第14話呼び出し

「襲撃の仕方?」


「そう、『百鬼夜行』が襲撃した所は必ずと言っていいほど怪我人が出ねぇんだ」


「何で?」


 和葉が当然の疑問を口にする。まず、軍の施設ならばいつどのタイミングでも警備は少なからずいるはずだ。そこに襲撃するとなると必ずその警備と戦う羽目になるし、その時点で怪我人が出ないという事には矛盾が出てくる。


 戦うとなればどちらかが倒れるまでやるもので、ましてや襲撃となれば警備隊が逃げるのはありえない。襲撃者が逃げるというのも考えられるが、百鬼夜行は襲撃を成功させているのだ。その時点でどちらかが逃げたというのは無理がある。


「いや〜、そこら辺は俺も分かんないんだけどさ、何かリーダーのタビアが相手を傷付けずに無力化するものらしい」


「肝心な所が抜けてるんだね」


「しょうがねぇだろ? そこまで情報が集まらなかったんだから」


「いや、しょうがなく無いよ」


 肝心な所が抜けている事を責める美桜に楽斗は言い訳をする。


「ていうか軍人を傷つけないって襲撃する意味なんてあんのか?」


「そこは武器とかを壊してるんじゃないのか?」


「正解♪」


 京也の疑問に和葉が少し呆れるように答える。少し考えれば分かる事だったのだが、京也にはその考えるという行動が面倒くさかったらしい。


「ふ〜ん、で、その情報はどうやって集めたんだ?」


「そこは企業秘密だな♪」


「……お前、それ本当に大丈夫なんだろうな」


「ん? 何が?」


 突如何かを心配し出した泡島に楽斗は何の事かと問う。


「いや、その情報収集だよ。お前が捕まんのは勝手だけど頼むから俺らを巻き込むなよ」


 少し薄情な気もするが、楽斗の勝手な行動で巻き添えを食らうのは京也も泡島と同意見だった。


「大丈夫大丈夫、法にはギリ触れてねぇから♪」


「本当に大丈夫かよ……」


「そんな心配すんなって、心配してもしゃあねぇだろ」


「それもそうなんだけどよ、はぁ……まあ、いいや」


 どうも軽く返してくる楽斗に泡島は諦めがつき、これ以上質問しない事にした。


「そういえばこの学園が襲われるかもしれないんでしょ? だったら何か対策とかしてないのかな」


 思い出すかのように美桜は聞く。楽斗の情報収集の事から目を背けたいがゆえの質問だったのだろうが、確かにそこは気になる所だ。ここ、鳴細学園が襲われるかもしれないと分かっているのに、"奇術師"と謳われる林道が何もしないというのは考えにくい。何かしらの対策をしているはずなのだ。


「ああ、そこは風紀委員と生徒会を集めて何かやるらしいぜ。そこら辺は薺さんから聞いて無いのか?」


「いや、全くだね。私達は凛の付き人ではあるけど風紀委員の人からしたらただの部外者だし」


「なるほど」


 風紀委員である薺の付き人である和葉に聞いた楽斗だったが、どうやら彼女達も何も聞かされていないらしい。


『風紀委員より連絡です』


「おっ、珍しいな」


「確かにね」


 突如鳴った校内放送に泡島は珍しいと声に出し、それに和葉も賛成する。


 それもそのはず、ここ鳴細学園では全ての連絡事項は電子手帳で送られて来て、それだけで何不自由していない。その為、校内放送は使われる事があまり無く、あるとしたら生徒の呼び出しぐらいなのだ。


『一年三組 薺 凛、同じく一年三組 氷室 京也は放課後、学園長室に寄ってください』


「おっ、なんかやらかしたのか?♪」


「まさか、凛様に手を出したんじゃ」


「だったら呼ばれてるのは二人じゃなくて俺一人だろ」


 変な誤解を生もうとしている楽斗と美桜に京也は呆れながら訂正する。


「心当たりはねぇんだよな?」


「ああ、これっぽっちも」


「じゃあ、何でだろうね」


「それが分かれば苦労しないんだけどな」


 京也が何かやらかしたのではないかとちょっと嬉しそうに言う楽斗と、京也に懐疑的な目を向ける美桜を他所に、泡島と和葉と京也は呼び出しの理由を考えた。


「ま、考えてもしょうがねぇって♪」


「……はぁ、それもそうだな」


 相変わらず何故か嬉しそうな楽斗を少し見て、京也はつっこむのに疲れながら放課になるまで待つ事にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「氷室さん、何の用だと思います?」


「さぁな、俺もさっぱりだ」


 授業が終わり、楽斗達と別れてから学園長室に向かった京也は薺と合流していた。

 鳴細学園は七階建てで、京也達の教室は三階、学園長室は七階。移動手段が階段しかない為面倒くさいと京也は思ったが、風紀委員に呼ばれては行く他無い。


「なあ、何で俺にそんな親しくするんだ?」


 たまに来る静寂が耐えられなくなり、京也は質問を投げかける。


「? それは和葉ちゃん達もだと思いますけど」


「いや、そんなんだけどよぉ。お前にも聞いておこうと思って」


「なるほど、分かりました。……私は単純に話したいと思ったから話しているんです」


「それはいつもお前の周りにいるような奴らと話す時とは違う感情なのか?」


「いえ、あの方々も私に話しかけて来て下さっているのでとても嬉しいです。ただ……」


「ただ?」


 少しもったいぶっている薺に京也は続きを促す。


「少し、遠慮されてる様な感じがあるんです。何というか……近づきたいけどあまり近づきすぎると痛い目を見るってみなさんが思っている様な、皆さんが何かに怯えている様な感じがするんです」


 その言葉を口にした瞬間、薺の顔が少し曇った。少し距離を置かれているという認識があってもそれをいざ口にすると現実味が増して来て、嫌な気持ちになるのだろう。


(なるほど、本人も多少は気づいている訳か)


「ですけど、氷室さんの場合それが全く無いっていうか、おそらく元から私の事を知らなくてとても無知な方なのでその何かに怯えてないんだと思うんです」


「お、おう」


 再び毒舌を吐いた薺に、京也は少したじろぐ。


「とても話してて……心地がいいんです」


「そうか」


 少し恥ずかしい台詞をはいた薺に京也はなるべく平常心を保ちながら答えた。だが、どうも気まずくなりすぐに顔をそらす。

 薺も言った側から恥ずかしくなってしまったのか、赤くなった顔をうつむかせている。

 そしてそんな微妙な雰囲気の中、二人は学園長室への階段を上がった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それからしばらく経ち、二人は学園長室の前まで来ていた。何とも大きい扉でとても威圧感がある。一般の生徒なら入るまでに少し悩む時間を有しただろうが、二人はそのくらいでは腰は引けなかった。


「それじゃあ、入るか」


「はい」


『失礼します』


 京也の合図と共に入った二人を待っていたのは自分の執務机の上で腕を組んでいた林道とその横で立っていた眼鏡をかけている、背丈が百八十センチくらいあり、がたいがそこまで無い割には何故か威圧感のある青年だった。


「いやぁ、ご苦労様、疲れただろうそこのソファに座っていいよ」


 そう言われ、京也と薺は林道の指したソファに腰をかけた。


「それでは早速本題に入ろうか」


 そして二人が腰をかけるのを見るやいなや、林道が話を切り出した。


『分かりました』

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