

「ふう、疲れたな」

 その日、遅く帰って来た俺は麗に言った。

「お疲れ様でした。まさか、あんな事になろうとは思いもしなかったです」

 もう直ぐ8月も終わろうとしている。このバイトの騒ぎに1か月も要してしまった。


 警察に行った翌日の夜、部屋でゆっくりしていると、俺の携帯電話が鳴った。

「トゥルルル」

「はい、藤原です」

「よう、有名人。元気か?」

「何だ。誰かと思ったら、隆司か」

「お前も大変だったな。それで、今はどうだ?」

「どうにか収まってきたみたいだ。相変わらず、お客さまは多いけどな」

「友人としては、お前が無事で良かったと思っている。ところでだ、例のサナトリウムに、また行ってみないか?」

「いや、あそこは懲りただろう。もう止めようぜ」

「ところが、あそこが取り壊される事になったらしい。それでもう一度行ってみないかと誘っているんだ」

「ちょっと、考えさせてくれ」

 俺は隆司との電話を切った。

「麗、あそこのサナトリウムが取り壊されるみたいだ。それで、隆司がもう一度あそこに行ってみないかと誘って来たんだけど、麗はどうする?」

「取り壊されるなら、私は行ってみたいです。17年間も暮らした施設ですから」

「90年間じゃないのか?」

「死んでからの73年間は、計算に入れないで下さい」

「それじゃ、隆司に電話する」

 俺は隆司に電話すると、圭一郎や龍太も来ると言う。

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