第25話古い仲の二人

 薺の攻撃が防がれる様子を京也達はただ呆然と見ていた。それは薺の攻撃が防がれたからでは無く、鵜島の防ぎかたが思いもよらない方法だったからだ。


「今のタビア、身体の硬質化か? まさか二つ目のタビア。やべえぞこれ」


「いえ、そんなはずがありません。一人の人間が二つのタビアを持つ事など聞いた事がありません!」


 信じられない光景を目の当たりにして、泡島と薺が驚きを口にする。


「じゃあこれはどう説明するつもりだよ、実際こうして目の前で使われてるぞ」


 京也はそんな薺達を落ち着かせるように言い放つ。


 彼らが驚いているのには理由があった。解明されてしばらく経った今でも、タビアには分かっていない事が多数ある。その内の一つがタビアは一人に対して一つしか無いという事だ。世界中を見てもタビアを二つ以上持っているという者は現れた事が無い。しかし、その理由は一向に解明されないのだ。その為、タビアが一人一つなのは当たり前の事だと思われてきたのだが、その当たり前が今、目の前で見事に覆されたのだ。


「どちらにしろやばいぞ。あの弓だけでさえ厄介なのに体の硬質化ときたら近距離戦も遠距離戦も仕掛けらんない」


「ああ、それだけだといいがな」


 絶望感が増した現在の状況を和葉が口にするが、楽斗がその上さらに不吉な事を言い出す。


「どういう意味よ?」


「俺の予想だけどこんだけじゃあ済まない気がするぜ」


「お前達にいいアドバイスをしてやる。敵と戦っている時に話し込むのはやってはいけない事だ」


 楽斗が美桜に答えるのを見て、鵜島が話し掛ける。その間に攻撃すればいいのではないかと思うが、エリート部隊の白狼館で活躍して来た彼なりの流儀という物があるのだろうか。


「そうですね確かにあの方の言うとおりです。……では皆さん、あの鵜島という方とは私一人でやります」


 薺の信じられない発言に全員が一瞬固まる。


「おいおい、それは無茶だろ」


「そうですよ凛様。いくらなんでも一人では無茶過ぎますせめてもう一人ぐらいは一緒に戦わないと」


「いえ、この状況で一番危険視すべきなのはこの数の差です。ただでさえ実力派揃いの風紀委員が敵に回っている上に数はあちらの方が多い。ここは無理をしてでも一人だけであの鵜島という方と相対しなければなりません」


 楽斗と美桜が薺の意見を否定するが、薺は自分の意思を変えようとしない。それがこの絶望的状況での最良の選択だと確信しているからだろう。


「……分かった、でもあまり無理はするなよ」


 そんな薺を見て、京也が了承する。薺の意見は変えられないと判断したのだ。


「ありがとうございます!」


「"意思滅却の矢いしめっきゃくのや"」


「"豪炎地帯ごうえんちたい"!」


 唐突に来た鵜島の攻撃を薺は解いていた豪炎地帯で相殺した。


「どうやら話は固まったようだな。それでは始めようか」


「いきなりの攻撃とはいささかどうかと思いますが」


「何を言っている、そちらの話が終わるまで待ったんだ。これくらいは許されてもいい物だろう」


 確かに鵜島の言う通り、彼は京也達の話が終わるまでしっかりと待っていてくれていた。その間に攻撃して来なかった分、急に攻撃を仕掛けられても文句は言えない。


「それじゃあ任せたぞ」


「はい!」


 京也の任せたという言葉に薺は強く返事をした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「どういうつもりだ新海」


「どういうつもりだってどういう事だい?」


 京也達と別れた四谷は新海と二人きりになっていた。


「言葉のままの意味だよ。君は確かに素行の悪い人間として有名だったけど、それでもこの鳴細学園の生徒としてそれなりに誇りは持っていた筈だ。それがどうしてこの学園を裏切るような真似をするんだ」


「そんなの考えなくても分かるでしょ。この学園を壊さなきゃいけないほどの用事が出来たからだよ! "双脚付与そうきゃくふよ200%"!」


「"岩盤壁がんばんへき"!」


 新海が攻撃を仕掛けると四谷がタビアを発動した。四谷がタビアを発動すると地面から大きくごつい形のいかにも固そうな岩が現れ、それを見るや否や新海はすぐに近づくのをやめ、距離をとる。


「チッ、全く。厄介なものだぜ。なんで俺の相手はこうも相性の悪い奴ばっかりなのかねぇ。そんないかにも虚弱な見た目からは想像もできないぜ、お前のそのタビア」


「それは褒め言葉として受け取ってもいいのかな」


「そんなわけ無いでしょ。実際、四谷くんのタビアには弱点もあるしなぁ」


「へえ、ぜひ聞かせてもらいたいものだね"岩盤壁"」


「"双脚付与そうきゃくふよ150%"」


 四谷からの攻撃を新海は後方に飛びながら避ける。その動作には一切の迷いがなく、彼が曲がりなりにも上位で、どれだけの相手と模擬戦をやって来たかが伺える。しかし、どうもそれだけとは思えない。今の新海の動きは迷う必要が無いと判断したようにも見える動きだ。


「一番の弱点はその単一性だよ。四谷くんのタビアは地面から硬い岩盤を出す。ただそれだけだ。確かに俺が攻撃する際にはその岩盤が邪魔になるけどこっちが避けるとなると話は別だ。四谷くんのタビアほど避けやすい物はねえよ」


「そうかい、まあ何回も模擬戦で戦ってるわけだしそのぐらい知られてても不思議じゃ無いか」


 自分のタビアを見事に分析されている四谷はそれを誤魔化さず、むしろ肯定した。


「でもまあ、だからって諦めるわけにはいかないな、"岩盤壁がんばんへき"!」


「"双脚付与そうきゃくふよ250%"」


 四谷がタビアを発動するのと同時に新海は四谷へ向かって走り出す。その行動にはやはり一切の迷いが無く、一連の動作は敵対している四谷から見ても見事だと思うほどだった。一瞬の迷いが命取りにもなりかねない実戦では参考にするべき戦い方だ。


「なっ、くそっ! "右腕付与みぎうでふよ200%"!」


 しかし、だからこそ長年の付き合いである四谷には新海の次の行動が見えていた。新海は自分の足元に現れるはずだった目の前にある壁を右腕で吹き飛ばす。


「いくら単調な攻撃でも応用はきくよ。俺のことを少し甘く見過ぎじゃないかな。そっちも単調な攻撃なのは変わらないでしょ」


 新海の予想を外した四谷はあからさまに挑発する。


「へっ、俺の動きを少し止めた程度で調子に乗りすぎでしょ四谷くん。だけどまぁ、確かにああいうのを何回もやられるとこっちとしてもうざいなぁ。最初から本気で行かせてもらうぜ」


「ならこっちも全力で応えさせてもらう」


「"双脚付与そうきゃくふよ300%"!」


「"岩盤壁がんばんへき"!」


 少し話した後、二人は同時にタビアを発動し、攻撃へと移った。


 

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