第15話呼び出された理由
「話っていうのは他でも無い、最近君達の中でも噂になっているであろう襲撃事件についてだよ」
「すみません、その前にその方はどちら様ですか?」
「えっ、氷室さん知らないんですか?」
「ああ、俺あんまそういう事に興味ないから、もし不快にさせてしまったようならすみません」
話を始めた林道を早速遮り、京也は横に立っている青年が何者なのかを尋ねた。無礼ではあるが、京也としてはそこが気になって仕方がなかったのだろう。一方薺は、京也の質問に驚いている様だ。
「いや、全然構わない。俺は
京也の問いに度会は不満な表情を一切見せずに答える。それだけで度会がいかに優しい人物かが見えて来る。
「はい、よろしくお願いします」
「それにしても俺を知らないとは意外だったね、この学園にいれば嫌でも俺の名前を聞くだろうに」
「え、そんなに有名なんですか?」
「氷室さん、失礼ですよ。風紀委員長である度会先輩は普通の風紀委員でもね任命される時以外は会えないすごいお方何ですから」
失礼な事を言ってしまった京也に薺が苦言を呈した。出会って数十秒で数々の非礼をしている京也だが、度会がそれに怒る素ぶりは一切ない。優しいというよりはただそういう事を気にしないたちなんだろうか。
「いや、失礼だとかは気にしなくていい。あまりそういうのは気にしないたちだから」
「ああ、多分知らないのはあまり人と関わってないからですね。俺が今まで関わってきたのってここにいる薺さん合わせて五人っすから」
(それにしても、何で楽斗からはこの人の話を全然聞かなかったんだ? あいつなら俺に教えてただろ。当たり前すぎて話すに値しないって事か?)
「そうか、それは悪い事を聞いてしまったね」
「いや、別にぼっちだからってわけじゃなくて」
なぜか同情されてしまった京也は急いで訂正する。
「ですがそれでも知らないというのは驚きですね」
「まっ、自分で言うのも恥ずかしいけど俺を知らないのは相当だね」
「そうっすね、俺も自分がそこまで世間知らずだとは思いませんでした。ていうか何でそんな有名なんっすか? 普通この学園の人数なら風紀委員長が誰なのか知らない人がいても別に不思議じゃないでしょ」
「氷室さん、もしかして電子手帳まともに見た事無いんですか?」
「無いけど、それがどうした?」
京也の発言にびっくりした薺に、自分がおかしいのかと京也も若干驚く。
「電子手帳に乗ってるんですよ度会先輩は。ほら、ここに」
そう言いながら薺は自分の電子手帳を京也に見せた。
その画面の上には【
「これは?」
「いいですか? この学園には決戦制度があります。それはご存知ですよね?」
「まあな」
「その決戦制度のランキングの中でもトップ10に入った人は【十指】って呼ばれるとてつもない実力者なんです。そして、そちらにいらっしゃる度会先輩は第四位、【
「その、君臨って言いかたやめてもらっていい? 何か恥ずかしいから」
妙な表現を使った薺に度会はそれをやめるように願った。たしかに、京也もその表現方法はどうなのかと思ったが、使われた本人はもっと思う所があるらしい。
「そうだな、俺からも十指について一つ加えさせてもらうと、今年は面白いことになっているんだ」
「面白い事?」
話に乗り気になったのか、度会が京也達に新しい話を提供した。それに意外だった京也は驚いたような表情を見せながら話を聞く。
「ああ、そのページの一番上を見てみて」
そう言われ、京也はずっと開きっぱなしの薺の電子手帳を覗き込んだ。もちろん薺もだ。
そして一番上を見ると【
「一番上だけ空欄っすね」
「そう、それって今まで一度も無かった事なんだ。何せそんな事するメリットなんて無いからね」
「何でそんな事になってるんですか?」
「さあね、学園長に聞いてもちゃんとした答えは返って来ないし。ただこの学園のトップはかなり変わってるって事だ。まっ、今はまだ謎だけどね」
薺の問いに、度会は投げやり気味に答える。
「あの〜、盛り上がっている所悪いけど、もうそろそろこっちに戻ってきてもらっていいかな?」
自分を他所に盛り上がっていた京也、薺、度会の三人にそろそろ本題を話したいと林道が持ちかける。
「あっ、すみません学園長!」
「いや、いいよ、そんなに待ってたわけじゃ無いし」
少し過度に謝りすぎた薺に林道は別に責めていない事を告げる。
「すみません学園長、少し盛り上がっちゃいました」
少し盛り上がりすぎたと思ったのか、度会も林道に謝るった。
「そうだね、まあ楽しそうで何よりだよ。で、本題だ、君達襲撃事件についてはどこまで知ってる?」
「私はニュースで見た程度の事しか知りません」
この発言は京也には意外だった。四大名家の跡取りともなればすぐに本家から情報が入りそうなものなのだが、そうでも無いのだろうか。
「あの軍の施設が襲われてるってやつですか? それなら〜……」
京也はそこで一瞬犯人が百鬼夜行だという事まで言おうとしたが、寸前でとどまった。その理由としては、楽斗の情報収集が一体どこまで法に触れているか分からない為だ。もし、法に触れているのであれば、簡単に言えるはずが無い。
「ああ、佐伯君に対しては僕もある程度理解があるから大丈夫だよ」
「なら俺が知ってるのは犯人が百鬼夜行かもしれないってとこまでですね」
林道にそう言われ、京也はすぐさま白状した。楽斗の情報収集について知っているなら隠す意味は無いと考えたのだろう。
「まっ、かもしれないっていうよりも犯人は百鬼夜行で間違いない。これは確実だ」
「そんな事俺に言っていいんですか? 俺なんか風紀委員でも無いのに」
京也が疑問に思うのも無理はない。今、一般生徒にはニュースで伝えられている襲撃があったという事しか広まっていない。そして、京也は風紀委員でもなく、別に何も特別ではない一般生徒なのだ。その一般生徒にあまり重要ではないとはいえ、報道されていない情報を伝えるのはどうなのだろう。
「いや、いいよこれから伝える事に比べたらこんな物些細な事だ。まずは氷室君に今風紀委員がやっている事について説明しようか、度会君、お願い」
「了解です」
そう言い、林道に頼まれた度会は説明を始めた。
「俺達風紀委員は今、襲撃に備えて学園の警備に当たっているんだ。基本的に二人一班で動く事になっていて、今ちょうど班編成をしている所なんだけど……そこでちょっとしたトラブルが発生しちゃってね、風紀委員の人数が奇数になんだ」
「……それで?」
京也は度会の言いたい事が分かっていながら続きを促した。
「それで残っちゃったのが唯一の一年生である薺さんってわけだ」
「そして、そのパートナーを俺にやれと?」
「まっ、そういう事だね」
「あの〜、じゃあいくつか質問いいっすか?」
この事に対して、京也は分からない事がいくつかあったどれから質問しようか悩んだが、あまり悩みすぎるのも失礼だと思い、とりあえず一番聞きたい事を最初に聞く事にした。
「一人余ってるのなら三人一組っていうのは出来なかったんっすか?」
「薺さんのタビアをよく知る人物がいなかったんだ。ほら、班になって行動する時はコンビネーションが必要だろ? 彼女から具体的な説明をもらうっていう事も出来たけど。もし、遭遇してしまったら実際に合わせた事ない者がいると連携が噛み合わなくなり、必ずと言っていいほど負ける。さらに敵はテログループだ。負けたらどうなるか、想像がすれば分かるだろ?」
「なるほど、それは分かりました。で、何故自分に?」
度会の説明に満足した京也はそれを踏まえた上で次の質問に移った。
「それは君が唯一薺さんと組んだ事があるからだよ。確か、最初の授業でペアになったんだよね?」
「はい」
度会の確認に薺が返事をする。
「それだったらずっと一緒にいた蘿蔔 和葉と蘿蔔 美桜がいるじゃないですか」
京也はもっともな提案をする。確かに京也は学園内で唯一薺とペアを組んで戦った事のある人間だ。だが、薺のタビアの理解度で言ったらずっと一緒にいた、和葉と美桜の方が高い。京也にする理由など無いはずなのだ。
「俺もそう思ったんだけどね、そしたら学園長が……」
「僕が君を推薦したってわけだ。あの約束、忘れたわけじゃ無いだろ?」
「……はあ、分かりました。じゃあやらせて頂きますよ」
しばらく考えて、京也は仕方ないという雰囲気を出しながら了承した。
「ありがとう、そう言ってくれると思ってたよ」
「それで、何をするべきなんすか?」
「そうだね、それを今から説明するよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます