第11話集団戦闘②
「"
京也が氷の壁で光の矢を止める。新海を止めた時と同じ、小さく分厚い壁だ。
「くそっ!」
「落ち着けっ! もうやるしかない」
奇襲に失敗した、恐らくタビアを発動した方の少年は大きく悪態を吐いた。先程の奇襲で必ず成功させるつもりだったのだろう。それに比べて、眼鏡をかけている相方は随分と冷静だ。もともと今の奇襲で決まるとは思っていなかったのだ。
「どうする?」
いきなり現れた敵に少し動揺しながらも京也は薺に聞く。この、どうするはそれほど単純に片付けていい物では無い。何故なら、二人は互いのタビアをいまいちよく把握していないからだ。京也は模擬戦で見ただけであり、薺に至っては技の一つである氷壁しか知らない。今連携を取ろうとすると必ず失敗すると言ってもいい状況に二人はいるのだ。
「私がやります」
「……分かった、じゃあ俺は"
そういう事を考慮してか、薺は自分一人でやると言い出した。連携して失敗するよりは一人でやって不利な方がいいと判断したのだろう。京也も、最初は一対二では不利だと言おうとしたが、薺の判断がこの場では一番正しいと考え薺に乗り、彼女が唯一知っている氷壁でサポートする事にした。
「一応聞くけどあいつらのタビアは?」
「いえ、知りません」
「了解、じゃあ行くぞ」
しかし、行くぞ、と言った京也も、薺も、京也達を襲った二人も動こうとはしない。まだ、互いのタビアを把握出来ていないからだ。
襲って来た二人は薺のタビアを噂では知っているはずだが詳しくは知らないし、まだ素性の知らない京也も警戒しているのだろう。京也と薺も相手の片方が光の矢を出す事が出来るという事しか知らない為、むやみに動けない。
「"
このままずっと続くと思われた睨み合いは、最初に仕掛けて来た方の少年が技を仕掛けた事によって動いた。先程と同じ光の矢だ。
「"
それを京也は再び氷壁で止める。先程受けてみて分かったが、この矢にはあまり威力がないようだ。
「薺さん!」
「分かってます! "
光の矢を止めた京也は薺に攻撃するよう促す。そして、薺が出したのは炎で作られた鞭だ。赤い鞭の周りに炎がとぐろ状になっている。今まで見たことのない技だから分からないが、当たればかなり痛そうだ。
「いけっ!」
薺はそう言うのと同時に炎の鞭を眼鏡を掛けている少年目掛けて伸ばした。
「くそっ、"
自分目掛けて伸びて来た鞭を眼鏡を掛けている少年がタビアを使い空気の円盤を作って止める。今の攻撃は止められたが、お陰で眼鏡をかけた少年のタビアがどのような物なのかは分かった。恐らく、空気を固くする類の物だろう。
そして眼鏡を掛けた少年も自分のタビアがバレる事を悔やんだのか、悪態を吐きながらタビアを使った。
だが、さっき防がれた反動で鞭を持っている薺の腕も上を向いている。これでは次の攻撃まで隙が生まれる。そう思っていた京也だったが、
「まだまだです!」
薺はそう言いすぐさま右手にあった鞭を左手に持ち替え、反時計回りに回転しながら鞭を二人の少年目掛けて振り下ろした。眼鏡をかけた少年のタビアが判明した事で、安心して攻撃していいと判断したのだろう。
「うわっ!」
その間髪入れない攻撃に反応出来ず、二人はもろにその攻撃を喰らう。攻撃をした後に鞭を持っていた腕が上を向いていたため、すぐに攻撃が来るとは思っていなかったのだろう。ここは、流れるような攻撃をした薺に軍牌が上がった。
『
そして、女性の声がするのと同時に二人の姿は薺と京也の前から消えた。若宮が言っていた、強制退場がされた証だ。どうやら一撃喰らっただけで強制退場の様だ。一つ一つのバトルはとてつもなく短くなるが、たった一時間しかない中でこんな大掛かりな実践演習をやれる理由が分かった。
急に緊迫状態に入り、そこから解放された京也はとりあえず一呼吸置いてから薺に話しかけた。
「ふぅ、やったな、ナイスだ」
「氷室さんも、最初のも合わせて援護ありがとうございました」
褒められた薺も京也に助けられた事に対してのお礼を言う。確かに、最初の攻撃に薺は気づけていなかったもし京也が止めていなければあそこで、薺はアウトだっただろう。
「まあ、とりあえずお互いのタビアを整理しとくか。さっきみたいになるのも困るし」
「そうですね」
そして二人は周りを警戒しながらお互いのタビアの確認を始めた。
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「ほんとに信じられない! 何であんな野蛮な男に凛様を任せるなんて言うの? もし凛様に何かあったらどうするつもり?」
「まあまあ落ち着けって。少なくとも野蛮ではないだろ」
薺を京也に任せた事に対して激昂している美桜を和葉が必死でなだめる。そもそもちゃんと美桜に相談しなかった和葉が悪いのだが、その事を報告してこの有様じゃあ、もし相談していたら話し合う前にすぐ拒否されていただろう。
「でも私たちが一緒にいた方が凛様も安心するに決まってるじゃん」
「う〜ん、それはどうかな」
必死に美桜を宥めていた和葉が美桜と違う意見を述べた。恐らくそこは譲れなかったのだろう。
「どういう意味?」
「いや、だってさ。凛が友達作れずにいるのはいつも私達が周りにいたっていうのも一つの理由なわけだろ? だったら一回私達から離れて誰かの側にいた方がいいんじゃないかって思ってね」
「それなら何であんな男なの?」
それは確かに疑問だった。和葉が言っている事には一理ある、和葉達が周りにいればいるほど、それだけクラスメイトとの距離は遠くなってしまう。だが、だからと言って何故その相手が京也になるのだろうか。
確かに、薺に唯一気を使っていないというのはある、そしてそれは薺にとっても大事な事だ。だが、ただそれだけなら探せば他にもいたかもしれない。決して京也にしなければならなかった理由などないのだ。
「まあ、ちょっと氷室って苗字に引っかかっちゃってね」
「ふぅ〜ん、あっそ」
よく意味の分からない和葉の答えに美桜は少し不満気に返事をした。
「ちょっと待って」
何かを見つけたのか、和葉が急に美桜に止まるよう言った。
「どうしたの?」
「誰かいる……あれは」
そして、和葉はすぐに身を隠しながらあるその方向を見た。
「さぁてと、どうすっか♪」
「とりあえずは索敵だろ。お前のタビアで頼むよ」
「了解♪」
和葉が見つけていたのは楽斗と泡島のペアだ。京也によると楽斗のタビアは索敵にも長けている万能型、このままでは見つかってしまうが、和葉には楽斗のタビアを知る術が無い。
「どうする?」
「どうするってこのままちょっと過ぎてから奇襲するしか無くない? ここじゃあちょっと不利だよ」
「だね」
そしてよりにもよって彼女らが出した選択はとりあえず待つというものだった。楽斗のタビアを知らないから仕方がないが、正直愚策だ。
薺には実戦経験があるらしいが、彼女らには無いのだろうか。奇襲をかけるのであれば見つけた直後の方が良かった。何故なら、相手に気づかれている可能性があるからだ。
そして……
「見ぃつけた♪」
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