第33話嫌われ者
「個人戦の実戦演習か、今日は何やるんだろうな?」
「さあ、いつも通り一対一での勝負をするんじゃねえか?」
楽斗と京也がこの後行われる授業についての会話を弾ませる。今まで、個人戦の実戦演習という授業は数回あり、そのどれもが一対一のペアでその相手と勝負をするというものだった。実力を隠したい京也にとってはただ負ければいいだけの授業だったので別に苦では無かった。
「おいおい、落ちこぼれが個人戦の話なんかしてるぜ、どうせ誰にも勝てっこねえのに」
「ほんとだよな、身の程をわきまえろってんだ」
「襲撃事件の時にペアを組まされた薺さんが可哀想だぜ」
「チッ、あいつら!」
「いいよ、ほっとけ」
京也に対して言われた悪口を、泡島に、流すようにと京也は伝える。そう、実は京也はクラスメイトから絶大なまでに嫌われているのだ。その理由は様々ではあるが、主なのは二つだ。
まず一つ目がその実力、先程も言った通り京也は今まで行われて来た個人戦の実戦演習で負け続けている。ランキング制度があり、実力主義なこの学校では、そういう弱い生徒は嫌われる格好の的なのだ。
そして、二つ目にして最大の理由が、薺と仲がいい事だ。三組で最も人気なのは、言わずもがな薺である。そんな薺は一向に自分から人に近づこうとせず、周りもついつい距離を取ってしまっている。だが、京也となると話は別だ。襲撃事件の少し前から、薺は京也が相手になると物凄く喋り、他の人と喋る時とは比べ物にならないくらい表情も生き生きとしている。実力が無いくせに薺と仲が良い事にクラスメイトは皆嫉妬しているのだ。
「よし、着替えも終わった事だし行くか♪」
体操服に着替え終わった京也達は教室の後ろにある引き戸を通って教室を出ようとする。
「うおっ」
しかし、教室を出ようとした瞬間、京也は人にぶつかり、後ろに倒れ込んだ。そして京也が上を見てみるとそこには中肉中背で黒髮の少年が二人の友人と共に立っていた。
「おっと悪いな落ちこぼれ、俺の視界って雑魚は映らないようになってるもんでよ、見えなかったわ」
「いや、全然大丈夫だ」
そう言い手を差し伸べたその少年の手を京也は手に取る。泡島が京也の後ろで明らかに怒っているが、罵倒された京也本人が気にしていないようでは、無理に文句を言え無かった。しかし、泡島のその我慢もすぐに切れる事となる。
「くっ」
京也が手をさし伸ばして来た少年の手を掴むのと同時にその後少年はわざと手を離し、京也に尻餅を突かせたのだ。京也はその痛みについ声を出してしまう。
「危ねえ危ねえ、危うく雑魚と手を繋ぐところだったぜ。手繋いだら雑魚が移っちまうよ」
「安心しろよ
哲也と呼ばれた少年は手を離した事に詫びを入れようともせず、逆に京也を罵った。
「てめえ!」
その出来事に耐え切れず、泡島は哲也の胸ぐらを掴み怒鳴る。その事に着替えていたクラスメイトが気付き全員が京也達の方を向いた。
「おいおい、落ちこぼれの仲間が何か騒ぎ起こしてるぜ」
「うわっ、哲也のやつ絡まれてんじゃん。かわいそっ」
「落ち着けよ奏基、目立ってんぞ」
「っ、悪い」
その事に気付いてか、楽斗はすぐに泡島を宥める。泡島もその事に気付いて、すぐさま引き下がった。
「へっ、流石は落ちこぼれの仲間だぜ。ビビりばっかりだな。まっ、身の程を知れって事だ。行くぞ」
二人の友人を連れて行く哲也の後ろ姿を楽斗と泡島が睨みつける。楽斗も先程は泡島を止めたが、哲也を許せないという気持ちは同じなのだろう。一方京也はと言うと、
(まさかあれをやるためだけにわざわざ外から教室に入って来たのか? 暇なんだなあ)
一人だけ場違いな、呑気な事を考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます