第34話代表決定戦

「おい、何があったんだ?」


 着替えも終わり、今回の授業の行われる場所である、模擬戦ルームが多数ある第三競技場に京也達が着いた瞬間、和葉が飛びつく様に京也達へ向かって行った。


「何がって?」


「聞いたぞ、何かトラブル起こしたって」


「別にトラブルって程でもねえけど……まあ、ちょっとな」


「そいつらが意味も無く俺らに絡んできたんだよ」


「何よあんたら」


 泡島が口を濁しながら説明していると、その横から哲也が先程の友人二人を連れて割り込んで来た。その行為に少し怒りを覚えたのか、美桜が不快感を隠さずに哲也に話しかける。


「さっきそいつらに絡まれたんだよ」


「はあ? そっちが挑発して来るからだろうが!」


「和葉さん、美桜さん。そういえば忠告があるんだ」


 哲也の台詞に対して怒った泡島を無視して、哲也は和葉達に話しかける。


「あんたに下の名前で呼ばれる覚えなんて無いんだけど。ていうかあんた名前は?」


「ああ、俺の名前は青木 哲也だ。ていうか上の名前じゃ二人とも同じなんだから分かりにくいでしょ。そんな事より、薺さんの付き人ともあろう人がこんな奴らと一緒にいない方がいい。雑魚が移るよ」


「……何だと、もう一回言い直せ」


「だから、こんな奴らとは一緒にいない方がいい」


 急に声が震え出した和葉に、哲也は動じずに答える。


「ふざけるなよ! お前なんかに何が分かる! これ以上こいつらを侮辱したらっ……」


「落ち着け、もうすぐ授業だぞ」


「泡島、だが!」


「いいから落ち着け、俺らならいいから」


 京也達を侮辱した事に対して怒る和葉を泡島が止める。


「さっきはお前がやってたけどな」


「……それを言うな」


 そんな泡島に京也がボソッと告げる。どうやら泡島はそれを言われたく無かった様で、少し震えているのが分かる。


「おい、そこ。何をやっている! もうすぐ授業を始めるぞ!」


「チッ、和葉さん、美桜さん。忠告はしたからな」


 若宮に呼び掛けられ、哲也は友人二人と共にクラスメイトが集まっている方へと向かった。


「何なんだよあいつら、京也達は何もやってないだろ」


「まっ、薺さんと仲がいい京也に嫉妬してるって事だろ♪」


「あんたよくそんな呑気でいられるわよね。一応あんたも貶されてたのよ?」


 何故か呑気でいる楽斗に美桜が呆れながらつっこむ。


「いいから行くぞ、遅れて目立つのはごめんだ」


「いや、教室の騒ぎの時点で俺ら目立ってるだろ」


「あの騒ぎ起こしたのはお前だけどな」


「頼むからそれを言わないでくれ」


 京也の指摘に本気でやめて欲しそうにする泡島に京也達は少し笑いながらクラスメイトが集まっている方へと向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「今回の授業は少し特別だ。全員もうすぐ学年別クラス代表戦があるのは知ってるな? 今からその代表を決めようと思う」


『うおーーーーー』


 若宮の言葉と同時にその場は大きな歓声で包まれた。それほどまでにこの瞬間を楽しみにしていたのだろう。


 学年別クラス代表戦は、この学園における三大行事の一つ。この行事では、軍の関係者などが来る為、卒業後の進路を考えている人にとって、代表になって活躍する事はいいアピールになるのだ。


「ルールは簡単だ、トーナメント方式でそれぞれ戦ってもらう。最後まで勝ち抜いた五名が代表となる。代表五名が決まっても決勝まで行うのでそのつもりでいろ。組み合わせはくじ引きでやってもらう。出席番号一番から順にこの箱から引いていけ」


 若宮が説明を終えると、生徒は順に箱の方へ行き、クジを引き始めた。


「相棒、何番だった?♪」

 

「16番だ、お前は?」


「俺は7だ、じゃあ相棒とは準々決勝で当たるって事か♪」


「いや、俺は最初から勝つ気は……」


「いやいやいや、そんな事起こるわけねえだろ」


「はあ、またかよ」


 京也と楽斗の会話に笑いながら入り込んだ哲也に、京也は隠す事なく思いっ切り呆れた。これだけ京也に絡むという事は相当暇なのだろうか。ついそう思ってしまう。


「一応聞くけどお前の番号は?」


「へっ、15番。つまりお前の初戦の相手はこの俺だよ」


「そうか、じゃあな。そういえば奏基達は何番なんだろうな」


「さあ、俺や相棒と近くなければいいんだけどな」


「話を聞け!」


 自分の台詞を完全にスルーした京也達に、哲也が怒鳴る。自分が下に見ている相手に蔑ろにされるのが許せないのだろう。


「何だよ?」


 そんな哲也に京也は面倒くさそうに返事をするが、面倒くさそうなのは相変わらずだ。


「いいか? お前らなんかぶっ倒して俺が一位になってやるよ」


 そう言い友人達の元へ向かった哲也は後ろ姿からもイラついているのが分かるほどだった。


「あいつ、薺さんがいるの忘れてねえか?」


 その京也の言葉を哲也は聞こえてはいたが、あえてそれを無視した。

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