第13話事件の前兆
三十分後、実践演習は終わり、生徒は全員第二競技場の前で若宮の話を聞いていた。
「今回、授業時間の関係上最後まで出来なかったが一応生き残った組とその順位を発表する。ちなみに言っていなかったが、順位は倒した人数によって決定づけられる。まずは残った組だ、残っていたのは佐伯 楽斗と泡島 奏基のペア、
『パチパチパチ』
六人の名前が挙げられるのと同時に拍手が起こった。
「次に順位だな、まず三位が撃破数二で蘿蔔 和葉と蘿蔔 美桜のペア、つぎに二位が撃破数三で佐伯と泡島のペア、そして最後に一位が撃破数五で氷室と薺のペアだ。これも言い忘れていた事だが、授業のこの順位は決戦制度のポイントにも影響してくる。今回あまり良く出来無かった奴も次は励めよ、それではここで解散とする」
そう言い残し、若宮は生徒を後にした。ここ鳴細学園では、実践演習の次の時間は大抵休憩として空いている為、生徒はそこで反省などをする事になっているが、何せ初めての実践演習の為、興奮で誰もがそんな場合じゃ無かった。
「いや〜流石だよ薺さん」
「本当にね、まさかあんな攻撃手段があるなんて思わなかったよ」
若宮に解散と言われると、生徒は一斉に薺の元へ集まった。前から思っていた事だが、彼らは薺の名前を呼ぶ時『さん』付けになるらしい。どうやら和葉の言っていた距離を置いているとはこういう事なのだろう。
「相方の人も薺さんが相方でラッキーだったね。あんまり役に立たなかったでしょ」
「いえ、決してそういうわけでは」
京也に対して失礼な事を言った生徒に薺は急いで訂正に入る。いくら薺が戦闘の大部分を担ったとはいえ、今のは流石にひどいと思ったのだろう。
「お前、結構な言われようだな♪」
「うっせーよ」
「で、タビアについてはどこまで説明したんだ?」
「とりあえず基本的な事だけな」
京也のタビアは"
何故なら範囲がたったの一、五メートルだからだ。一、五メートルだと、冷気を操つり氷を作ってそれを飛ばしても大した威力にならないし、かといってあたり一帯を氷漬けに出来るというわけでもない。つまり役立たずという事だ。
そう、京也が薺に説明したここまでの情報だけなら。
「なるほどな。で、あっちはどうなんだよ?」
「あっちって何だよ」
楽斗が何を言いたいのか分かっていながらも、念の為に京也は聞く。
「何言ってんだよ、分かってんだろ〜? 薺さんとはどうなったんだよ♪」
「どうもこうもねぇよ。別に普通だっつうの」
「本当か?」
「本当だ」
何故か懐疑的になる楽斗に京也はついイラッと来てしまう。そもそも、質問がおかしい。彼らが先程までやっていたのは実践演習であって別に馴れ合いを目的とした物では無い。確かにペアを組んだ事でそれなりに仲良くはなるかもしれないが、急に仲が発展するはずが無いのだ。
「よっ、おつかれ」
「お〜、おつかれ」
そんな会話をしていると、泡島が京也達の方へ寄って行った。
「あっ、俺、
「俺は氷室 京也だ、よろしく」
昨日の時点で名前は知っているが、初めて喋るという事で、互いに自己紹介をした。
泡島は中背中肉でツンツン頭にヘアバンドを随時巻いている。何故ヘアバンドをいつもつけているのか、誰も聞けていないそうだ。
「そういえば、結局相棒達とは会わなかったな〜」
「タビアで索敵はしてなかったのか?」
「いや、したんだけどよ。ほら、俺の索敵って音を探すやつだろ? 誰かがいるって事は分かってもそれが誰なのか分かんねぇんだよ」
「あ〜、それな。俺もお前らとやりたかったよ」
「何で?」
「え、いやだって楽斗から聞いてたぜ、薺さんだけでなくお前も結構やるって」
〔いや、タビアの事は何も言ってないって〕
〔本当かよ〕
泡島から話をして聞いてすぐ楽斗を睨みつける京也に楽斗は急いでテレパシーで補足を付け加えた。
「は〜、私達も凛とあんたとやりたかったよ」
そう言い、近づいて来たのは少ししょんぼりしている和葉と美桜だ。
「ほんとだよ! そしたらこいつの無能さを凛様に伝える事が出来たのに!」
「えぇ〜と、何の話?」
「いや、こっちの話だから気にしなくていいぞ」
しょんぼり、というよりは怒っている美桜に楽斗は質問したのだが、返答したのは和葉だった。
「な、お陰でお前らと二回も戦う羽目になったよ」
「いや、そもそも二回も戦う羽目になったのは一回目であんたらが撤退するからでしょ」
「仕方がねぇだろ、他のペアが寄って来てたかもしれねぇんだから」
自分達が撤退した事について責められた楽斗は自分の意見を述べる。
「な? だから俺も言ったんだよ引く必要なんかねぇって」
「全く……これだから男子は」
「あれ? それってもしかして俺も入ってる?」
泡島というよりは男子全体を責めた美桜に楽斗はつっこみをいれて行く。
一方、集団戦闘の時の話で盛り上がっている四人とは裏腹に取り残された京也はどうすればいいか分からずにいた。
「ったく……勘弁してくれよ」
困った京也は空を仰ぎながらそう呟いた。
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集団戦闘の授業から一週間が経ち、クラスではある程度の人間関係が築かれていた。
「なぁ、お前ら最近この学園の周りにある軍の施設が襲われてるって事件知ってるか?」
「あ〜、俺も知ってるぜ。よくニュースになってるよな」
急な楽斗の質問に泡島が答える。
「でも、ここら辺とまではニュースで言ってなかった様な気がするけど……なぁ、美桜」
「どうせ調べたんでしょ」
「正解♪」
そして、人間関係が築かれているというのは京也も同じだ。今、京也の周りでは楽斗、泡島、和葉、そして美桜の四人が最近いろいろな所で話題になっている襲撃事件の事を話している。
自分に友達は必要無いと京也は散々言っていたのだが、全員、お前には必要なくてもこっちには必要だ、というスタンスで京也の周りにいつも集まっていた。
もちろん薺が人気なのは変わらずで、依然としてすごい数の人が周りにいる。お陰で付き人である和葉と美桜が近づけない程だ。
「それでさぁ、噂だとこの学園も狙われてるらしいぜ」
「え、何で?」
「何かここにしか無い情報を狙ってるとかでよ〜。ここを襲撃する為に周りにある軍の施設を狙ってるって噂だぜ」
和葉の疑問に楽斗待ってましたと言わんばかりの表情で答える。
「それで、お前の事なんだからその犯人まで分かってんだろ?」
流石に一週間もこの状態が続き、離れさせる事に諦めがついた京也は普通に会話に入る。
「おっ、流石は相棒だな、そこまで見抜くなんて。まぁな、犯人はテログループ、『
「その手がかりって?」
京也の質問に楽斗が鼻を、ふふん、と鳴らせながら続ける。
「襲撃の仕方だよ」
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