第22話謎の攻撃
「本当に四谷先輩を置いてきてしまってよかったんでしょうか?」
「仕方ねぇだろ、正門に敵のリーダーのが来るって言ってんだし」
「しかし、新海先輩の言葉を信じるのも……」
「情報があんまり無い今はそれを信じるしかねぇよ。お前、実戦経験があるらしいけどそこら辺は疎いんだな。どんなだったんだ? お前の初めての実戦現場は」
京也が踏み込んでしまっていいのかはたしてダメなのか、曖昧な所に足を踏み入れて行く。
実戦経験があるという事は必ず人を殺したり、仲間が殺されたりしているわけで、決していい思い出では無いはずだ。そこを聞いて行くのは無神経すぎるが、京也としてはそこが気になって仕方がなかったのだろう。
「氷室さんが言いたいのは私に判断力が無さすぎるという事ですよね? ……実は、私の初めての実戦は今とは比べものにならないくらい小規模なテログループが相手の時でした。その時はただ敵を殲滅するだけでよかったので何も考える必要が無かったんです。おそらく注目されたのは私がまだ若かったからでしょう。何せ七歳の時でしてから。すみません、実戦経験があるからと期待させてしまったようですが、私なんてそんなもの何です」
薺から聞かされたその事実に京也は驚いた。その驚きは決して落胆から来る物では無い、むしろ感嘆から来る物だ。
薺が実戦経験があるとはいえ、それがあまり大きな現場では無いという事を京也は初めから検討が付いていた。それはいいのだが今、薺は七歳の時と言った。
七歳と言えば普通なら、外で友達と遊んだり親にわがままを言っているような時期だ。そんな時期に薺はいくら小さいとはいえ、一つのテログループを壊している。
しかもそれについて誇らしく言わず、むしろ謙遜している、その自分を決して持ち上げない薺のその姿にも京也は感嘆していたのだ。
「へぇ〜、それでもすごいと思うけどな」
「こちらからも質問いいですか?」
質問に答えた薺が今度は自分の番だと言わんばかりに聞く。
「何だ?」
「氷室さんが手に持っているその銃に関してなんですが、あなたのタビアは確か冷気を操る物でしたよね。冷気を操るだけじゃその銃を作り出すのは無理なはずです。という事は私は嘘を吐かれていたという事でしょうか?」
その質問はもっともな物だった。薺が聞いている限りだと京也に出来る事はかなり限られている。せいぜい氷の壁を作り出す程度で、実用的な銃を作り出す事など到底成し得ないはず。
いや、そんな事よりも気になるのはなぜ、それを実戦演習で使わなかったのかだ。その銃を使っていればもっと楽に事が進んでいたはずなのに。
「ああ、これか、簡単だよ。冷気を操って氷の銃を作ったんだ。弾なら氷で作れるし、もしジャムっても新しい銃を作ればいい。俺は氷で作り出した色んな武器を扱って戦うのが主な戦闘スタイルだ」
京也が銃を作り出した仕組みだけでなく、自分の戦闘スタイルも明かした。これから戦うのに、重要だと判断したのだ。
「なぜそれを実戦演習の時も使わなかったのですか?」
「……まあ色々あんだよ」
「その色々を聞きたいんですが」
「そんな事よりもうすぐ着くぞ」
話をはぐらかした京也の言う通り、正門まではあと少しだった。すぐそこにある校舎の角を曲がれば正門が見える。
ようやく着いた、そんな想いと共に角を曲がった薺の目には信じられない光景が映っていた。
「何ですか……これは」
「凛! 悪いけど助けて!」
「相棒、ちょっと遅かったかもな♪」
京也達の姿を確認した楽斗と和葉がそれぞれ話しかける。しかし、薺にはそんな事を意識できる程の余裕は無かった。
何せ目の前では仲間同士である風紀委員と楽斗達が戦っていたのだから。
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「うわっ、すごいねこれ」
目の前に広がる光景に和葉は思わず立ち上がった。今、和葉達の周りは粉々になった瓦礫や百鬼夜行が身を隠すために使っていたトラックの破片、それについ先程まで戦っていた百鬼夜行の面々が倒れていた。泡島の作戦、というより賭けによる物だ。
泡島はこれを一か八かと言い、風紀委員や和葉達は今の状況を打開するにはこれしか無いと、八になる事を覚悟はしていたが、全員、まさか自分達が大怪我をするかもしれないという物だとは思っていなかった。
「ちょっと奏基! 結果的にはいいとしても、もし私達が怪我をしてたらどうするの!」
「すまん、俺もこれ以外方法が見つからなかったんだよ」
「だからって、もうちょっと説明してからやるとかあったでしょ!」
結果的には敵を全滅できたとはいえ、下手をすれば味方が全滅だった。そのため、美桜が怒るのも無理はない。
「まっ、いいんじゃねぇか? 結果さえ良ければよ♪」
「そうだけど……」
だが、泡島のその無謀な賭けのお陰で勝てたというのも事実だ。泡島の味方をする楽斗に美桜は何も言い返せないでいる。
「話すのもいいけど、そこら辺は後でやってくれ。今から図書館に行くぞ!」
話し込み始めた楽斗達に長谷部が次の現場に行くと告げる。正門は片付いたが、百鬼夜行の狙いは図書館だ。今すぐにでも加勢に行った方がいい。
『分かりました』
その事を理解した楽斗達はすぐに長谷部の後を追う。残りの風紀委員も彼らに続こうと走り始めようとするが、倒した敵の捕縛も大事だと思い、ほとんどが立ち止まり、各々のタビアを使って敵の捕縛へと移った。
「そういえば先輩のタビア、聞いてませんでしたね。この後の為にも教えてくださいませんか?」
「ああ、そうだな。俺のタビアは……」
「"
「危ねぇ! "
長谷部が美桜に答えようとした瞬間、無数の小さな針が飛んできた。それに気づいた楽斗が急いで防ぐ。楽斗タビアは自分の近くから音を発さないとあまり威力はなく、先程のは少々発動場所まで距離があったが、小さな針を止めるのには十分だった。
「なっ、この攻撃は!」
「知ってるんですか!」
まるでこの攻撃の主を知っているように振り向く長谷部に和葉が疑問を投げかける。
「ああ、この小さな針による攻撃、これはうちの委員会メンバーによる物だ」
「ていう事はつまり……」
楽斗の言葉と共に残りも全員振り向く。
振り向いた先に立っていたのは自分達に右手をかざしている先程まで味方だったはずの風紀委員の一人だ。いや、それだけでは無い。右手をかざしている風紀委員の周りには同じくこちらに敵意のような物を向けて居る風紀委員が何人もいた。
「おいおい、どういう事だこれ。やばいぞ」
「俺にも分からないですけど、ただ分かるのは何か変な事が起こってるって事ですね」
目の前に広がっている光景に泡島と長谷部がそれぞれ感想を述べる。
「……やべぇ、思い出した」
「何を!」
気の抜けた声で言う楽斗に和葉が急いでその答えを求める。
「敵の、百鬼夜行のリーダーの名前と二つ名だよ」
「そう、じゃあ早く教えて!」
ゆっくりとしている楽斗に和葉はついイラッときてしまう。理由も分からず裏切られた風紀委員を対処しなければならないのだから無理は無いだろう。
「名前は……」
「危ねぇ!」
「うおっ!」
楽斗が喋っている途中で飛んできた桃色の矢が泡島へ飛ぶ。それにいち早く気付いた長谷部が泡島を押して避けさせる。が、
「ぐわっ!」
続いて来た矢には反応できなかった。なすすべもなく矢の餌食となってしまったしまった長谷部はその場に倒れ込む。
「先輩!」
「くそっ! 先輩がやられちまったぞ!」
「名前は鵜島 誠吾、二つ名は"
長谷部がやられた事に美桜と泡島は嘆いたが、楽斗はそんな状況を全く気にもとめずに続ける。
「"
「なっ、まずい! 美桜、泡島! 今すぐそこから離れて!」
楽斗のセリフを聞いた和葉がすぐに美桜と泡島に長谷部から離れるように言う。だが、事はすでに遅かった。
「"
長谷部の手から放たれた圧縮された空気が美桜に飛ぶ。
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