第27話鵜島 対 京也②

「本気を出す。なるほど、では今までは本気では無かったという事か。舐められたものだな」


「別に本気を出さなかったわけじゃねえよ。それに舐めてなかったって事は俺のさっきの状況見りゃあ分かるだろ」


 今から本気を出すと言い出した京也に鵜島が突っかかる。そして楽斗の方でも同じ事が起きていた。


「今まで本気じゃなかったって事?」


「まっ、そうなるな♪」


「お前、マジで言ってんのかよそれ。割とシャレに何ねえぞ」


「悪りぃな、いろいろと事情があんだよ♪」


 若干苛立ち気味に美桜と泡島が聞く。だが、楽斗には詫びを入れるつもりは無いらしく、今も目線はまっすぐ、敵となった風紀委員に向かっている。


「だが、たとえお前ら二人が今から本気になってもこの状況は覆せんぞ」


 鵜島が脅す様に京也に言い放つ。


「それはお前が決める事じゃ無いだろ。それに、悪いがそれぐらいの実力は俺らにあると思うぞ」


「ほう、ではその実力とやら見せてもらおうか。だが、俺とやるのは先にこいつらを倒してからだ!」


 鵜島のその言葉に反応したかの様に、操られている風紀委員が一斉に京也達に襲いかかる。


「そんな、ただでさえきついのにそんな一斉に来られたら!」


 その光景に美桜が大きな声で嘆く。だがそれも無理はない。元々京也がいたにも関わらず、風紀委員を相手にしていた美桜達は防戦一方だった。そして今は京也が抜けている。さらにそれに加え、敵が一斉に襲いかかっているのだ。いくら京也と楽斗が今まで本気を出していなかったとはいえ、この状況を打破出来るとは到底思えない。


「任せろ♪ "音響遮断おんきょうしゃだん"!」


 しかし、楽斗はそんな事に臆する様子を見せなかった。すぐに技を放ち、風紀委員を相手にする。


 楽斗が技を放ったのと同時に風紀委員の動きが一斉に遅くなる。理由は分からない、だがタイミングからして楽斗の仕業だろう。


「今だ!」


「っ、"豪炎ごうえん"!」


「"焔の舞い姫ほのおのまいひめ"!」


「"ばく"!」


 楽斗の合図と共に和葉達が一斉に技を放つ。


『うわーーーー』


 そしてその攻撃と共に風紀委員は吹き飛んだ。


「えっ、何でだ!?」


「楽斗、お前一体何をした?」


 その状況に和葉が驚く。今まで躱されていた攻撃が風紀委員にまともに当たり、さらに一回しか攻撃が当たっていないはずが、全ての風紀委員がたったそれだけでダウンしているのだ。

 それ自体は嬉しい事なのだが、和葉が驚いているのは楽斗がちょっとした技を放っただけで攻撃が当たったという事だ。風紀委員は鳴細学園でも選りすぐりの実力派集団、ちょっとした細工をしただけで一気に弱くなるとは到底思えない。泡島もそう思ったのか、楽斗に技の効果を聞く。


「簡単だよ、今の技は一定の領域にいる敵の聴力を奪う技だ」


「それと攻撃が当たって、すぐに倒れたのと何が関係あんだよ」


「いいか、人ってのは本来の感覚とある程度違うと行動が一気に鈍くなるんだ。つまりさっき俺が聴力を奪った事で風紀委員はまともに動けなくなったって事だよ」


 楽斗が説明をするが和葉達は信じられないという表情を浮かべていた。それは決して楽斗の技が凄いという事から来るものでは無い。何故最初からその技を使わなかったのかと和葉達は思っているのだ。


「……何で、それを初めから使わなかったんだ?」


「さっきも言った通り事情があんだよ」


「それじゃあ納得出来ないんだけど」


 泡島と美桜が不満気に聞く。


「その事については京也が鵜島を倒してから教えてやるよ」


「……はぁ、しょうがない。じゃあちゃんとその事情とやらを後で教えろよ?」


 今ここで楽斗に吐かせる事を諦めた和葉が念を押す。


「分かってるって♪ 京也! こっちは終わったぞ!」


「だ、そうだ」


 京也と鵜島は楽斗達の戦いが終わるまで互いに向き合っていた。京也も参加すればよかったのだが、鵜島が手を出すかもしれないと懸念していたのだ。


「どうやらそうらしいな。しかし、妙だ。聴力を奪ったくらいで守備力は下がらないはずだが?」


「俺達には関係のねえ話だろ。それよりお前の操ってた風紀委員は全員倒したんだ。俺と戦ってもらうぞ」


「ほう、お前が戦うのか。お前はそういうのが面倒くさいと思うタイプだと思ったんだがな」


 鵜島が挑発気味に言い放つ。


「俺しかやれる奴がいねえんだから仕方ねえだろ、いいからやるぞ」


 だか京也はそんな挑発を気にも止めずに流し、早く始めるよう促す。そんな鵜島は一瞬ピクッとしたがすぐに何事もなかったかの様な顔をした。彼としては京也を挑発に乗らせて冷静さを取り去るつもりだったのだろう。


 しかし、その思惑は外れたが鵜島としては正直そんな事はどうでもよかった。彼には絶対に勝つという自信があったからだ。鵜島が元エリート集団の白狼館の隊長だったのに対して、京也はただの高校生。それにいくら京也が今から本気を出すとはいえ、実力の片鱗は見えている上にそのタビアについても鵜島は見当がついていた。京也に勝てる要素など見当たらない。


「まあいい、それでは行くぞ、"意思滅却の矢いしめっきゃくのや"」


 鵜島が桃色の弓を構える。そこには当然のごとく矢があり、京也の方を向いていた。だが、先ほどまでと何かが違う。矢が細くなっているのだ。


「おいっ、なんかあの矢やばそうだぞ!」


 矢の異変に気付いた和葉が叫ぶ。しかしその事については誰もが気付いていたので反応しない。いや、反応しないというより全員が京也と鵜島の戦いに釘付けになっていてそれどころでは無かった。


「そちらが本気を出すと言うならこちらもそうさせてもらうぞ」


「そうかよ、好きにしな」


「喰らえっ!」


 鵜島のその声と共に桃色の細い矢が京也に向かって飛ぶ。そしてその細い矢の特性に泡島はすぐに気付いた。


「さっきまでより速え!」


 そう、先程までと比べて矢の速度が数段速くなっているのだ。その矢は空を切りながらまっすぐと京也に向かっていく。しかし、京也は全く動こうとせず、先程から指一本動かしていない。


「甘えよ」


《ヒュン》


 そんな矢を京也は首を傾けて躱す。


「なるほど、本気を出せば俺の矢など簡単に避けられるという事か。面白い、ではこちらも本気を出させてもらう、"空砲くうほう"」


 そう言うと鵜島は手を京也の方へとかざす。そして、


《ダァン》


 京也の方に圧縮された空気の弾が飛んだ。



 

 

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