第16話見回り
そこは主な光源がランプの光と外から僅かに差し込む太陽の光しかない薄暗い空間だった。
元々はホテルとして利用されていたものなのか、所々にそれらしき柱が見える
廃墟と言われればそれで納得してしまいそうな場所だ。
そんな空間に置かれているソファの上に鵜島は腰をかけていた。
「計画は来週の月曜決行するぞ」
「本当にいいんですね? 鵜島さん」
鵜島から見て机の向こうには数人の男性が立っている。容姿は様々だが全員がどこか覚悟を決めた表情をしていた。そして、その内の一人が鵜島に確認を取る。
「ああ、仕方がない事だ。これもこの国の為、彼らには犠牲なってもらう他あるまい」
犠牲、その物騒な言葉にたじろぐ者はいなかった。全員覚悟を決めていたのだろう。さっきの問いも、今からしようとしている事をしていいのかという確認では無く、普段はそんな計画を立てない鵜島が後悔しないかという確認の為だった。
「分かりました。この国と鵜島さんの為、我々もこの命をもって手伝わせて頂きます」
「ああ、だがお前らは本当によかったのか? 俺に付いてくる理由なんて無いだろ」
「いえ、この国が歪んでいるという事は我々も身をもって体験しています。それに、鵜島さんには数え切れない程の恩もあります。今更後悔なんて致しません」
全員の気持ちを代弁し、部下の一人は即答する。
「そうか、ありがとう。来週の月曜、必ずこの国を変えてみせる」
そう言った鵜島の顔は決意に満ち溢れていた。
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京也が林道たちに風紀委員の仕事を頼まれてから一ヶ月が経とうとしていた。
「氷室さん、行きましょう」
「はぁ、またかよ。ただでさえ月曜日ってだけで憂鬱なのに」
風紀委員の仕事は二人一組で行動しなければならない為、いつも薺が京也を呼びに行っている。
「おっ、またデートか♪」
「なっ、そんな事絶対許さない!」
「いや、冗談だって。いい加減分かれよ」
薺は毎日京也を誘う為にこのグループを訪れていて、その度に楽斗がこの冗談を言うのだが、その度に激情する美桜に泡島が苦言を呈する。
「そういえば毎日やってるよな、その警備。かもしれないってだけなのに」
「ああ、まあそうだな。万が一にこした事はないって事なんじゃねぇか?」
「でも無駄になったら大変だな」
「何かそう思い始めたら余計嫌になってくるからやめてくれ」
嫌な事を言い出した和葉に京也はそれをやめるよう願う。
「それじゃあ行ってくるわ」
「おう」
「まっ、元気出していけよ♪」
「がんばりなよ、凛もしっかりな」
「凛様に手出したら許さないから。凛様もお気をつけて」
「う、うん。ありがとう美桜ちゃん」
一人を除いて、楽斗達はそれぞれ京也を心良く送り出した。
警備と言ってもやる事はせいぜい見回り程度でほとんど、というよりずっと暇なのだ。万が一にもこした事は無いとはいえ、一ヶ月もこれを続けるとなると流石に気が滅入ってくる。
「今日はどこ回るんだ?」
「今日は体育館付近の見回りです」
その日によって見回る場所は変わっており、その連絡は風紀委員それぞれの電子手帳に送られてくる。本来なら両方とも送られてくるが、京也は風紀委員では無い為、その情報が送られて来ないのだ。
その後二人は体育館へ行き、早速見回りを始める。そんな矢先だった。
「おっ、やっと見つけたよ。久しぶり」
一人の少年が話しかけてきたのは。その声に覚えがあった京也は何とかそれを思い出そうとするが、どうにも思い出せない。代わりに薺が返事をする。
「あっ、四谷先輩。お久しぶりです」
二人に話しかけたのは入学式の時に薺が(京也も少し)収めた部活抗争の一方の部長である四谷 樹だった。
改めて四谷を見ると顔は薄く、体も少し痩せている。いかにも虚弱体質のような体だった。部活抗争の時も思った事なのだが、何故こんな頼り甲斐の無さそうな人が部長を務めているのだろう。
「前々から二人には礼を言いたくてな。あの時はありがとう」
「薺さんに礼を言うのは分かるんっすけど、何で俺にも言うんですか? 俺って何もしてませんよね?」
京也が最もな質問を返す。あの時京也がやった事といえば薺に攻撃を仕掛けた新海を止めたぐらいで四谷が得になるような事は一切していない。薺にはあっても、四谷に礼を言われる覚えが無いのだ。
「いや、あの時君が薺さんを助けてなかったら大惨事になってただろうからね。こっちとしても大事な部員勧誘の時にあまり騒ぎを起こしたく無かったんだよ。それに、新海のあの攻撃を止めた事にも驚きだったし」
「そうですか……」
少し嫌な事を言われてしまった京也は歯切れが悪くなる。
「二人は風紀委員の仕事かい?」
「はい、まぁ俺は風紀委員じゃ無いんですけど」
「四谷先輩はどのようなご用件で体育館に?」
四谷の質問に京也が返し、薺が逆に何故ここにいるのかを聞き返す。
「ああ、俺は部活だよ。それにしても大変だね、見回りって、暇だろ?」
「いえ、これも大切な風紀委員としての仕事ですので、全然苦では無いです」
流石は薺家の跡取りだ、とても真面目な答えを返す。いや、実際に彼女は本心からそう思っているのだろう。そうですね、と言いかけた京也とは大違いだ。
「そういえば生徒会って何してるんですか? かなりの実力者だって聞いてましたけど」
「ああ、生徒会ね。彼らなら全てのソーサラー専門の養成学校の代表が出る会議に出てるよ。そこで学園対抗戦のような一大イベントの取り決めを行うんだ」
「学園対抗戦?」
そこで薺が途中に出てきた単語について疑問を投げかける。
「ああ、君達はまだ知らなかったっけ? ソーサラー専門の養成学校が三十二校あるのは知ってるだろ? 毎年一月になるとそれぞれの学校の代表による勝ち抜きトーナメントが開催されるんだ。出場出来る生徒は少ないとはいえそれぞれの学校の実力者が出る大会だからね、かなりハイレベルで毎年盛り上がっているよ。ちなみに去年ここ、鳴際学園はベスト4まで行ってるよ」
「へぇ〜、さすがは名門っすね」
「部活といえば新海先輩ってどうなったんですか?」
生徒会の話に区切りがつき、薺が新海の処遇について聞く。
「ああ、あいつか。しばらく停学処分になってたけど確か今日から登校してたな」
「新海先輩で思い出したんっすけど、可夢偉部って一体何の部活なんですか? 全く見当が付かないんっすけど」
「ああ、あれね。あれは簡単に言えばアウトローの集団だよ。部活って人数が集まって部長が高ランクの者だったら簡単に作れちゃう物だからね、新海が自分と似た輩を集めたのが可夢偉部ってわけだ。そうだ氷室君、君極技部に入ってみないか? 君ほどの実力者なら大歓迎だよ。そういえば、君の順位は?」
《バァーーーン》
四谷が京也に順位を聞いた瞬間とてつもなく大きい爆発音が辺り一帯に鳴り響いた。そして、その爆発音の正体はすぐに誰もが気づくことになる。
百鬼夜行の襲撃だ。
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