第28話鵜島 対 京也③
飛んできた空気の弾を京也は左足を軸に回転しながら避け、そのまま一直線に鵜島の元へ向かう。
《ダダダダダダダダッ》
「"
京也が走りながら撃った氷の弾丸を鵜島は地面の砂を蹴り上げ、それに衝撃吸収を付与して弾丸を防ぐ。
「"
しかし、京也はその事を全く意に介さず手に持っていた短機関銃をすぐに氷の刀に変え、そのまま真っ直ぐ進む。
「"
その様子を見た鵜島は間髪入れずに桃色の矢を放った。通常の矢では無く速度の早くなる細い矢だ。京也はその矢を走りながら氷の刀で弾いた後、鵜島の懐まで入り右手に持っていた刀を鵜島に向かって振った。
「くっ、"
「"
鵜島はそれを後ろに半歩下がり仰け反りながら避け、タビアで硬くした腕を京也に向けて振るい、京也がそれを氷の壁で防ぐ。
《ダダダダダダダダッ》
氷の壁で鵜島の拳を防いだ京也は空かさず氷の弾丸を撃ち込んだ。何しろ全力で殴りつけた後だ、超至近距離からの弾丸はどうしようにも防ぎきれない。
「"
しかし、そう思われていたが鵜島はその弾丸をバク転をしながら避け、無数の小さな針による攻撃で牽制をする。そしてその牽制を京也は後ろに飛び下がりながら避けた。
その一連の攻防を見ていた薺達は呆気に取られていた。今までは銃による遠くからの攻撃しかやって来なかった京也がこれ程までに高度な戦いを繰り広げているからだ。いや、呆気に取られている理由はそれだけでは無い。
「おい、今のあいつの攻撃……」
「ああ、今まで私達が戦ってきた風紀委員の先輩のタビアだ」
泡島と和葉がお互いに呆気に取られていた理由を確認する。
「なるほどな、あんたが最初タビアを二つ使えていた理由が分かったよ。あんたのタビア、矢で貫いた相手を操作するだけじゃなくってその相手のタビアも使えるんだな」
「ふう、だからこの特性は取っておきたかったんだがな。お前らの後に控えている本命に対して使うため」
タビアを冷静に分析した京也に対し、鵜島はため息を吐く。
「本命?」
「いや、その事はもう忘れてくれ。今ので分かった、お前は中々やる。こちらは本気を出さずとも勝てるがさすがにこの特性無しでは勝てないだろう」
「そうかよ……なあ、もう一回聞いていいか? お前は何でこの国に復讐しようとしてんだ?」
鵜島のちょっとした挑発を流し、京也が再び鵜島に質問を始めた。そんな事、普通は気にならないはずだが、京也には何か気になる理由があるのだろうか。
「そこまで俺の戦う理由が知りたいか…………まあ、いいだろう。お前の実力に免じて少し昔の話をしてやろう。俺には昔家族がいた。俺、妻、娘の三人だ。俺の仕事が危険だという事を知ってか妻と娘はいつも俺が家を出る時には玄関まで来てくれていたものだ。家に帰れば二人は玄関まで迎えに来てくれて、それはまあ嬉しかったものだ。俺が休日の日は三人で遊園地など必ずどこかに出かけた。俺はそんな平和を守るためにこの国を全力で守ろうと思った……だが! ある日その平和は突如として無くなるものとなった。他の国では無くこの国によってだ! この国は作戦の邪魔になるからと言って、あろう事か俺の妻に他国のスパイの容疑をかけて挙句の果てに殺したのだ、娘も巻き込んでな! 俺は家に帰った時に絶望した、なぜならいつもの平和が突然崩れ去ったからだ! そしてその時から誓った、この国に復讐をしようとな!」
薺達は何の言葉も出せなかった。鵜島の過去が思った以上に壮絶だったからだ。今まで完全にやる気だったが、ほぼ全員がそのやる気をなくしていた。だが、そんな事も言ってられない、今ここで鵜島を倒さなければ、この学園に何があるのか分からないし、いくら自分達の住んでいるこの国が間違った事をしていようとそこに住んでいる国民までもが被害を受けてしまうからだ。
「氷室さん! 確かにあの方の過去は壮絶です! しかし、ここで倒さなければならないのも事実です!」
「氷室?」
京也を何とか戦える意思にさせるために薺が放った言葉の一部に鵜島が反応する。
「お前……まさか氷室家の生き残りか?」
鵜島が京也に確認を取る。
「チッ、知ってたか」
そして京也から曖昧な答えが返ってきた瞬間、鵜島はさらに険しい表情になった。
「そうか、まさか生き残りがいたなんてな…………ははははは! なら、お前はこちら側の人間の筈だ! 何故この国を守るような事をする!」
「何言ってんだあいつ?」
鵜島の発言に泡島が疑問を投げかける。
『………………』
しかし、誰もその疑問に答えない。いや、答えられないのだ。何故ならほぼ全員が泡島と同じ事を思っていたのだ。しかしそんな中、京也と楽斗の反応は違った、二人はまるで苦虫を噛んだような顔をしていたのだ。
「どういう事、楽斗?」
「………………」
美桜が楽斗に何のことなのか聞くが、楽斗は答えようとはせず、その目線を鵜島から離さなかった。
「惨劇の氷室家……」
そんな状態の楽斗に代わり、和葉が答えを出す。
「惨劇の氷室家って何? 和葉ちゃん」
「ああ、私も親が喋ってるのをチラッと聞いただけなんだけどな……三年前、氷室っていう一族の住んでいる村が一夜にして崩壊したらしいんだ。その原因は不明で生存者もいなかったって聞いたけど…………そうか、最初氷室って聞いて何か引っかかったのはこれが理由か」
「いや、でもそれっておかしくねえか? 何でそれが京也があっちにつく理由になんだよ。この国関係ねえだろ」
泡島が和葉に問いかける。和葉の話からすると、氷室家が無くなった理由は不明だ。だがしかし、鵜島はそれを理由に京也が鵜島側では無いのかと問いかけている。その惨劇の氷室家と言われる原因となった現場にいた京也ならその出来事が起こった理由が分かっているのかもしれないが、もしかしたらこの国が関係しているのだろうか。
「さあ、さっきも言った通り私も親が話してるのをチラッと聞いただけだからな、楽斗なら何か知ってるんじゃ無いか?」
「ああ、知ってるよ。俺はそん時から京也と日向とつるんでたからな」
「日向?」
薺が楽斗の言った名前に反応した。
「ああ、そうだな。確かに俺もお前側かもしんねえ……けどなあ、やり方ってもんがあるだろ」
「ああ、関係のない者にあまり被害を出してはならない。それを考慮して俺らは今ここを襲っている」
「なるほど、この学園の生徒だけだったら被害を出してもいいってか。じゃあやっぱり俺はお前側では無いな。やり方ならもっとあった筈だろ」
鵜島が言おうとしている事を京也は理解する。
「俺もこう見えて色々考えてこの行動に移ったんだ。どうやらお前は、この国に復讐するつもりは無いみたいだな」
「…………」
鵜島の問いかけに京也は黙り込んだまま答えない。何か答えられない理由があるのだろうか。
「ならいい、お前もこの学園と共に消えろ、"
鵜島から桃色の矢が放たれ、それはまっすぐ京也の方へと向かった。しかし、京也はそれを避けようとも防ごうともせずただただ立っていた。
「氷室さん!」
薺が京也の名前を叫ぶが京也はそれにも反応せずただ突っ立っている。
そして、矢が京也に届くと思われた瞬間、
「なっ!?」
矢が跡形も無く消えた。
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