第12話集団戦闘③
「見ぃつけた♪」
そう言い楽斗は後ろにある茂みを向く。和葉と美桜の場所を把握したのだ。
「くっ、"
自分達の居場所がバレた事を悟った美桜はすかさず炎を放った。
「甘いね、"
しかし、その炎は楽斗のタビアによって止められてしまう。楽斗は音の振動を使い炎を防いだのだ。
「美桜、出して!」
「分かってる!」
美桜の炎が止められたのを見て、和葉が美桜に炎を出すよう言う。和葉のタビアは"縦横炎"、今ここには炎が無いため、美桜に炎を出してもらい、それを操るしか無いのだ。つまり自由に炎を出せる美桜がいないとかなり弱い。
しかし、
「おいおい嘘だろ」
美桜から出された炎がみるみると大きくなり、最終的には半径五メートルぐらいの炎球になった。呆気に取られた泡島は思わず口を開けて、アホ面になってしまっている。
逆に言えば美桜がいる限り、和葉は強いという事だ。
「なるほど、流石は薺 凛のお付きってわけか。こりゃあ簡単にはいかねぇな」
楽斗も見つけた時は割と余裕そうな表情をしていたが、今ではその面影は無くいつも見せていた笑顔も消えている。
「いくぞ、"
「まじで?」
炎の球から無数の赤い、竜巻の様な物が伸びる。それに圧倒されたのか、泡島は声に出しながら驚いた。だが、驚いてる暇は無い。泡島はすぐさま後方へと飛んだ。
「"
和葉に続き美桜も炎を口から出す。
「"
美桜から出された炎を楽斗が止める。双方ともタビアを隠す余裕が無いのだろう、技を惜しげも無く使っている。
音響壁とは音の振動を使い、相手の攻撃を止める技、空気を揺らしている為、固形物よりも美桜達が扱っている炎の様な無形物に効果があるのだ。
「いけっ!」
そして、楽斗が美桜の技で手一杯なのを見るやいなや、和葉も竜巻のうち、二つを楽斗に向けて放った。
「奏基頼む!」
「分かってるって、"
楽斗を襲うかと思われた竜巻は突如生じた爆発によって止められた。泡島のタビア、"爆泡"は彼が薺に伝えた能力だけが技の全てでは無い。寧ろ、作り出した泡を自由に爆発させられるというのが強みなのだ。
「くそっ、じゃあこれなら!」
和葉がめげずに竜巻を楽斗目掛けて放った。今回は二つでは無く、作り出した竜巻のうち二本だけ自分の周りに残して他全てを。しかも今回は一方向だけでは無く後ろからも回り込む様に。が、
「甘いな! "
「何っ!」
それは再び泡島によって止められた。後ろに回り込ませた物も全て、なんと泡島はもう既に自分の周りを全て泡で囲っていたのだ。恐ろしい程の準備の早さに和葉はつい驚いてしまう。
「甘いね、いつでも奇襲を受けてもいいようにちゃんと準備はしてあるんだよ。奏基もそういう事はちゃんと理解してる。こういう戦闘では常識だろ?」
「遠回しに私達はそういう常識がなってないと言いたいように聞こえるけど」
「おっと、そう聞こえたんだったら。ま、そういう事だね! "
和葉達を少し挑発した後、楽斗は後ろに音の爆発を作り、和葉達に飛びながら接近する。見た所彼女らのタビアは中〜遠距離型、間合いを縮めればいいと判断したのだろう。その勢いのまま竜巻を二本しか残していない和葉へと襲い掛かる。
「"
しかし、楽斗の見解は見事に外れた。突如炎を纏った美桜の両腕に阻まれたのだ。
「なるほど、さっきの咆哮とやらは近づけさせる為の布石ってわけか」
「そうよ、見事にはまってくれてありがとっ!」
「どういたしまして!」
自分を殴ろうとした美桜の右腕を楽斗は後方に飛びながら避ける。
「"
『パチン!』
後ろに下がった楽斗は指を鳴らす。その途端に、辺りにフィンガースナップの音が鳴り響く。自分のフィンガースナップの音の大きさを調節したのだ。
その音は一時的に美桜と和葉の動きをかなり鈍らせた。
「くっ、"
「やらせない!」
そして泡島が美桜の近くで爆発させた泡を、和葉が怯みながらも残していた二本の竜巻で覆う。
その隙に楽斗も泡島の元へと下がった。
「お前今のやるなら合い図とか送れよ! こっちも耳が痛くなるわ!」
「悪りぃな♪ さぁてと、立て直しだ」
先ほどのフィンガースナップに対して泡島が怒る。確かに敵を怯ませるには効果的でかなり強力な技だが、味方にも影響が出るという難点があるのだ。
「なかなかやるね、あんたら」
「そりゃどうも♪」
褒める和葉に楽斗は少し上機嫌に言葉を返す。
〔どうするよ〕
〔正直ここまでやるとは思ってなかったな。奇襲の手際からしてそこまでじゃ無いと思って担だけど、奇襲は慣れてないから出来なかったってだけみたいだな〕
楽斗が泡島にタビアを応用したテレパシーで話しかける。どうやら泡島は割と楽に倒せると思ってたらしい。だが、それも無理は無い。和葉と美桜の奇襲は素人同然だったが、その代わり戦闘においては正直勝てるか怪しい所だ。
〔一旦下がるか?〕
〔お? 急に弱気だな〕
いきなり撤退を提案する楽斗に泡島は少し驚く。
〔違ぇよ、奇襲を受けてた時点でもうこの勝負は俺らが有利にはならねぇよ〕
〔でも今は先手を打ててるぜ?〕
確かに奇襲を受けはしたが、今この状況では楽斗達の方が先手を打って、和葉達が後手に回っているという感じだ。わざわざ撤退する程の理由が見当たらない。
〔まだ次があるんだ、もっと有利な場面で戦えばいいだろ。それに多分だけど多数の組がここに寄ってきてるぞ〕
恐らく楽斗はこの戦闘の音で他の組が奇襲をかけに寄ってきているのではないかと危惧しているのだろう。
〔……ま、それもそうだな〕
少し考えた後、泡島は楽斗の意見に乗る事にした。
「悪りぃな、とりあえずここでおしまいだ。じゃあな」
「なっ、待て!」
「"
止めようとした和葉だったが、泡島が泡を爆発させ、煙が舞っている間に二人の姿は彼女達の目の前から消えた。
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「氷室さん、あなたは何故この学園に入学しようと思ったんですか?」
「どうしたんだよ急に」
タビアの打ち合わせをある程度済ませた京也と薺は周りを警戒しながら移動していた。
突然の質問に京也は少々構えてしまう。
「いえ、氷室さん一見何も目的なさそうじゃないですか。ここって何か目標があって入学する所ですし、ある程度覚悟も必要なわけじゃないですか、別に普通の人間としての生き方もあるわけですし」
そう、実はタビアの力を持った人間でもそれを隠して生きる人間も多数いる。理由は様々ではあるが、一番多いのは戦闘が嫌だという理由だ。
ソーサラーとして生きて行くのであれば、少なくとも一回は戦闘に巻き込まれる。それが嫌な人間が次々とタビアの事を隠し、普通の人生を何とかして歩もうとするのだ。
「お前・・何か心にグサッと来るよな。まあ、俺のは秘密だ」
再び無意識でキツイ事を言った薺に少し傷つきながらも、薺の問いかけを流した。
「何ですか、それ。パートナーなのに秘密って事ですか。あの佐伯って方にはなんでも言うのに」
「いや、別にそういうわけじゃないんだけどよ。ていうか、何でそこであいつの話が出てくるんだよ」
頰を膨らませ、少し嫉妬気味に言う薺を京也は宥める。
「それよりもお前はどうなんだよ?」
「え、私ですか? 私の質問に答えてもらっていないのであまり答えたくないのですが・・私の理由は至極単純ですよ。それはこの国をより良い物にしたいからです。氷室さんはこの国でのソーサラーの扱いについてはご存知ですか?」
「まあな、少し迫害されてるって事しか知らねえけど」
「はい、その通りです。今この国ではソーサラーがその能力が故に除け者扱いされています。特に軍事的に利用価値があるのでタビアを使える事を隠さないと自然とそういう道に進まされてしまうんです。
普通の人生を歩もうとする事も可能ですが、それもそれで難しいのです。そして、私はそれがどうしても許せません。なので私は偉くなり、この国のソーサラーの価値を根本から変えようと思ったというわけです」
「なるほど、あいつと同じか」
「ん? あいつ?」
「いや、こっちの話だよ。それよりも行くぞ」
「はい!」
蔑ろにされて一々喜ぶような仕草を見せる薺に、そういう趣味があるのかと一瞬思いながら京也はその変な考えをすぐに頭から消し、気にしない事にした。
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