第18話正門の攻防

「"音の潰滅おとのかいめつ"!」


『うわーーー』


 校舎が壊れて、落ちてきた大きめの瓦礫に身を隠しながら、楽斗などの学園を守ろうとしている面々は百鬼夜行に応戦している。最初の爆発で出来た瓦礫だ。


 一方、百鬼夜行の方は乗ってきたトラックに隠れながら突撃銃を撃っている。


 楽斗、和葉、美桜、泡島の四人は京也達よりも一足早く正門に辿り着いていた。最初、そこで戦っていた風紀委員はその四人を邪魔になると思っていたが、今は逆に助かったと感じている。今、風紀委員のメンバーはほとんどが図書室前にいる。それは、事前に百鬼夜行の狙いが図書室にあると分かっていたからだ。


 しかし、そこを重視していたが故に見落としていた部分もあった。それは百鬼夜行が違うところからも攻めて来た場合だ。

 彼らが最初に攻めて来たのは、正門だった。しかし、図書館は正門から見て反対側にある。その上、彼らの狙いが図書室にある以上、人員を正門に回せないのだ。


 つまり、人手が必要な今、彼らの存在は結果的に助かる事になったという事になる。


「敵がテログループって聞いてたからもっと苦戦すると思ってたけどこれじゃあ何とかなるんじゃないか?」


 しかし、いくら人手が足りなかったとはいえ、今は案外楽に事が進んでいる事に、和葉は瓦礫に身を隠しながら事態を楽観視する。


「まあ、元々百鬼夜行ってソーサラーの少ないテログループだからね。相手が銃使ってんのもそれが理由だな」


 楽観視している和葉に楽斗はその理由を和葉が隠れている瓦礫に移動してから説明する。現在、ソーサラーの数は年々増している。

 しかし、その数は未だに世界の総人口の一割にも満たないのだ。大抵、この時代のテログループというものはソーサラーの存在を否定したり、逆にソーサラーの立場の悪さを変えようとしている、両極端な物だ。


 だが、百鬼夜行は他のグループとは違い、目的は国そのものを変える事。その為彼らはソーサラーと一般人が入り混じった状態になっている。


「ていう事はソーサラーが来たら私達もやばくなるって事? "炎の舞姫ほのおのまいひめ"!」


「ああ、そうだな。"音の潰滅おとのかいめつ"!」


 敵を攻撃しながら聞く和葉に楽斗も攻撃しながら答える。


「二人とも無駄口を叩いてないでちゃんと戦闘に集中して! 少し余裕はあるけどそれでもきついのは変わらないんだから!」


 無駄口を叩いている二人に美桜が注意する。確かに、相手にソーサラーがいない割には戦況は苦しいのが現状だ。こちらには風紀委員を合わせて、十一人もタビアを使える人がいるのに、一向に敵を押し返せていない。これは恐らく、百鬼夜行というグループの性質ゆえだろう。


 百鬼夜行とは先程も説明した通りこの国自体を転覆させようとする、この時代には珍しいタイプのテログループ。


 そして、彼らのもう一つの特徴は、構成メンバー全員が軍隊出身だという事だ。特にメンバーのうち一割にも満たないソーサラーは、全員が白狼館という組織の出身だ。


 白狼館とはソーサラーのみで形成された、この国にしかない軍隊だ。ソーサラーには、軍でも様々な役割があるが、彼らはその中でもエリート部隊であり、重要な作戦には必ずと言っていい程参加している。


「でも、こんな感じなら俺も何とかなると思うけどな」


「まったく、あんたまで」


 楽斗と和葉に引き続き、戦闘に反対派だった筈なのに事態を楽観視している泡島に美桜は呆れる。


「でも本当にこれからどうする?」


「さあ、そこら辺は風紀委員の先輩方に聞かねえと分かんないな♪」


「一番手っ取り早いのは新たな戦力の増強だけどな」


 泡島を始め、楽斗と和葉は冷静に状況を分析し始める。事態を楽観視しているとはいえ、状況をしっかりと判断するほどの理性はちゃんと残していたようだ。


「人員の増強は難しいな。何せ今はほとんどの風紀委員が図書館の防衛に回ってるからな、あるとすればお前らみたいな物好きの一般生徒だけだろ」


 楽斗達の会話を聞いていた、泡島と同じ瓦礫に身を隠している風紀委員が会話に参加する。


「でも、凛様や京也はどうなんでしょう? 確かあの二人って見回りでしたよね?」


 泡島達の隣の、割と小さめの瓦礫に身を隠している美桜が聞く。先程から物凄い数の銃弾が瓦礫に当たっているが、どうも気にしていない様子だ。


「ああ、そこはあいつらの判断次第だな。あいつらが図書館を重要だと思えばこっちには来ないし逆にこっちが重要だと思えば来る」


「なるほど、では先輩、もし相手の方に一人でもソーサラーが現れたら」


「一気にこっちが劣勢になる。出来ればそうなって欲しく無いけどな。そうなる前にここを片付けたい。あと俺の事は長谷部でいい」


 不吉な発言を始めた泡島に長谷部が後付けをする。


 そう話している間にも戦闘は続いてく。幸いにも風紀委員や楽斗達の中に今の所負傷者はいない。だが、それも恐らく時間の問題だろう。現在優勢に事は進んでいるがほぼ互角。


 戦力が一人でも増えれば簡単に覆る状態なのだ。長谷部はそうなる事をどうしても避けたいらしい。


「じゃあもう短期決戦で挑むしか無いですね♪ "音の潰滅"!」


 そう言い、楽斗は瓦礫から身を乗り出しながらタビアを放った。

 先程から彼が使っている技は音をまっすぐ相手に飛ばす攻撃だ。構えは"音叉爆裂"と同じフィンガースナップから入るり、最大の特徴は攻撃が敵に見えないという事だ。


 音とは耳で認識出来ても目では認識出来ない。その為この技を避けるには相手の予備動作から判断する他ない。だが、この技は"音叉爆裂"と同じフィンガースナップから入る。その為、予備動作だけではどちらの技が来るのかが分かりづらいのだ。さらに、"音叉爆裂"と"音の潰滅"では対処の仕方がまったくと言っていい程違う。

 楽斗はその性質を上手く使いながら二つの技を使い分けている。


「お前、いくら短期決戦がいいからってあんま瓦礫から身を出し過ぎるなよ、"ばく"!」


「分かってるって」


「本当に分かってるの?」


「いいじゃん美桜、奏基も。私もそっちの方がいいと思うしさ」


 瓦礫から身を出した楽斗に泡島と美桜は心配になるが、和葉が楽斗のフォローをする。泡島はさらに攻撃を仕掛けるが、先程から彼の攻撃はただの一つも当たっていない。


「それにしても上手く操れないな」


「確かに、どこか平衡感覚がずれているような感じするな」


 先程タビアを使った泡島だが、彼は自分の技が全く当たらない事に対して嘆き始めた。だが、それは彼に限った話では無い。どうやら一緒にいる長谷部もそう感じているらしい。


「そうですか? こっちはちゃんと相手の方に向かってますけど"龍の咆哮りゅうのほうこう"」


「確かに、何で先輩と奏基だけ当たらないんだ? そもそも奏基のはそこまで平衡感覚を必要としないだろ。全員耳を塞げ! "音叉爆裂おんさばくれつ"!」


 技を放ちながら楽斗と美桜が技の当たらない原因を考察する。今楽斗が"音叉爆裂"を使ったのは考察できる時間を少しでも長くする為だ。楽斗と美桜が言うには今の所、タビアが上手く扱えていないのは泡島と長谷部だけ、しかしその理由が分からない。


 二人、特に泡島にはそのような状態になる理由が思いつかないし、長谷部もこの学園でも指折りの実力者しかなれない風紀委員の一員だ。そんな人がいつ襲われるか分からないという時期に健康管理を怠るとも思えない。ただ一つ心当たりがあるとすれば、


「まあ、一つだけ可能性があるとすれば」


「敵のタビアか」


 美桜の言葉に続き、長谷部が答えにたどり着く。


「くそっ、そうなってくるとやばいな」


 そう、ただ一つ可能性があるとすればそれは、敵のタビアによる攻撃だ。そうでも無いと泡島と長谷部が上手くタビアを扱えていない理由が思いつかない。仕組みは分からないが、どうやら相手に何らかの異常を起こさせる、後方支援型のタビアだ。


しかし、後方支援型のタビアという事は一つ、まずい事がある。泡島はその事について悪態をついた。

 それは、そのタビアを使っているソーサラーの正体が分からないという事だ。後方支援型のタビアを使うソーサラーは相手を見なければいけないなどといった条件がない限り、基本的に攻撃を受けないよう敵から身を隠す。つまり、泡島と長谷部の状態異常を治せなくなるのだ。


 そうしたければまず、敵のソーサラーを見つけるという手間を取らなければならない。


「なるほど、じゃあここは俺の出番だな」


「何をする気?」


 何かを思いついたのか、楽斗が銃弾に当たる危険をかえりみずにおもむろに立ち上がった。隣にいた和葉が本当に大丈夫なのかという目で楽斗を見る。


「まあ、見てなって♪ いくぞ……」


 しかし、楽斗がその何かをしようとした瞬間、動けなくなった。

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