没落の桜家
第85話ライブ鑑賞決定
京也と京介の状況を薺達が知った次の週の月曜日、一年三組は今までに無いような盛り上がりを見せていた。
「まあ、なんだ。盛り上がるのは分かるが、節度を待てよ。では夏休みに行く桜小和のライブについての待ち合わせ場所等についてだが」
「「「「Foooooooo!」」」」
そう三組は桜小和のライブへ行ける事になったのだ。
「うるさい! お前らあんまりはしゃぐようだと他の組に権利を替わってもらうぞ!」
「「「「………………」」」」
若宮のその叱責に騒いでいた者達は全員人が変わったように黙り込んだ。
「よろしい。ではライブの日程だが、夏休みにーーー」
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「いや〜、感謝しろよ相棒! 俺らのおかげであの世界の歌姫、桜小和のライブに行けるんだからな♪」
「そうだぞ京也、普通ならチケットなんて滅多に手に入らないほどの人物なんだからな!」
「いや、前々から言ってるけど俺その人に興味ねぇって。ん? でも待てよ、桜?」
ホームルームで若宮から夏休みに行く事になった桜小和のライブについて説明が行われた直後の一年三組は、それもう信じられないぐらい盛り上がっていた。
それもそのはず、桜小和はデビュー当初から史上最高峰の歌声の持ち主として話題になっていたのだ。ファンクラブに入っていたとしてもライブに行けない事の方が多い。ましてやファンクラブに入っていない者はライブに行ける事はまず無いと言っていいほどの人物なのだ。そんな歌姫のライブに行けるのだから騒ぐなという方が難しいだろう。
「よ、よかった。氷室さんは小和ちゃんに興味ないんですね(ボソッ)」
「ん? なんか言った薺さん」
「い、いえなんでもありません! いや〜小和ちゃんのライブ楽しみですね〜!」
心から漏れてしまった声を京也の耳が少し拾ってしまった事に焦った薺は急いではぐらかす。
「お、おお。そうだな」
(……やっぱりいつも通りに接してくれるんだな。ほんとありがたいよ)
京也の過去の一部を聞いた後でも薺達の京也に対する態度は変わらなかった。薺達がよそよそしくなるのでないかと覚悟していた京也からすれば嬉しい誤算だ。ただ、どうしてもなぜ今まで通りに過ごせるのか気になったのでその理由を京也は聞いた。
『なあ、何で今まで通りに接してくれるんだ? 普通俺のあの話聞いたらよそよそしくなったりするだろ』
『え? なんでって……何でだ?』
『ああ、大丈夫よ奏基。あんたが何も考えてない事は分かってるから」
『いや、俺もこう見えても色々と考えたんだぞ美桜! 例えば……ほら、京也はどうすれば声を出して笑うようになるのかとか!』
『いや、それ今関係ないじゃない』
『う、うっせえな! 別にいいだろ!』
『そこの二人はじゃれ合いは置いといて』
『『いや、和葉、じゃれ合ってないから!』』
『私としてはこの際だから全部言ってくれた方が良かったが、正直どうでもいいってのが答えだな』
『え?』
『たしかにお前の過去は悲惨な物だ。普通なら、{こっちが辛くなるからそんな話聞きたくなかった}とか{よくあんな過去持ってるのに平気でいられるな}、なんて声を出す奴もいるかもしれない。でもあんな過去を持っているお前より私達が辛くなる事なんて無いし、本当は平気なように見せているだけで心の中はズタズタなのかもしれない。私達が辛くなる事を恐れて今までお前の過去を打ち明けなかったんだろうしな。その気遣いがうれしい。それに私達は今のお前が笑ってさえしてくれていたらいい。友達の笑顔は心地のいい物だからな。お前の過去に何があろうと私達には関係ない。なにせ私達が出来るのは今のお前を笑かすだけだからだ。だからはっきり言ってお前の過去には興味がない! 私達が興味あるのは今、そして未来のお前だ! だから暗い顔とかしないでくれよ? あからさまに暗い顔されるとこっちまで気分が暗くなって迷惑だ!』
『ふっ、ああ……』
和葉の一見非情とも言える最後の台詞に京也は嬉しそうに返事をする。和葉のこの非情にも取れる台詞は普段らしく振る舞おうという彼女の魂胆から来る物だ。普段の彼女はハッキリと物事に意見するタイプで一切相手を機嫌を伺おうとしない。そのため普段らしい彼女としているためにはちょっとくらい毒舌を吐いた方がいいのだ。その事に気付いたからこそ、京也も嬉しそうなのだろう。
『和葉ちゃんの言う通りです。正直氷室さんがあんな暗い過去を持っている事にはショックを覚えました。でもそれよりも氷室さんと今まで通りにいられなくなる方が嫌です。なので氷室さんもいつも通りでいてください私達も今まで通りにいますから』
『ああ、ほんとありがとな』
こんな事が京也が過去の一部を打ち明けた日の帰り道で起こったのだ。
(まあ、一人だけ俺に対する態度がすげぇ変わった奴がいるんだけどな。今はいいっか)
「あっ、そういえば皆さんに伝えなければならない事がありました」
「ん? なんだ薺ちゃん」
最早定着してしまった楽斗のちゃん付けに誰も突っ込まない。
「はい、昨日久しぶりに小和ちゃんから連絡が来まして、ライブの前日に会わないかと言われました。そして、その時に私のお友達も連れて行っていいですかと聞いたらいいよ、と言われたんです。なのでライブ前日に小和ちゃんに全員で会いにいきましょう」
「「「え?」」」
薺の今の言葉に京也、楽斗、奏基が聞き返す。
「ごめん、薺さんどうやら耳がおかしくなってしまったようだ。今とんでもない事が聞こえたんだが、あの歌姫の小和ちゃんに会いに行ける? しかも個人的に? ほんとごめん薺さん。酷い聞き間違いをしてしまった」
「いえ、聞き間違いなどではありませんよ泡島さん。私はハッキリ言いました。皆さんで小和ちゃんに会いにいきましょう」
「「はあ〜〜〜〜〜!!!!」」
「こりゃまたすげぇな」
再度薺の口から聞こえた台詞に楽斗と奏基はクラス中に響くほどの大声を出して驚き、京也も目を開いて驚いた。
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