第87話生徒会帰還途中
「はあ、会議から帰ってきたかと思ったら次はライブの引率か〜。やだな〜」
とある駅のホームで京也くらいの歳の少年がそう呟く。その髪は白髪のボサボサで、手入れされていない事が容易に想像できた。
「まあまあ、いいじゃないか垰! 青春とはこういう事を指すんだ! 忙しきこの日々を一緒に楽しもうじゃないか!」
そんな少年に話しかけるのは大志と同じような黒髪でオールバックの髪を持ち、何故か額に鉢巻きを巻いている少年だ。どこからどう見ても熱血だという事が分かる。
「ええ〜、でも風早先輩。俺達忙しすぎないですか? 俺はもう早く帰って寝たいです」
「はっはっは! 自分の好きなように寝るのもまた青春! それはいいな垰! じゃあこの俺も一緒に寝ようじゃないか!」
「何言ってんの風早! これからライブで誰がどのクラスを引率するのか決めるんだからダメに決まってるでしょ! それに垰君も面倒くさがらないでシャキッとしなさいシャキッと! はあ、ほんとこの二人の相手は疲れる。会議の時も他の学園からこの二人について物凄い突っ込まれるし、もうやだ」
何故か帰って寝る事になってしまった二人の会話に茶髪で、長い髪を後ろで纏めたポニーテールの少女が突っ込む。昨日は寝れなかったのだろうか、目の下にクマができている事が分かる。
「ははっ、お疲れだね神前。悪いね、会議には三人しか出れない上に生徒会長と副会長は必須で出なきゃいけないみたいだからね。君に全部託す事になってしまった。まあ、面倒くさい書類整理などは俺らがやってたからおあいこって事で」
そんな少女の怒りを、糸目で優男な少年が抑えようとする。
「おあいこになるわけないでしょ。この二人の事で私がどれだけ会議中に責められたと思うの? おかげでちょっと鬱になりかけたわよ。ほんとこの二人って変」
しかしそんな言葉で彼女の怒りも治まるはずもなく、神前と呼ばれた少女は思い出したく無いように言う。
「まあまあ、神前先輩! 一緒にお茶でもして休みましょうよ! お茶すれば心も落ち着くって物です! 皆さんも一緒にどうっすか!」
「ああ、犬飼君。いいわね、そうしましょう。やっぱり気が効く子はいいわね〜。それに子犬系男子、ほんと私の好みだわ〜」
無邪気で、前髪を黒色のピンで止めている少年が神前をお茶に誘い心を休ませるように言うが、それに長い黒髪の少女が反応する。
「ねぇ神前、変なのがもう一人いるよ」
「もうそいつに関しては関わらない事にしてるから。だってどっからどう見ても変態だし。それとありがとね、犬飼君。気持ちは嬉しいけど一通り予定が終わってからね」
「了解っす!」
「じゃあ、犬飼君。私と一緒に二人っきりでお茶しましょうか。それからは……ぐへへっ」
「おっ、造宮先輩一緒にお茶してくれるんっすか? 嬉しいっす! 自分お茶の入れ方には自信があるので任せてください! ああ〜、でも神前先輩から一通り終わってからって言われたんで……その後にでもどうっすか!」
長い黒髪の少女、造宮が気持ち悪い声を出していたが、犬飼はそんな事気にしていない様子だった。
「ええ、いい「ダメよ」
「なんで!」
「あんたが変態だからよ。あわよくば犬飼君を食っちゃおうと考えてるんじゃないでしょうね?」
「ま、まさかそんなこと、す、するわけな、ないじゃない」
神前の言葉に、造宮はあからさまに動揺する。きっと嘘をつくのが下手なのだろう。
「はあ、動揺しすぎ。バレバレよ。さあ、『鳴細学園』に帰ったら度会と流川と一緒に引率の件決めるよ。【十指】なんだから学園着いたら皆ビシッとしなさいよ。あっ、次はあの電車ね、皆ついて来て」
電車に乗り込んだ所で神前はある事に気付く。
「あれ、快斗君は?」
そう、今まで会話に入ってこなかった最後の一人がどこにも見当たらないのだ。
「ああ、村瀬先輩ならさっきまでいましたよ〜」
「えっ、垰君。さっきまでってどういう事?」
「いや〜、皆さんが話し込んでる間に『次の電車はあっちか〜!』って反対方向の電車乗って行きました」
「はあ!? なんで止めなかったのよ!」
「いや〜、なんか面倒くさかったんで。それに村瀬先輩ならまあ慣れてるし大丈夫かなって」
「あちゃ〜」
「ほんとうちの【十指】はどうなってんのよ〜!」
垰の言った事に優男な少年は頭を抱え、神前は電車の中という事を忘れ、大きな声で叫んだ。
そしてその頃反対方向の電車の中では、
「あれ、神前達は?」
村瀬快斗が一人ポツンと電車に乗っていた。
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