第23話絶望的状況
「くそっ、"
美桜に飛ぶ攻撃を急いで泡島が止める。戦闘が終わっていても念の為、泡を残していたのだ。
しかし、どうやら最後の泡だったらしく、泡島は小さく悪態をついてから泡を爆発させた。
「どういう事!? 人を操るタビアだって!?」
「悪りぃ、俺も完全に忘れてた! 百鬼夜行のリーダー鵜島 誠吾は軍のエリート集団、白狼館の出身で、戦場で敵を操って攻撃する事で有名なソーサラーだ! そのおかげで白狼館にも数名しかなれない隊長にもなってる!」
「なっ、それってかなり大物でしょ! 何で国を裏切るような事が起きるの!?」
「知らないよ!」
相当今の状況で焦っているのか、和葉と楽斗の二人は隣どうしに立っている事を忘れ、お互いに怒鳴りあっている。
「そんな事どうでもいいから今この状況をどうすればいいのか教えてくれ!」
「とりあえず鵜島 誠吾を見つける!」
泡島に怒鳴られると、楽斗はすぐに自分のタビアを発動した。
「"
"
「いや、その必要は無い」
楽斗が完全にタビアを発動しきる前に鵜島は身を隠していたトラックから出て来た。
「なっ、お前が……」
「ああ、俺が百鬼夜行、リーダーの鵜島 誠吾だ」
鵜島が自分から出て来た事に一瞬びっくりした一同だったが、しばらく考えたのち、全員が納得した。この襲撃はある程度の連携が無いと成し遂げられない、つまり情報交換が上手く行っているはずなのだ。
そして情報交換が上手く行っているという事は楽斗のタビアが音に纏わる物だという事もある程度伝わっているという事、知らない間に見つかって攻撃されるよりも自分から出て正面から戦う事を鵜島は選んだのだ。
「あなたが本当に鵜島 誠吾なのね?」
美桜が確認のため鵜島に聞く。答えは分かりきっているが、なりすましを疑っているのだろう。
「ああ、そうだ。証拠でも見せようか?」
そう言うと、鵜島はいまだに倒れている風紀委員の一人の方へ腕を向け、指をクイっと上に上げる。すると、腕を向けられた風紀委員はまるでゾンビを彷彿とさせる様、徐に立ち上がり、楽斗達の方を向く。そして、
「やれ」
「"
鵜島の合図と共にその風紀委員が攻撃を始める。操られているせいか、元々そうやって叫んで繰り出す技なのか叫ばれた技名は途切れ途切れだった。
「"
飛ばされて来た石はどれも小さく防ぐには何ら問題は無かった。
「これで分かっただろ」
「ああ、そうだな、あんたが鵜島 誠吾で間違いねぇ」
風紀委員を操ったのが鵜島だと理解した楽斗が代表して答える。
「そうか、分かってもらえたようで何よりだ」
「ねえ、いくつか質問いいかい?」
「まあ、そうだな。俺の味方をこれだけ倒したから少しだけなら聞いてやる」
「そう、ありがとね。じゃあまず一つ目、何であんたがここにいるんだ? あんたらの狙いは図書館だろ」
「それについてはもうすでに検討がついてるんじゃ無いか?」
そう、和葉は最初にこの質問をしたが、実は最初からその答えに検討が付いていた。本部隊は図書館と知らされていて実際に百鬼夜行の戦力もそちらに集中している。しかしその一方で大将は正門、その答えは一つしか無い。彼らの狙いは他のところにあるという事だ。
「まあ、いい。じゃあ次の質問だ。あんた、何ですぐに私達を攻撃しなかったんだ? そうしてれば全滅出来たでしょ」
「それこそ答えは分かりきっている事だろ。さっきあのタイミングで攻撃していたら逆にこちらがやられていたかもしれない。ただそれだけだ」
「俺からもいいか? 何でここを狙った。 重要な情報ならもっと他の所を狙っても良かっただろ」
和葉に続き、楽斗も質問をする。情報を全て把握しておきたい彼としてはなぜ『鳴細学園』を狙ったのか知っておきたいのだ。
「そんなものここにしかない物を狙ったにすぎないが……そうだな、特別に教えておいてやる。まず俺らの第一目的についてからか。俺らの第一目的、それはこの国の闇を壊す事だ」
「国の闇?」
美桜が引っかかった単語を口にする。
「ああ、お前達はこの国についてどこまで知っている?」
「それはどういう意味?」
美桜が鵜島の言っていることが分からず思わず聞き返した。
「簡単だ、この国の闇についてどこまで知っているかという質問だ。ここ日本は世界的にも戦争の起こらない平和的な国として知られている。だが、その実はどうなっているかお前らは知っているか?」
「そんな事知らねえよ」
鵜島の台詞に泡島がやや不服そうに返す。鵜島の突然の問いかけにイラッときたのだろう。
「まっ、そうだろうな。だから俺達が代表してこの国の知られていない闇を壊そうと言うのだ」
「それを壊して何になるんだ? 少なくとも俺らみたいな一般人に知られてない時点であまり害は無いだろ」
泡島が鵜島の言うことを聞いた上で思った事を口にする。確かに、泡島の言い分は正しい。鵜島の喋り方からすると彼はまるで自分以外の人のために闇を取り除くと言っている様に聞こえる。だが、泡島達は今までこの国の闇という闇を感じた事が無かった。それを壊して一体誰が得をすると言うのだろうか。
「お前らが知らないだけで、もうすでにこの国の闇のせいで苦しんでいる人がごまんといる。俺らが助けたいのはそういう人だ。お前らみたいな一般人では無い。質問はここら辺でいいな? それでは始めようか」
「そうだな、こんな状況で長話もあれだし」
質問の応酬を終わらせる提案をした鵜島に和葉が同意する。情報収集の癖がある楽斗が少し不満気な顔をしたが、和葉はそれを無視する。
鵜島の最後の棘を含んだ言い方も気にはなったが、今はとりあえず目の前の戦いに集中することにした。
「"
「"
和葉の答えが返ると同時に長谷部ともう一人、操られている風紀委員の攻撃が美桜に飛ぶ。
「"
しかし、それを和葉が止める。先程の戦闘を見ていたのか、鵜島は誰がどの様なタビアなのか把握しているようで、防御技を持っていない美桜へと攻撃を集中させた。
「"
「"
楽斗も敵の攻撃に負けじと反撃を試みるが、風紀委員の一人が投げた瓦礫によってその攻撃は止められてしまう。今のを見る限り、彼のタビアは無機物に衝撃吸収の付与を与える事だろうか。
一体どうやって操っている人物のタビアを把握しているのか楽斗は悩んだが、今はそんな事を気にしている場合では無かった。相手は『鳴細学園』の実力派集団である風紀委員に加え、この人数差だ。勝てる見込みなどもうとう無い。
しかし、全員が諦めかけたその時、わずかな希望が見えた。
「何ですか……これは」
「凛! 悪いけどちょっと助けて!」
「相棒、ちょっと遅かったかもな♪」
体育館の見回りをしていた京也達が現場に到着したのだ。
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