第17話襲撃

 爆発音を聞いた三人はすぐに爆発のあった方へと走っていた。虚弱だという印象を受けていた四谷も全速力の京也と薺について来ている。


「こういう時に風紀委員のとる行動は?」


「主には被害が広まらないよう速やかに敵を撃退する事です! もう放課後とはいえまだ部活とかで残っている生徒もたくさんいるはずです! ちなみに一般生徒も通常時はタビアの使用は禁止されていますが、こういう時は特例として敵にのみ使う事が許されています!」


 京也の問いに薺が急ぎながら答える。相当焦っているのか、怒鳴っているように聞こえなくも無い。


「確か林道さんによると百鬼夜行の狙いは図書館の中にあるデータバンクだったよな?」

「はい! ですがまずは爆発のあった方に向かいます!」


 普通ならここで百鬼夜行の狙いである図書室に行こうとするが、図書館周りには元から多数の風紀委員が配備されている。一年生で足手まといになり兼ねない自分達が行くよりは、爆発音のあった方へと向かうのがいいと薺は判断したのだろう。


「分かった、四谷先輩はどうします?」


 これからの予定の確認を取った京也は四谷に彼がどういう行動をとるつもりなのか聞く。普通なら避難してもらうという判断を取るが、彼は歴とした部活の部長、人手が出来るだけ欲しい今はどうしても実力者である彼の力を借りたい。


「俺も参戦するよ、こう見えても順位は二十六位だからね、今は少しでも味方が欲しいだろうし。うちの部員には避難誘導をさせるよ。うちの部は実力者揃いだから万が一敵と遭遇しても大丈夫なはずだ」


 そう言い、四谷は電子手帳で自らの部員にメールを送信した。


「しかし、腑に落ちません」


「何が?」


「敵がどうやってこの学園に侵入したかですよ」


 正門に向かっていた京也達三人がもうすぐ着きそうという所で薺が気になることを話し始めた。


「本来この学園には強力な結界の様な物が張ってある筈なんです。ですが敵が侵入して来たという事はそれが破られたという事です」


「結界? そんな陰陽師っぽい物がここにあんのか」


 薺の言葉に京也は興味を示し、四谷は確かに、という表情で話を聞いていた。


「いえ、詳しくは学園内にいる教師の方に結界のような物を張れるタビアの持ち主がいるんです」


「へぇ〜、それは初耳だな」


「はい、これは一部の人しか知らない事ですから」


「四谷先輩は知ってたんですか?」


「ああ、この情報は風紀委員と生徒会、あとそれぞれの部長に知らされてる事だから」


「なるほど、それで、何が腑に落ちないんだ?」


 正直、京也には薺の言っている事が分からなかった。結界が張られていて、それが破られたのにびっくりするのは分かる。だが、今薺は腑に落ちないと言っている。腑に落ちないとは結界が破られて、それについて分からない事があるという事だ。


 ただ結界が破られただけなら外から攻撃を受けて、結界が耐えられなかったと処理出来るはずなのに、分からない事があるとはどういう事なのだろうか。


「はい、この結界ってその教師の方が何週間もかけて一つの部屋に魔法陣を書いて作ったものなんです」


「魔法陣で発動するタビアなんか本当にあったんだな」


「まあ、タビアもそれぞれ色んな種類があるからね」


 魔法陣という言葉に引っかかった京也に四谷が補足を足す。


「そして、その教師の方のおかげでこの学園に敵意のある者は侵入を許さず、攻撃も一切通さないというこの国でもトップクラスの結界が出来ました」


「へぇ〜、それで?」


「つまり外からの生半可な攻撃じゃ壊れないって事ですよ。ただ……」


「ただ?」


 途中で言葉が詰まってしまった薺に京也はいきなりどうしたのかと思った。


「ただ、一つだけこの結界を破る方法があるんです。あまり信じたくありませんが結界破れた原因はそれしかありません。それは……



 中から結界を破った場合です」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それにしても相棒があんなに薺さんと仲良くなるなんてなぁ」


「あれで仲がいいって言ってるの? ただ一方的に凛様が話しかけてる様にしか見えないけど」


 楽斗達四人は薺が京也を連れて行った後、しばらく教室の中で時間を潰していた。京也がいた時は百鬼夜行の話題で盛り上がっていたが、今は、楽斗が京也の事を話し始め、美桜がそれに疑問を返えした事で話題が変わっていた。


「ああ、中三の時のあいつ知らねえだろ。本当に周りを寄せ付けないオーラをビンビンに出してたんだぜ」


「えっ、今もビンビンに出してない?」


「いや、今の比じゃねえんだって」


「へぇ〜、そんなにだったんだ」


 今もオーラを出していると指摘する和葉に楽斗は中学の時の方が酷かったと訂正する。


「じゃあ何で今は薺さんと仲良くしてんだ? まあ、俺達も含めてだけど」


 泡島が当然の疑問を口にする。


 人とはある、大きな出来事がない限り変わる事などほとんど無い。その機会が高校生になってからの京也にあったのならば話は変わってくるが、まだ入学してから一ヶ月ほどしか経っていない。とてもじゃないがその間に京也の人間性が変わる様な出来事があったとは到底思えないのだ。


「ああ、それ多分私かな。私があいつに薺を無視しないでくれって頼んだんだ」


「いや、その会話なら俺も聞いてたけど多分それだけじゃないと思う」


「見事に見解が外れたな」


 答えを導き出したかのように思えた和葉だったが、楽斗がすぐにそれを否定する。


「っ、じゃあ何で?」


「多分だけどそれは……」


《バァーーーン》


 自分の考えが否定されて、さらに泡島に少し煽られてムッとした和葉に楽斗が返答しようとした瞬間、凄まじい大きさの爆発音が辺り一面に鳴り響いた。


「今のは?」


「分からないけど只事じゃない音だよな」


「多分、百鬼夜行による襲撃だ」


 突然響いた爆発音について聞いた美桜に泡島が曖昧に返し、楽斗が答えを出す。

 おそらく答えが分かったのは爆発音がした瞬間瞬時にタビアを使い、周りの会話を聞いたからだろう。


 四人とも流石と言うべきか、先程までの会話を忘れて、今は全員、さっきの爆発音に集中している。


「で、俺たちはどうする」


「はあ? どうするって避難するだけだろ。後は風紀委員の先輩方や京也と薺さんに任せて」


 楽斗の謎の質問に対して、泡島が当たり前の事を述べる。


「そうだね、じゃあまずはタビアで敵が集まってる所を見つけてくれないか?」


「了解♪」


「おい、お前らまさか……」


「はぁ……」


 楽斗と和葉が何をしようとしているか泡島は気づき、美桜も呆れる。

 楽斗と和葉は戦闘に参加しようというのだ。確かに校則でこういう時はタビアを使ってもいいとあるが、普通の生徒、ましてや一年生ならここで避難という選択以外はとらない。

 それが一番安全であり、最善策だからだ。その選択肢を選ばないという事は、それだけ二人は好戦的という事なのだろうか。


「じゃあ私達はどこ行く?」


 呆れている二人を置いて、楽斗と和葉は話を進める。


「林道さんと京也達の話を聞くと百鬼夜行が狙ってるのは図書館にあるデータバンクだ。何があるかは知んねえけどテログループが狙ってんだからただ物じゃねえだろうな。やべえ、俺も知りてえな」


「いや、それは流石にダメでしょ。早く話戻して」


 さすがにおかしい事を言い出した楽斗に和葉は話を戻すように言う。


「ああ、まあそうだな。多分風紀委員と敵さんは図書館辺りには集まると思うぜ。そこに向かおうとしたら途中で避難誘導に回ってる生徒に止められる。

 だから俺らが行くのは爆発音があった正門辺りだ。そこに敵がいる事もタビアで確認済みだ」


「じゃあ私達はそこに?」


「お前らまじで行くの? やめとけって。ここは風紀委員の先輩方や京也と薺さんに任せようぜ」


 いくら何でも危険すぎる。その為、泡島は行かないように忠告する。が、


「何言ってんだよ。こんな所で怖気ついちゃあソーサラー失格だぜ♪ よし! そうと決まれば行くぞ!」


「分かった!」


 泡島の忠告を無視し、楽斗と和葉の二人は勢いよく教室から飛び出し、正門へと向かった。


「おいおいまじかよ……」


 いくら好戦的とはいえ、この行動は泡島にとって二人の行動は考えられなかった。確かに、初めて実戦でタビアを使えるかも知れないという喜びは泡島にもある。だが、だからと言って最初がこんなハードじゃなくてもいいはずだ。二人は余程こういう機会を待ち望んでいたのだろうか。


「で、私達はどうするの?」


 だが、今はそんな事を言ってももう遅い。現に二人は言ってしまったし、泡島には止める事が出来なかった。もうなる様にしかならないのだ。


「はぁ、無視するわけにもいかないだろ。俺達も行くぞ」


「まっ、そうなるよね」


 その言葉の後に二人は楽斗と和葉の後を追いかけた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「来ましたね」


『ああ、そうだね。今爆発音がこっちにも聞こえたよ』


 爆発音がした時、度会は学園長室で林道と電話をしていた。特に用件があった訳では無いが、襲撃された時の行動の最終確認をしたかったのだ。


「で、俺は本当に出なくていいんですか?」


『ああ、前にも言った通り彼らの真の狙いは図書館にあるデータバンクじゃなくて別の物だらね。まあ、確かに図書館にあるデータバンクも彼らの狙いではある。けど、鳴細学園にある物で一番大事な物はそこには無い。別の所にある。今学園内にいる十指は君とあと一指しかいないからね。何とかそこを離れないでくれ』


「なら何で他の人にも頼まなかったんですか? 十指じゃなくても十位台にもかなり実力者はいるでしょ」


 この学園内には今、十指が自分合わせて二人しかいない事は分かっていた。だが、度会が分からないのは何故、その大事な物を守る役割を自分一人にさせているかという事だ。


 確かにこの学園では十指とは特別な存在だ。だが、そうで無い者にも実力者はごまんといる。そこまで大事な物なら自分一人だけではなく、他にも人を呼べたはず、何故そうしないのか度会には分からなかった。


『その大事な物の存在をあまり知られたくないからだよ。その事について知ってるのは教員の中でもごく一部だからね。だから学園内に残っている一番の実力者である君に頼んでるってわけだ』


「一番の実力者って、まだ一指の人がいるじゃないですか、何でその人に頼まなかったんですか?」


 一番の実力者というなら、公開されていないとはいえ、一指に君臨している人に頼めばいい。しかし、林道は何故そうしないのだろうか。


『いや〜、彼かなりのめんどくさがりだから、多分頼んでも断られてたよ。まあ、それでもやらせるって事は出来たけど今はその時では無いからね』


「ふ〜ん、まあいいんですけどね。せいぜい頑張らせて頂きますよ」


『ああ、頼むよ。君にこの国の未来がかかってるんだから』


「えっ、そんな貴重な物なんですか、俺の守る物って」


 予想以上の林道の言葉に、度会は驚きを露わにする。


『ああ、だから頑張ってくれたまえ。そろそろ切るよ本当にお願いね』


《プツン》


「はあ、厄介な役回りだねこれは」


 そう言い、度会はツーツーと鳴る自分のスマホを切った。


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