第84話四聖獣

 そこは日下部と鵜島が会合した空間に似ている。あまり先は見えず、暗い。そんな空間だ。そこには日下部、"人形師"、"顔なし"、そして見た事のない二つの人影があった。


「よくぞ集まってくださいました『四聖獣』の皆さん」


「「「「………………」」」」


 日下部の言葉に四人は無言で返事をする。


「今日集まっていただいたのは他でもありません。氷室京也についてです」


「一つよろしいでござろうか。拙者はまだ見た事ないのであるが、そやつはそんなに警戒すべき相手なのであるか? 拙者達四人、特に"顔なし"殿がいれば簡単に倒せそうなのであるが」


 日下部の言葉に喋り方が独特な男が意見を言う。京也の事を見た事のない者からすれば、京也の事はそこまで真剣に対処しなくてもいいという判断なのだろう。


「いや、おそらく我々四人全員で当たって、戦場など様々な条件が完全に我々有利の状態で、ようやくよくて勝つ確率が二割ぐらいだろうな」


 しかし、そんな男の言葉を"顔なし"が反対する。


「そんなにでござるか?」


「ああ、氷室京也。あの氷室家の生き残りは、世界でも七人しかいない種類のタビアを持っているからな」


「ああ、噂のあれでござるか」


「そうだ、神に選ばれたとでも言うべき強力なタビアを持ち、国際タビア連合によって認められた最強の七人。通称『七冠人』。タビアは自然の理を操る能力だが、彼等の物は自然というよりこの世の理を操っていると言った方が良さそうだな」


「そんな奴の相手をしようとしているのね、私達」


 "顔なし"の説明に最後の人影であった女性が困ったように声を上げる。


「それはちょっと違ぇんじゃねえか? どっちかって言うとあっちが俺らの相手をしようとしたんだろ」


「"人形師"、それは今どうでもいい」


「ええ、どうでもいいわね」


「うむ、どうでもよいでござるな」


「おい、お前ら俺の扱い酷くねぇか?」


「いえいえ、実際どうでもいいですよ"人形師"さん。それと皆さん、一応コードネームは与えられているのですからそれでお互いを呼び合ってください。あなた方は全員正式な二つ名持ちなんですから二つ名で呼び合っていたら正体がバレてしまいますよ。ね、玄武、"真実語り"さん。朱雀、"事象士"さん。青龍、"人形師"さん。そして白虎、"顔なし"さん」


「日下部さん、あなたどうでもいい事に拘るわよね、しかもよりによってコードネームに拘るなんて子供みたい」


「ははっ、まあよいではござらぬか朱雀殿。男というのはいつまでも子供なのであるよ」


「いえ、私は別に拘っているわけではなく二つ名で互いを呼んでしま「まあまあ、そんな言い訳をしなくてもよいでござるよ! 拙者も日下部殿の気持ちは分かるでござるから!」


「いえ、ですからこれは「もう、日下部さん。折角玄武さんがああ言ってくれてるんだから素直に認めたらどうかしら? 見苦しいわよ」


 文句を言っている朱雀だが、なんだかんだ日下部に言われた通り、コードネームを使っている。優しい所もあるのだ。


「はあ、相変わらず全然人の言う事聞かないですねあなた達」


 しかし日下部はコードネームを使ってくれているとはいえ、話をまったく聞かない二人に頭を悩ませた。


「そんな事より話が逸れているぞ日下部。氷室京也がどうしたのだ? 出来ればこれ以上この国の勝手な事情であの者を苦しませたくはないのだが」


「白虎さん、『ダブルパーソナリティ計画』に関しては申し訳ないと思っています。あれほどの犠牲を出し、氷室家も壊滅させたのに何の成果も得られませんでしたから。ええ、本当に申し訳ないと思っていますとも」


 "顔なし"のトゲのある言い方に日下部は形上だけ申し訳なさそうにする。元より心が読めない男だ。その言葉が本心なのか分かるはずもない。


「私が危惧しているのは氷室京也の今後の行動です。彼の私を見る目、あれは完全に復讐対象に向ける目でした。恐らく何らかの行動を起こして私達を潰しにかかるでしょう」


「それでどうすんだ? やられる前にやっちまうか?」


 "人形師"が適当そうに言った言葉に日下部が返事をする。


「青龍さん、あなた戦闘能力は高いのにどうも頭が悪いですね。そんな事すれば我々の存在が大っぴらになる可能性があるでしょう。はあ、まったく」


「頭が悪くてすまなかったな! そんな呆れなくてもいいだろ!」


 "人形師"の頭の悪さに呆れた日下部に"人形師"が少し怒る。


「とりあえず、我々は今の所彼に何もしません。彼が動くまで待ちます。彼に組織を潰されるのはまずいですが、それ以上に我々の存在が世間に知られる事がまずいので。これは上からの命令でもあるので皆さんには従ってもらいますよ。ただ、警戒だけはしておいてください」


「承知した」


「分かったわ、上からの命令なら従う他無いわね」


「うむ、拙者も異論は無いでござるよ」


「俺も何も文句はねぇよ」


「そうですか、では今日の所は解散と致します。皆様、お忙しい中集まっていただきありがとうございました」


 日下部のその言葉を聞き、『四聖獣』はその空間から姿を消した。




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