第3話 出た!
仕方ないので、俺も3人に付いて3階への階段を上る。3階への階段も同じ木の階段だ。
「ギシギシ」
2階に上る時と同じような音がする。
3階に来たが、これも2階と同じような造りになっていて、中央の階段の左右に病室と思われる部屋が続いている。
2階の時と同じように、右の方から見て行く事にした。
3階も部屋の造りは同じだったが、ベッドの無い部屋もあり、そのような部屋は広く感じられる。
「ヒュー」
暖かい風が入って来る。また、どこか窓ガラスが割れているのだろう。
「コツコツ」
廊下を歩くと、靴音がするが、今度は人数分聞こえ、音のずれもないようだ。
やはり、さっきの音は何か反響していたものと思われる。
「おかしいな」
俺はそう呟いた。
「何がおかしい?」
俺の呟きを耳に止めた隆司が聞いてきた。
「いや、さっき風が通り過ぎただろう。てっきり、窓ガラスが割れているものだと思ったが、3階はきれいで、窓ガラスの割れもない。
すると、どこから風は入ってきたんだ?」
俺の疑問に全員が顔を見合わせる。
「まだ、全部の部屋を見た訳ではない。他の部屋から入ってきたかもしれないじゃないか?
それに、2階から入った風が3階まで上がって来たとも考えられる」
圭一郎が説明するが、それは圭一郎も自分で否定したいのだろう。
「そうだな、残りの部屋も見てみるか」
隆司はそう言うと、今度は階段の反対側の方に向かって歩き出した。
「待て」
「今度は何だ、怜」
「いや、何故、靴音がしない」
俺の言葉に全員が、唾を飲むのが分かった。
「そ、それは廊下の作りが違うとか、建物の疲労の違いとかあるだろう」
再び、圭一郎が答えると、それに隆司が同意する。
「そうだとも、昔の建物だからな、作りが均一って訳でもないだろう」
既に隆司も帰りたいのだろう、声が震えている。
「取り敢えず、端の方に行ってみよう」
俺たちは途中にある病室には入らずに速足で、一番端にある病室のところに来た。
病室の扉は開いており、そこにはベッドが一つと、他の部屋と同じような棚がある。
隆司が懐中電灯で、部屋の中を照らすと、床に何か落ちていた。
「ギョ!」
思わず、隆司が声を出す。
全員が懐中電灯で照らされた先を見ると、そこにあったのは、くまのぬいぐるみだった。
「うわー、びっくりした、ぬいぐるみかよ」
隆司が、一安心という感じで言う。
俺は、そのぬいぐるみの方に行ってみる。
「怜、それをどうするんだよ?」
隆司が聞いてきた。
「何もない建物の中の唯一の物だからな、何か分かるかなと思って」
俺の言葉に全員が来た。
見ると、かなりの時間は経っていると思わるデザインのくまのぬいぐるみだが、意外としっかりとした作りになっている。
「古そうな割にしっかりしているな」
「昔の人は、裁縫とかしっかりと作ってあったからじゃないか」
俺の言葉に、ぬいぐるみを見ていた圭一郎が答える。
良く見ると、くまの目はプラスチックではない、ガラス玉のようだ。そのガラス玉の作りが悪いのか、それとも長年の埃なのか、くまが泣いているようだ。
「なんだか、泣いているように見えるな」
その言葉に、誰も何も言わない。
「もしかしたら、亡くなった持ち主の事を思っているのかもしれないな」
俺が言うと、全員が首を縦に振る。
俺は、そのくまを手に取り、残ったベッドのところにあった棚にそっと置いた。
「怜、どうしてそこに置いた?」
「いや、ここにあるのはこのベッド一つだけだろう。だとすれば、最後に持ち主が居たのは、このベッドだったのかなって」
「そうかもしれないな。このぬいぐるみから、この主人は若い女の子だったかもしれないな。それが、若くして亡くなったなんて、可哀そうに」
圭一郎が言うと、全員が頷く。
「あっ、ちょっと待ってくれ」
「何だ、怜?」
「ここに、何か書いてある。隆司、灯りをくれ」
俺は隆司に懐中電灯で、くまのぬいぐるみを照らすように指示した。
くまの首のところに、名前が書いたリボンがある。
「ここだ、『麗』って書いてあるぞ」
俺が読むが、姓の方までは読めない。
「怜と麗か。なんだか因縁みたいなものを感じるな」
「縁起でもない事を言わないでくれ」
隆司の言葉に俺が反論する。
「さて、それじゃあ、帰るか。特に何もなかったしな」
「あ、あったのは、くまのぬいぐるみだけだな」
龍太も一安心と言った感じで言う。
俺たち4人は、その部屋を出た。全員がもう一度、くまのぬいぐるみの方を何という事なしに見た。
すると、ベッドの横に白いワンピースのような服を着た若い女性が目に入った。
女性は、かなりしっかりとした姿で、姿もはっきり見える。
その瞬間、背筋に冷たいものが伝わった。
「「「ギャー!!」」」
隆司と圭一郎と龍太が同時に叫ぶと、階段を目指して走って行った。
俺も走ろうとするが、足が出ない。
「おい、怜、早くしろ!」
隆司の言葉に正気が戻ったようになった俺は、3人の後を追って階段のところまで来た。
「み、見たか?」
「み、見た」
隆司の言葉に圭一郎が答えるが、龍太と俺は言葉も出ない。
それでも、恐る恐る先ほどの部屋の方を見るが、既に暗闇があるばかりだ。
「幻だろうか?」
「い、いや、とてもそうは見えない」
「と、兎に角、帰ろうぜ」
俺の言葉に全員が同意する。
俺たちは入って来た扉を出て駆け足で車に向かい、各々の家に帰った。
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