第81話京也と京介

 『聖人教』の構成員の身柄が警察に引き渡された襲撃事件の二日後。被害がほとんど無かったため、この日から学園は再開された。再開初日ながら、学園は対抗戦を行った。これは、自分達はどんなテロにも揺るがないという強い意志の表れだ。


 観客も襲撃事件があったとはいえ、今までと来場者の数は変わらなかった。見事にテロを無傷で抑えた『鳴細学園』への安心感が故だろう。決勝戦のみの一年生の部、二年生の部と三年生の部は大いな盛り上がりを見せた。


 ちなみに、一年生の部で優勝したのは三組だ。まあ、椿春馬が入院したため、二組の最大戦力が欠落した事でこの結果は目に見えていただろう。


 そしてその翌日、行事の翌日という事で休みとなった『鳴細学園』の学園長室では、数人の教師とそれなりの数の学生がいた。


 教師は、"顔なし"達と対峙した若宮、月島、天沢、学生は京也達アジト襲撃部隊、対抗戦の決勝の選手で逃げなかった者達、そして花奏達蓮家の者がいた。執務机の後ろの席で座っている林道とソファで座っている京也を除いたら、全員が立っていた。


 そして、その場の空気は非常に重たい物だった。誰かが怒っているというわけではなく、どちらかというと全員に緊張感が走っている感じだった。


「さて、じゃあ質問がある人からどうぞ」


「では俺から。何故情報が漏れている事を俺達に教えなかったのでしょうか? それが分かっていたから佐伯君達にも協力を求めるよう言ったんですよね」


 林道の言葉に最初に度会が質問を投げかける。


「いや、それは誤解だ。僕も念のために楽斗君達に協力を求めるよう言ったに過ぎない。まさか情報が漏れているとは思いもしなかったよ。その件でこの襲撃事件が起こったのだから本当に申し訳ないと思っている」


 そう言い、林道は頭を下げる。


「……そうですか、なら大丈夫です。顔を上げてください。学園長がわざと敵を内部に誘い込んだのでなければそれで十分です」


 林道の態度から嘘を言っているようには感じられなかったのだろう、度会は林道を許した。


「続いて質問のある方」


「では私が。学園長、そして氷室京也。あの日下部という者とはどのような関係なのでしょうか。あの者を見た瞬間、学園長と氷室京也がお怒りになったように感じたので」


「う〜ん、そうだね。簡単に言えば因縁の相手、かな。すまないけどそれに関してはもうこれ以上言えないよ」


「……学園長がそうおっしゃるなら納得する他ありませんね。私からは以上です。私以上に質問したい者が残っているでしょうし」


「じゃあ次は……、やっぱり君達二人か」


 林道が次の質問に移ろうとすると、二人の人物が勢いよく手を上げた。


 花奏と薺だ。


「君達の質問は予想出来る。ただ、これに関しては僕ではなく京也君が答えなきゃいけないね」


 そう言い、林道はソファに座っている京也に目をやる。普通は先生が座るべきなのだが、今回は質問する側とされる側に分かりやすく分かれるため、京也が座ることになった。


「はあ、やっぱり? でもなあ、この空気でか……」


 そう言った京也の髪の色は見る見るうちに青から黒に変わって行った。


「えっ、兄ちゃんマジで言ってる!? ここは誠意を見せて兄ちゃんが説明するべきでしょ! えっ、返事しないし! えっ、マジで!?」


 そう、京也は説明したくなかったため、京介にバトンタッチしたのだ。


「え〜と、すみませんね。多分兄ちゃん罪悪感がすごいから俺に変わったと思うんっすよ。今まで皆さん騙してたから」


「う〜ん、ここでテンションの高い京介か。正直空気的に京也の方がよかったな〜」


「えっ、ちょっと楽斗さんそれ酷く無いっすか! 俺だってテンション低く出来ますよ!」


「「「「…………」」」」


「あっ」


「ほらな」


 楽斗の台詞に京介は急いで反論するが、今はどちらかというと真面目な場面だ。全員のテンションが低くなっているため、京介のテンションについて行けなかった。


「……京介、お願い。どういう事か説明して。『ダブルパーソナリティ計画』って何? なんで京也君の中に京介がいるの? 復讐って何? あと……京介はどうなったの?」


 花奏が京介に質問する。相変わらずの無表情ではあるが、その顔には不安の色がとても強く見えた。


「そうだな、その質問の一部には答えられるかもな……まず『ダブルパーソナリティ計画』についてだ。誰でもいいのでこの名前を聞いた時の第一印象を答えて下さい」


「二重人格?」


「流石は教師ですね、正解です天沢先生。『ダブルパーソナリティ』は英語で二重人格を指す。日下部も言っていたと思うけど、この計画は二人の人物の人格を一人の人物に乗せて、一人の人間が二つのタビアを操れるようにする物だ。つまり、例えば俺と兄ちゃんの場合、俺の人格を兄ちゃんに、兄ちゃんの人格を俺に入れて、二人がそれぞれ二つのタビアを使えるようにするという事だね」


「えっ、それじゃあつまり」


「そう、同じ人格が二つ存在するって事になるね」


 薺が気づいたであろう事を京介が補足する。


「当初は二つも同じ人格が存在するのは大丈夫なのか、って声が上がったらしいけど最終的には良しとしたみたいだね。で、この計画を遂行するために田舎に住んでいるまだ幼いソーサラーを五百人ほど集めたんだ。それで彼らが行ったのが、人体実験だ」


「「「「っ!」」」」


「最初から上手く行くとは思ってなかったんだろう、そのために五百人も集めたわけだしね。で、そこ計画の結果から言うと、ご存知の通り五百人全員が死んだ。中にはまだ七歳ぐらいの子供もいたかな。でも、『夜の支配者』は最後の実験で希望を見出したんだ。どうやら最後の最後で実験には成功したみたいだからね」


「そ、その実験に成功した子供達はどうなったんだ?」


 奏基が恐る恐る聞く。


「殺されたよ。実験が成功したとはいえタビアが全然強くなかったからね。口封じのために殺されたんだ」


「「「「っ!」」」」


 まさに悪逆非道。襲撃事件の時は国を守るための正義だと日下部は言っていたが、とても正義とは思えなかった。


「その後、あいつらは最初に誰を二重人格にするか話し合ったんだ。で、選ばれたのが俺と兄ちゃん。当時の子供の中で日本では最強のソーサラーと謳われた俺達だ」


「最強? どうも氷室京也君のタビアはそこまで強いと思えないけどな。ああ、あと気になってたんだけど、君のタビアはなんなの?」


 ここで月島が口を挟む。たしかに京也は【一指】でこの学園最強だ。だが、それはタビアを上手いこと応用した結果に過ぎない。タビア単体から考えてもこの国最強と呼ばれるほど強くないはずなのだ。


「兄ちゃんはまだ隠してるみたいだから俺もあまり兄ちゃんについては言えないけど、兄ちゃんは最強だよ、この国の誰よりも強い。ああ、あと俺のタビアだったね。俺のタビアは簡単だよ、半径三十メートル以内のすべてのエネルギーを操れる。まあ、俺に対する付与以外には無生物限定なんだけどね」


「「「「………………」」」」


 京介のタビアの告白に、全員が言葉を失った。それは拍子抜けなどでは決してない。むしろ、強すぎるが故だ。すべてのエネルギーを操れる。それはつまり迫ってくるすべての攻撃を運動エネルギーや熱エネルギーを駆使して止める事が出来、さらに熱エネルギーを操作してあたり一帯を氷漬けにする事で敵の拘束も出来る。それに、攻撃する際は自分の運動エネルギーを上げて超加速する事も出来る。彼らが聞いてきたタビアの中ではまさしく最強だった。


「じゃあ花奏の次の質問に移ろうか。復讐に関してだったね。その事に関しては……うん、そうだね兄ちゃん。これこそ兄ちゃんが対応するべきだ」


 そう言った京介の髪は黒から青になった。人格が京也に戻った証拠だ。


「氷室さん……」


 人格が戻った事を確認し、薺が小さく声を上げる。


「そうだな、まずは京介に説明を任せた事はすまないと思ってる。俺もようやっと説明する決心がついたよ。ただ、悪いが俺達の復讐が何を指すかは説明できない。あんたらを巻き込む訳には行かないんだ。本当に済まないと思っているがどうかこれだけは理解してくれ」


 そう言い、京也は深々と頭を下げる。その必死さは今までの京也からは想像も出来ない物だった。




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81話目にしてようやくタイトル回収が出来ました(笑)これからも続いて行く予定なのでもし宜しければ応援等よろしくお願いします!




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